呪術廻戦:シリーズ構成・脚本の瀬古浩司に聞く“言葉の力” 話題のアニオリ秘話も

「呪術廻戦」のビジュアル(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
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「呪術廻戦」のビジュアル(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

 「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の芥見下々(あくたみ・げげ)さんのマンガが原作のテレビアニメ「呪術廻戦」。個性的なキャラクター、熱いバトル、人間ドラマなどさまざまな魅力があるが、“言葉”も大きな魅力になっている。2020年10月~2021年3月に放送されたテレビアニメ第1期、2021年12月に公開された「劇場版 呪術廻戦 0」、そして現在放送中の第2期のシリーズ構成・脚本を手掛ける瀬古浩司さんに「呪術廻戦」の“言葉の力”について聞いた。

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 ◇フィクションの質を上げる言葉

 「呪術廻戦」は2018年に「週刊少年ジャンプ」で連載をスタート。強力な“呪物”の封印が解かれたことで、高校生の虎杖悠仁が呪いを巡る戦いの世界に身を投じることになる……というストーリー。瀬

 コミックスのシリーズ累計発行部数は8000万部以上で、劇場版は全世界興行収入が約265億円を記録するなど大人気作だ。瀬古さんは「呪術廻戦」の魅力として「王道のストーリー」「キャラクター」を挙げる。

 「王道のストーリーの中に、キャラクターそれぞれが粒立ちしていて、実在感があります。例えば東堂 葵など、今まで見たことないようなキャラクターが次々と出てくる。王道のストーリーの中で、キャラクターたちが絡み合い、物語をドライブさせていく。それが貫かれているのが最も大きな魅力の一つだと思っています」

 “言葉”も魅力の一つだ。「呪術廻戦」ならではの言い回しもあり、キャラクターの個性を際立たせている。

 「これは小説家の村上春樹さんが書いていたことですが、ゴーリキーの戯曲(『どん底』)の中で、『おまえ、俺の話、ちゃんと聞いてんのか』って一人が言うと、もう一人が『俺はろう者じゃねえや』と返す。それが村上春樹さんの文章の規範になっているそうなんです。普通に『聞いてらあ』と返したらドラマにならない。日常でいちいちこんなやり取りをしていたらさすがに面倒ですが、フィクションのせりふでは、すごく大事なことです。『呪術廻戦』のせりふもそうだと感じています。噛み砕いて説明するのが難しいところですが、レトリックが効いていると思います」

 「呪術廻戦」は、何気ない会話の中に、キャラクターそれぞれの個性が表現されている。

 「五条(悟)が(伏黒)甚爾に刺された時、『どっかで会ったか?』と聞く五条に対して、甚爾は『気にすんな。俺も苦手だ。男の名前 覚えんのは』と言う。これが『知らねえな』では面白くない。こういうちょっとしたせりふにパンチラインがあり、それが積み重なっています。本当にすごいです。キャラクターの個性を出すだけじゃなくて、フィクションとしての質を上げていると思います」

 呪術、術式などについて説明するシーンも独特だ。難しいことを説明しているはずなのに、アニメを見ていると、すんなり頭に入ってくるところもある。

 「アニメでは、あえて分かりやすくしようとはしていません。親切に噛み砕いて分かりやすく説明してしまうと魅力が減じられてしまうので。耳で聞いて分かりにくいかもしれないところは、主語を足したり、細かく調整することもありますが。ただ、あえて説明しないという方針を第1期から続けています。分かりやすく聞こえるのは、声優さんの力、演出など総合的なものだと思います。例え、分からなかったとしても、物語を理解できないわけではないでしょうし、それで面白さが減じられるわけではありません。分からなくてもいいところ、絶対に分かってもらわないといけないところは、分けて考えています」

 ◇“アニオリ”を入れる理由

 アニメには“アニオリ”とも言われる原作を補完した表現となるシーンがあり、アニメならではの魅力になっている。

 「最も神経を使うところですね。仮にたった一言でも、このキャラはこんなことを言わない……と感じられてしまうと原作にも傷を付けることになってしまいます。とにかく何かを足したり引いたりする時は細心の注意を払ってやっていますね。“アニオリ”にはいろいろなパターンがあるのですが、尺が足りない時、原作を補完する時、原作の何話かを集めた際のつなぎとして入れることがあります。脚本を書く段階で、つなぎを作ることもありますし、監督やアニメスタッフから、少し補完してほしいという話があることもあります。第1期では、芥見先生から吉野順平のバックストーリーをアニメで補完して作ってほしいというお話もありました」

 第2期の「懐玉(かいぎょく)・玉折(ぎょくせつ)」の第1話では、五条と夏油がバスケットボールをしながら会話をする“アニオリ”も話題になった。二人の関係性が垣間見える重要なシーンになっている。

 「あそこは原作の先生含めたアニメスタッフと相談して、ああいう形になりました。原作では教室で座って話しているのですが、せっかくアニメなので、動きがほしかったこともあって、バスケをする二人を描きました」

 「懐玉・玉折」では、五条 悟と夏油 傑の呪術高専時代の“もう戻れない青い春”が描かれた。“青い春”を丁寧に表現しようとした。

 「五条と夏油が一緒に何かをするのをアニメで描くのは、ここがほぼ初めてですし、バスケシーンもそうですが、二人でただ歩くシーンなど一つ一つがキラキラ輝いて見えるといいなと思っていました。脚本で全てを表現できるわけではないのですが、そういう思いがありました」

 ◇「渋谷事変」は王道の展開

 第2期は、8月31日の放送から「渋谷事変」に突入する。渋谷駅周辺を舞台に、呪術師と呪詛師、呪霊たちが戦いを繰り広げる。全18話の壮大なエピソードとなる。

 「ここからギアがさらに上がり、いよいよ本番が始まったようにも感じています。「渋谷事変」以前も見どころ、読み応えは十分なものがありましたが、「渋谷事変」を見てしまうと、序章に過ぎなかった……と感じるはずです。最強の五条がいて、最強性が十二分に分かっている中で、夏油たちは五条を封印するために動いていきます。五条以外の呪術師はどう動くのか? 複雑に見えるかもしれませんが、きっちりフェーズが分かれていますし、まさに王道の展開です」

 「呪術廻戦」はハイクオリティーな映像も話題になっている。瀬古さんはアニメの制作進行を経て、脚本家になった異色の経歴の持ち主。アニメの制作現場のことを熟知していることもあって、クオリティーに驚くこともあるという。

 「僕は原作を見ながら脚本を書くので、どうしても原作の絵で考えてしまいます。アニメならではの空間の使い方、レイアウトもあって、演出家・アニメーターの方のすごさを感じています。僕が制作をやっていた頃と技術とかツールが全然違いますし、どうやっているんだろう?となります。自分が制作だったら頭を抱えちゃうな……と考えてしまうくらいすごいですね」

 「渋谷事変」ではかつてない大規模な戦いが描かれる。バトルシーンなどハイクオリティーな映像だけでなく、“言葉の力”に注目してほしい。

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