ささきいさお:魅惑の低音 スタローン吹き替えのバロメーターは「宇宙戦艦ヤマト」

ささきいさおさん
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ささきいさおさん

 アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌で知られ、歌手、俳優、声優などとして活躍するささきいさおさん。映画、ドラマの日本語吹き替え版の声優としても活躍しており、特に米俳優のシルベスター・スタローンさんの「ランボー」シリーズや「エクスペンダブルズ」シリーズの吹き替えが有名で、魅惑の低音を響かせてきた。WOWOWでは、スタローンさん主演の映画をささきさんの吹き替えで楽しめる「吹替で楽しむ!シルヴェスター・スタローン×ささきいさお」を3月21日に特集。1994年放送の「スペシャリスト」、1995年公開の「暗殺者」は、他局で放送時になかった場面を復活させ、ささきさんの吹き替えを追加収録した「吹替補完版」として放送する。「吹替補完版」の収録後、ささきさんを直撃。40年以上、吹き替えを担当してきたスタローンさんへの思いを聞いた。

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 ◇低音の難しさ

 「『勝利への脱出』からだから40年以上やっています。こんなに一人の役者を長くやるとは思わなかったですよ」と笑顔で語るささきさん。「スタローンの吹き替えの前に声を作る必要がある」という。

 「いつもだとスタローンをやるときは、もうちょっと騒いでからやるんです。収録の3日くらい前に、近所の人と酒を飲んで、騒いで、そうすると喉が広がり、低音の響きがすごく良くなるんですよ。やりすぎるとダメなんですけど。でも、最近はコロナの関係があって、あんまり飲みに行けませんしね。それでも3日くらいは歌の発声も含めてやっていました。あんまり喉を使っていないと、出なくなるんです。特にスタローンは下の響きがすごいんですよね。今回は昔の作品だからいいのですが、最近の作品はすごく低いですし」

 長年、吹き替えを担当する中で、スタローンさんの声の変化を感じてきた。

 「『ランボー』の『1』の時は、声を作りすぎずに、スタローンだったらこうしゃべるのかな?とやっていて、『2』『3』になると、体も声もすごくて、やっていて気持ち良かったんですけど。『4』くらいからスタローン独特の低さが出てくるんですよね。合わせるのに苦労してきました。『ラスト・ブラッド』なんて、最後がすごいですからね。やるからには近付けようとしているけど、スタローンも僕もキツくなってきました。スタローンもいろいろ工夫をしていますよね。声を変えていますから。スタローンは何を言っているか分からないせりふも多くてね(笑い)。面白い役者です。素直にキレイな芝居をあんまりやらなくて、ひねってきますし。二枚目でちょっと太めの低い声っていうのが合うんじゃないかな? ほかにも日本で吹き替えをしている方もいらっしゃいますが、やっぱりみんな低いですもんね。野太い声が合うんでしょう」

 ささきさんは低音、伸びのある美声が魅力だ。低音ならではの苦労もあるという。

 「低い声で躍動感を出すのが難しいんですよ。そこを工夫しています。僕は滑舌がよくないけど、米国人がしゃべっているような雰囲気に聞こえるのかもしれません。以前、そう言われたことがありました。僕はロカビリーからの洋楽育ちですし。洋画の吹き替えは独特なんです。外国人のリズム、洋画の雰囲気を出せないと、合わないと思うんです。それが収録の難しさです。ただ、今の若い人はうまいですよ。子供の頃から吹き替えを見て、育ってるから」

 難役ではあるが「『宇宙戦艦ヤマト』を歌って、音が出ていれば、スタローンは大丈夫となるんです」とバロメーターとなっている。

 「疲れてくると低音が出なくなる。人間は不思議なもんで、限界まで出してると、段々と限界のレベルが高くなる。最近また低音が出るようになってきたんです。ただ、一生に使える声の量は決まっていると思うんです。競走馬はいっぱい走った後に休むじゃないですか。それが大事なんです。2週間くらい、あんまり声を使わないようにして、また発声を始めると、よく声が出ることがあります。年中歌っていると声が出なくなるけど、僕は休んでいるからいいんですよね。歌の声帯と声優の声帯は使う場所が違うとも思います。以前、ディスクジョッキーで声が出なかった時、その後に歌のレコーディングがあったのですが、レコーディングができちゃったんですよ。不思議な経験でした」


 ◇吹き替えの魅力

 スタローンさんは何気なく立っているシーンでも存在感がある。その独特の存在感が魅力の一つになっている。

 「それをスタローンはやりたがるんです。いかにも芝居やってません……みたいなのが多い。何気ないのが難しいんですよ。何かやってくれてる方が当てやすい。あんまり何気ないと、物足りなくなって、ついやっちゃうんですよ。オーバーだと言われてもやっちゃう。英語は全部はっきりしゃべらなくても分かるけど、日本語はちゃんとしゃべらないと分からない。そういう違いはあるような気がします。それに、吹き替えだとどうしても息を多めに入れてしまうんです。後でカットしてくれればいいと思ってやるから、余計オーバーになるんです。カットしてくれるもんだと思っていたら、そのままの時もあって(笑い)」

 吹き替えならではの難しさがある。ささきさんは「映像の役者が主体だと思っているので、まず映像を見て、どういう表情で何をしゃべってるかっていうのを一番大事にしています」と語る。

 「ちょっと遅れ気味の方がいいと言われていますね。語尾がちょっと残るくらいの方が合うんです。合わせるところは合わせる方がいいんだけど。日本語は、こっちのせりふの方がいいかな?と思う時は、変えてもいいですか?とやらせていただきます。ただ、今回もそうだけど、(映画翻訳家の)平田(勝茂)さんは僕のクセをよく知ってるから、やりやすいんですよ。『ナイトライダー』もそうでしたけど、僕に合わせて変えてくれるから、しゃべりやすい。口語体で書いてくれますし。信頼感があります。楽ですね」

  吹き替えは、字幕とはまた違った魅力があり、吹き替えのファンもいる。ささきさんは長年、吹き替えに関わる中で変化を感じている。

 「今はデジタルだから、いいですよ。後で合わせることができるから、楽になりました。昔はそうはいかなかった。15分のロールがあって、最後にNGが出たら、最初からやり直しだったんです。最後の方に、せきをしたくなることがあるんですよね。緊張したもんですよ。僕らが最初にやった頃は、リハーサルを1回やったら本番でしたから。今みたいに事前にビデオを見られなかったしね。でも合わせていたんですよ。みんなで一緒に見て、それからやっていた。あの頃は、みんな天才的にうまかったですよね」

 若手の声優を見て感じることもあるという。

 「声優さんの番組を見ることもあるけど、今の人はうまいですよ。タレント性もありますし、僕らとは人種が違うんだなと感じています。進化がすごいですね。ただ、アニメと吹き替えは違うところもある。声の使い方が違うところもあります。山寺(山寺宏一さん)みたいに両方できる器用な人もいますけどね」

 役者に声を合わせ、時にはずらす。独特のテンポも重要になってくる。「吹替補完版」で職人の技を堪能してほしい。

 「吹替で楽しむ!シルヴェスター・スタローン×ささきいさお」はWOWOWプライムで、3月21日午後1時に「コブラ」、午後2時半に「暗殺者[吹替補完版]」、午後4時45分に「デッドフォール[吹替補完版]」、午後6時半に「スペシャリスト(1994)[吹替補完版]」を放送。

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