超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、小野さんがデジタルゲームに親しむきっかけになった作品について語ってもらいます。
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2024卒の就職活動が本格化している。今の日本の就活がベストだとは思わないが、欧米で主流のジョブ型雇用も、それはそれで矛盾を抱えている。いつの時代も若者は社会の矛盾に翻弄されながら、自分の居場所を見つけていくことが求められる。今回は自分の例を振り返ってみたい。
自分は1994卒で就職氷河期の入り口の世代だったが、景況感には関係なく、就活につまずいていた。学生時代はアナログゲームに夢中になっていて、下宿がたまり場になっていた。そのため卒業後もアナログゲームに関連する仕事につきたかった。しかし、今も昔もそうした求人は少ない。例外が出版業界で、関連する雑誌や書籍が出版されていた。そこで出版業界に絞って就活を進めた。当然のように苦戦したが、奇跡的に愛読書の出版元で内定が得られた。
ところが、いざ仕事が始まると、耳を疑った。アナログゲームの書籍が低迷しているので、デジタルゲームに切り替える。ついてはレビュー中心の雑誌を創刊するというのだ。
それまでデジタルゲームには、一人で黙々と遊ぶ印象があった。ゲームセンターでは対戦格闘ゲームがブームだったが、勝ち負けが前面に出すぎていて、殺伐としていた。下宿に持ち込まれた数々のゲーム機を通して、そこそこ親しんではいたが、のめり込むほどではなかった。
とはいえ、与えられた仕事はこなさなければいけない。創刊号のRPG特集に合わせて、当時人気だったゲームを遊んでみた。クリアした感想は「こんなものか」だった。世界観とストーリーとゲームシステムがちぐはぐで、キメラのように感じられた。それまで遊んでいたアナログのRPG(テーブルトークRPG)とは似て非なるもののように思えた。
ところが、続いて遊んだRPGで大きく印象が変わった。勇者となって世界を救うという筋書きや、バトルと成長システム、謎解きといった基本的な構成は同じでも、すべての要素が調和しているように感じられた。重要アイテムの隠し場所や、キャラクターのせりふ回しにもうならされた。
極めつけはゲームをクリアした後、ゲーム機の電源を切ることができなかったことだ。ゲームクリア後の世界は、自分にとって祝祭空間のように感じられた。ゲームをセーブすると、進行がリセットされてしまい、その世界がなくなってしまいそうで怖かったのだ。
そのゲームの名前は、スーパーファミコンで発売された「ドラゴンクエストI・II」という。「I」の感想は中の上だったが、「II」は深く没入した。デジタルゲームのイニシエーション的な役割を果たしたのだろう。クリア後にこの世界から離れたくないと感じたのは、このゲームが最初で最後だった。
その後、さまざまなゲーム開発者の取材を通して、おもしろいデジタルゲームには、さまざまな創意工夫が込められていることを知った。そして、次第にデジタルゲームの世界に引き込まれていった。こうして振り返ると、「ドラゴンクエストI・II」は自分のキャリアにとって大きな分岐点となるゲームとなった。
ちなにに、その雑誌は「ゲーム批評」(マイクロマガジン社)という。自分の仕事の原点でもあり、今でもたまに「読者でした」と声をかけられることがある。そんな時はいつも、恥ずかしさと申し訳なさと誇らしさが入り交じった、複雑な気持ちになる。それと共に、入社してすぐに退職しなくて良かったと思うのだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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