北海道発の演劇ユニット「TEAM NACS(チーム・ナックス)」でリーダーとして活動しつつ、テレビや講演などで農業の大切さを広めている森崎博之さん。2月から開催されるソロプロジェクト公演「Hiroyuki Morisaki AGRIman SHOW」でも「農業をエンターテイメントに!」をテーマに、1人芝居やイリュージョンなどさまざまな表現で農業を紹介する。「北海道の農業応援こそが、自分が選んだ道だよな、という確固たる信念ができました」と語る森崎さん。かつては俳優として活躍するメンバーたちに対して「プラスの意味での劣等感」があったというが、今は「それを払拭(ふっしょく)してくれたのが、北海道の農業の応援だった」と独自の道を見つけて活躍する森崎さんに、農業への思いやショーの見どころなどを聞いた。
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TEAM NACSは森崎さん、安田顕さん、戸次重幸さん、大泉洋さん、音尾琢真さんらの人気演劇ユニット。「Hiroyuki Morisaki AGRIman SHOW」は、同ユニットが2011年に行ったソロプロジェクト「5D-FIVE DIMENSIONS」の第2弾「5D2-FIVE DIMENSIONS Ⅱ-」のひとつ。メンバー5人がまったく異なる5つの演目を順に上演し、ユニットの5D(五次元)という多面性を表現する。今回トップバッターを務める森崎さんが目指すのは“日本一見やすい農業ショー”。農業食育番組「あぐり王国北海道NEXT」(HBC)などに出演し、農業に精通している森崎さんだからこそ実現したエンタメショーだ。“尖(とが)った”企画だが、これは前回の「5D-FIVE DIMENSIONS」を終えたときの思いが背景にあるという。
「前回も僕がトップバッターで、TEAM NACSが2004年に上演した『LOOSER』というお芝居をリメークした舞台をやりました。でも、他のメンバーはコントをするやつがいたり、一人語り、ワンマンショー、なぜかロックバンドをやるやつがいたり……『なんじゃそりゃ』って(笑い)。振り返ってみると、僕はまとまったことをいつもと同じような感じでしてしまったのかな……と。次があるなら『もっと尖ったことをやりたいぞ』と思ったんです。それで、大泉(洋さん)がやったワンマンショーをもじって『AGRIman SHOW』。今回はトップで、誰よりも尖っていきたい。『トップバッターにこんなに尖られたら、後に続くお前たちは大変だろう』という5Dにしたいなと思いました」
農業をテーマにすることは、農業番組のMCを務めている森崎さんにとって自然な選択だった。毎週北海道各地を取材してまわる生活を15年間続けている森崎さんは「農家さんへの尊敬の念を持って、多分誰よりも食べることについて考えて、表現しようとしているのが僕だと思うんです」と力を込める。
「今までにやってきたバラエティーの要素とか、いっぱい学んできた農業のうんちくとか、いろいろなものを織り混ぜながら、集中して見てもらえるエンターテインメントに昇華させたいんです。1人芝居では、ぐっと観客の心をつかんで。TEAM NACSの芝居では言ったことがないんですが、今回は泣いていただきたい。出し惜しみせずに、これまでのスキルを全部出したいし、尖った方向に行きたいと思っています」
1人芝居は森崎さんにとって初の挑戦。扱う内容は、これまでに取材で目にしてきた事実も基にしている。「農業って家族経営が多いんですよね。そこにあるのは、親と子の確執とか、代替わりとか、農業を始める人や辞める人などのお話があって、ほとんどが美しい話です。暗くて眉間(みけん)にしわが寄る話ではなく、みんなが笑顔になり、心を打たれて感動する話がたくさんある。そういったものを何本か、人生で初めての1人芝居で、オムニバスで紹介したいなと思っています」と構想を明かす。
ショーでは講演、1人芝居に加えて“野菜マジック”も披露する。“日本一ゆかいな農業ショー”と語る通り、エンタメ感あふれる構成で、これも「農業をオープンに紹介したい」という気持ちからだ。
「年間に多い年は4、50回ぐらい、北海道の農業を語る講演をしているんです。全国にも広がっているけど、講演会に来てくれる人というのは、もともと農業に興味がある人、農業を学びたい人で、ちょっとクローズだと思っていて。たとえば、5歳の子供やおじいちゃん、おばあちゃんが見に来ても楽しんでもらえるものをと考え、マジックできないかな、と思ったんです。僕は、ステッキをまずニンジンに変えます。で、ニンジンを燃やしたら、もっとでかいキャベツが出てくる(笑い)。どこまでいっても出てくるものは野菜。そんなマジックをしたい」と笑う。
前回の「5D-FIVE DIMENSIONS」から12年。この12年の間、森崎さん自身にも大きな変化が訪れた。そのひとつが「思い切って、札幌に家族5人で住む家を建てた」ことだという。家を建て、北海道をずっと拠点にしていくという勇気がついた、と森崎さんは明かす。
「こうしてときどき東京に来て、いろいろ番組に出してもらったり、ドラマや映画もありがたくやらせていただいたりはするんですけど、やはり両足をどんと土に置いて、その大地でやりたい仕事は、北海道にあるんだ、と。『北海道の農業応援こそが、自分が選んだ道だよな』という確固たる信念ができました。それまではなんとなくですけど、ひょっとしたら、他のメンバーに対して『俺はあまりみんなのように俳優はできないもんな』という劣等感(があった)。ただ、プラスの意味での劣等感です。やっぱり劣等感がないと成長はないので……。『なんとかしなきゃならない、超えなきゃならない』というものがあったんですけど、それを払拭してくれたのが、北海道の農業の応援だったんです」
北海道の農業を応援する、という仕事に出会い、新しい景色を見ることができた。森崎さんは、そんな農業への感謝も口にする。
「こういうものに出会えた喜びはありました。他のメンバーと同じフィールドで東京で俳優というお仕事を常にやっていたら、見えてこなかった景色なんじゃないかなとも思います。私の場合は、それを仕事にさせてもらい、今回のように表現させてもらえるのは、非常に恵まれているなと思います。僕は農業を応援しながら、すごく感謝もしていて。『こういう場所をくれて、ありがとう北海道、ありがとう農家さん』と思っています」
農業を応援しつつ、TEAM NACSのリーダーであり、俳優であり、脚本・演出家であり……とさまざまな顔も持つ。そんな森崎さんが、あえて自身に肩書をつけるなら? そう尋ねてみると、「今だと“北海道農業応援団長”。これが一番、誰が僕の名刺を持ったとしても、しっくりくると思います」と胸を張る。
そんな森崎さんの「人生の目標」は、北海道で農家を目指す子供たちが増えること。「将来の夢を教室にバーっと掲げた時に『北海道の農家になりたい』と書いてくれる子がたくさんいてほしい。それが僕の大きな野望なんです」と楽しそうに夢を語る。
リーダーを務めるTEAM NACSでは、“母親”のような役割だという森崎さん。「月に1回、レギュラー番組の『ハナタレナックス』(北海道テレビ放送)を撮りに(メンバーが)放送局に来るんです。その時に『お前たち、おかえり』と両手を広げて。“実家のお母さん”のような感じです。『よく来たな、バカバカしいことやるぞ』『見たぞお前、今年も頑張っていたな、お前を見ながら幸せな年越しが送れたぞ』と……。そんな役割じゃないかなと思うんですよね」と語る。
現在51歳。充実の日々を過ごす森崎さんは、「50代、楽しいですね、とっても」と笑顔を見せる。
「もう、無理をしない。苦手なことに着手して、自分のスキルを上げなきゃいけないという30代は、今思うとつらかった。今は、自分の得意なこと、好きなこと、無理しないでいいことが明確に見えていますから。あまりもがかなくても見せられるスキルが身についたので、無理せず、呼吸しやすいなって思います。『これだな、早く大人になれって言われてきたのは』という手応えを感じています(笑い)。50を超えたら、もういいだろって。苦手な酒を飲む必要もないし、行きたくない飲み会にわざわざ行かなくてもいいだろって(笑い)。おかげさまで、楽しく、のほほんと。現場に行ってもずっと笑っていますし、家でも相変わらず奥さんと夜中まで喋っていますから」
そう笑う森崎さんの50代の目標は?
「ソロでなら、やってみたいことがいくつかあって。この『AGRIman SHOW』でオフ・ブロードウェイに立ってみたいと、ちょっと思っています。TEAM NACSで海外、というのは目標にもしたことがないんですけど、これだったら海外でやれるんじゃないかなあ、と。大失敗して泣いて帰ってきてもいいですけど、1回やってみたい。やっぱりライフワークとして、ずっと見てきた“農業”というものがあるから。演劇ではとても『日本代表です』と言えないけど、農業だったら『農業を楽しく伝える人、日本代表です』は許されるかもしれないな、という思い込みです(笑い)」
「Hiroyuki Morisaki AGRIman SHOW」は、東京公演が2月18~26日にサンシャイン劇場(東京都豊島区)、大阪公演が3月11~12日にCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホール(大阪市中央区)、札幌公演が3月18~19日にカナモトホール(札幌市中央区)で開催される。チケットの一般発売は1月21日午前10時から。TEAM NACS公式サイト参照。