名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
藤子・F・不二雄さんの人気マンガ「ドラえもん」が原作のアニメの劇場版最新作「映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)」が3月3日に公開された。テレビアニメ「ドラえもん」(テレビ朝日系)の演出を数多く手がけてきた堂山卓見さんが、初めて「映画ドラえもん」シリーズの監督を務める。同作の舞台は「空」で、ドラマ「リーガルハイ」「コンフィデンスマンJP」などの古沢良太さんが脚本を手がけることも話題になっている。堂山監督は「映画ドラえもん」シリーズについて「時代によって求められるものが変わる」と感じているといい、制作では「『ドラえもん』らしさ」を追求し続けたという。制作の裏側を聞いた。
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最新作は、空に浮かぶ、誰もが幸せに暮らせて何もかもが完璧な理想郷・パラダピアを舞台にドラえもんたちが大冒険を繰り広げる。ひみつ道具の飛行船・タイムツェッペリンで空の旅へ出たのび太たちは、理想郷・パラダピアを発見し、何もかもが完璧なパーフェクトネコ型ロボット・ソーニャと出会う。しかし、楽園のようなパラダピアには大きな秘密が隠されていたことが明らかになる。
同作は、企画の初期段階から古沢さんが脚本を手がけることが決定していたという。
「特に近年、『映画ドラえもん』は、数年前では考えられないようなすごい方が脚本として参加されています。子供向けアニメをやられるイメージがない方も多いということもあって、アニメーションという媒体に落とし込んでいく、『映画ドラえもん』に近づけられる人ということで僕が選ばれたのではないかと考えています」
「映画ドラえもん」は、1980年公開の第1作「映画ドラえもん のび太の恐竜」から40年以上の歴史を誇る。堂山監督は、第1作が公開された1980年生まれで、子供の頃に初めて見た映画も「映画ドラえもん」だったという。
「『映画ドラえもん』のマンガ原作を何回も読んだ記憶があります。映画の『ドラえもん』は、普段とは違うところに連れて行ってくれて、ワクワクさせてくれる夢がある作品という印象が強いですね。アニメーション業界に入って改めて『映画ドラえもん』を見直したのですが、やはり歴史があるな、歴代の監督がいろいろ工夫されて今があるんだなと。歴代作品を見直す中で、時代によって『映画ドラえもん』に求められるものも変わってくるのかなとも感じました。その映画を見たら、その1年がこんな年だったと思い出せるというか。そうした歴史の重みを感じます」
「映画ドラえもん」シリーズと共に育ってきた堂山監督が、中でも印象に残ってる作品が、最新作と同じく「空」を舞台とした1992年公開の「映画ドラえもん のび太と雲の王国」だ。
「子供の頃、最後に友達と一緒に映画館に見に行ったのが『 のび太と雲の王国』なんです。だから、ものすごく印象に残っていて。雲の上に何があるんだろう?という楽しい想像ができる作品だったなと思いつつ、環境問題などすごく重いテーマが含まれている作品でもあるので、子供なりに感じる部分があったと思うんです。最後まで見て『こんな大変なことが世の中に起きてるんだ』と思いました」
最新作では、また新たに空を舞台としたストーリーが描かれる。舞台を空にした理由は何だったのだろうか。
「大きく影響しているのはコロナ禍です。制作が始まったのは2020年の初めで、マスクもアルコールも全然買えないような状況で、みんなこの先どうなるのか全く分からない、とにかく不安な状態でした。その上、行動が制限されて、もうすぐ夏休みが始まるという時にお子さんも外に出せない。そうした中で、開放感がある場所、自由度が高い場所を舞台にしたいという思いがありました」
コロナ禍で世の中に閉塞(へいそく)感がある中で、開放感のある空が舞台となった。最新作のキャッチコピーは「僕らの『らしさ』が世界を救う。」で、描かれるテーマも今の子供たちへのメッセージが込められている。劇中では「優等生に生まれたかった」というのび太が、大人はよく働き、子供はよく勉強する理想郷・パラダピアで孤独を感じる場面も描かれる。
「最初の企画会議で古沢さんが『今の子供たちって、ちょっと良い子すぎない?』とおっしゃっていました。今の世の中では、どうしてもみんなが同じようなものを求められているのではないかと。のび太くんはダメなところがいっぱいあるのですが、ダメな人は本当にダメなのか?と。古沢さんは『一人一人の個性を肯定できるような世界であってほしい』という思いを込めてストーリーを構想されていました。情報化社会の影響もあると思うのですが、コロナ禍になって人とふれ合う機会も減っている中で、余計に周りからの情報だけで判断するようになって、はみ出すような行動はできなくなっていると思います。そんな中で『誰にでもいいところがある』ということを表現する。それが作品としても、時代としても求められていることなのではないかと。『映画ドラえもん』でこのテーマを描こうとした古沢さんはさすがだなと思いましたし、僕たちはそれをどう表現するかを考えていました」
堂山監督は、絵作りにおいても「自分らしさ」「空」を大きなキーワードとしたという。
「『自分らしさ』というテーマにも直結する『光と影』の表現は大切にしました。『ドラえもん』はシンプルな絵柄なので、ほかのアニメーションと比べて絵における影の割合は少ないケースが多いんです。今回は『光があるところには影がある』ということを見せたかったので、影をしっかり付けることを意識しました。これぐらい強い光が当たっているから、これぐらい濃い影ができるという絵作りを意識しました。人間は誰しも、光が当たっている良い部分だけではなくて、その裏の影の部分もあります。ただ、どちらかを消したらいいということではなくて、両方あって初めて個性になる。それを映像的にもしっかり入れながら作っていきました。空に関しては、色の移り変わりを意識しました。シーンの雰囲気やキャラクターの心情によっても色を変えているのですが、空は見る人の心情によって受ける印象が変わるものでもあるので、どんなふうにも取れるような色合いや雰囲気を背景さんにお願いしました。どこの場面を見ても『やっぱり空はきれいだな』と思ってもらえるようにしたいなと考えました」
「のび太と空の理想郷」は、理想郷が美しく表現され、心躍るような空の冒険が描かれる一方で、シリアスな描写や、大人もはっとさせられるようなせりふも登場する。制作の中で、堂山監督が最もこだわり、苦心したのは「『ドラえもん』らしさを失わないこと」だった。
「一番難しいのは“『ドラえもん』であること”でした。こうした方が面白いのかもしれない、こうしたほうが格好いいのかもしれないけど、それは『ドラえもん』なのか?と。これまで『ドラえもん』を作ってきた方々がやってきたことと合致しているのか? それを逸脱してしまったら、どんなにいい表現をしても『ドラえもん』ではない。理想郷・パラダピアの造形にしても、これは藤子先生が考えられていた未来の世界観の延長線にあるんだろうか?と。デザインに関しては、テレビシリーズも映画も藤子先生の原作のデザインから外れないという大前提があります。ひみつ道具にしても、ドラえもんが子供たちに貸し与えられるような道具なのだとしたらどんなデザインなんだろうか、おもちゃっぽさという共通項があるんじゃないかと。今回、新たなひみつ道具として飛行船・タイムツェッペリンが登場します。飛行船も洗練されていくと、どんどん機械的になって、そういう格好良さも表現の一つとしてあるとは思うのですが、『ドラえもん』っぽい色、フォルムを大事にしました」
原作やこれまでの「映画ドラえもん」シリーズで描かれてきた「ドラえもん」らしさはもちろんのこと、ファンが抱く幾通りもの「ドラえもん」らしさもある。
「『映画ドラえもん』に求められるものはすごくたくさんの要素があって、子供から大人まで楽しめるものにするために何をしたらいいか?というと、答えがないんです。シリアスすぎてもいけないし、ちょっとゆるむようなところもないといけない、夢があるところも見せないといけない。そして、作品として描きたいテーマもある。スタッフと相談して、『ここの原作を読んでいるとこうなっているよ』とか『ほかの映画ではこう描いていたからこうだと思う』と話しながら、その都度判断して形にしていきました」
時代によってさまざまなメッセージを伝えてきた「映画ドラえもん」シリーズ。描くテーマは違えど、「ドラえもん」らしさは変わらない。堂山監督は、歴代作品がそうであったように「のび太と空の理想郷」でも「時代に寄り添う作品」を目指した。見る人の心にも寄り添ってくれるはずだ。
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