JUNK WORLD:「JUNK HEAD」堀貴秀監督の新作 ストップモーションアニメ制作の裏側 CGでは表現できない“実在感”

「JUNK WORLD」のセット
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「JUNK WORLD」のセット

 堀貴秀監督がほぼ一人で作り始め、約7年かけて制作したことも話題になった映画「JUNK HEAD」。その世界観を引き継いだ新作「JUNK WORLD」が2025年の公開に向けて制作中であることが発表された。堀監督は映像制作の経験がなかったが、CG全盛の時代に、あえてストップモーションアニメで「JUNK HEAD」を作り上げた。独特の世界観が話題になり、インディーズ映画ではあるが、興行収入が1億4000万円を突破するなどヒットし、数々の映画賞を受賞した。世界から称賛を集めたストップアニメーションは一体どのように作られているのか? 千葉県の九十九里にある堀監督のスタジオ「YAMIKEN(ヤミケン)」を訪れ、制作の裏側を探った。

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 ◇汚れ、経年劣化 細部のこだわり

 「JUNK HEAD」の舞台は、環境破壊によって、地上が住めなくなった世界。人類は地下開発のための労働力として人工生命体マリガンを創造するが、自我に目覚めたマリガンが反乱を起こし、地下を乗っ取る。それから1600年、遺伝子操作によって永遠といえる命を得た人類に新種のウイルスが襲いかかり、絶滅の危機に瀕する。そこで、独自に進化していたマリガンの調査を開始することになる。「JUNK WORLD」は「JUNK HEAD」の前日譚(たん)となる。

 堀監督は1971年生まれ、大分県出身。2009年12月に約30分の短編「JUNK HEAD 1」の自主制作を開始。映像制作の経験はなく、一人でストップモーションアニメを作ろうとした。ストップモーションアニメは、人形を一つ一つ手で動かしながらコマ撮りするため、とてつもなく手間が掛かる。「ティザー映像で人形が5歩動くシーンで2時間くらい掛かっています」という。

 スタジオを訪れ、実際に人形やセットを見ると“実在感”に驚かされる。独特の質感はCGでは表現できないはずだ。どこか懐かしさを感じるのは、一部に廃材なども使っているからかもしれない。

 ストップモーションアニメは人形を動かすこともあり、人形には骨組みがある。同じような人形でも顔や装飾などが異なる。「簡単なものであれば1、2日で作るし、難しいものだと1カ月ほど」と一つ一つ丁寧に作っている。

 セットもCGに頼らずに制作している。セット、人形は一部を除いて6分の1スケールで統一されており、取材中に確認できた大きなセットの中には全長約4メートルの廊下などがあった。大きなセットの汚れ、経年劣化などを塗装で表現しており、細部のこだわりを感じる。

 ◇セット一つに2、3カ月

 気になったのが宇宙船のセットだ。椅子、計器類、窓など細かく造形されており「2、3カ月で作りました。ゼロから作るので時間は掛かります」という。ほかのセットを見ていると、気の遠くなるような作業を繰り返していることが分かる。

 「JUNK HEAD」はスチームパンクのような世界観で統一されていたが、仏教の寺院、イスラムのモスクなどのような宗教建築風のセットも見られた。「前作にはなかった要素もある。全く新しいものになる」というから期待が高まる。

 「JUNK HEAD」は撮影が終わったセットは解体し、パーツを再利用していたが、新作は展覧会が開催される予定だといい、基本的にセット、人形などは残している。セット、人形は実際に見てみると“実在感”がよく分かるので、ファンにはうれしいところではあるが「残すことが手間になっている。それで予算が足りなくなっているところもあります」と悩ましくもあるようだ。

 ◇確実に前作以上のものに

 「前作はほぼ1人、長編は、平均3人くらいで作っていましたが、新作は7人くらい作っています」といい、「JUNK WORLD」はスケールがさらに大きくなるようだ。18台の3Dプリンターを導入し、人形の鋳型を作るなど、効率化を図っている。

 前作で撮影に使用したカメラはキヤノンのEOS Kiss X4というモデルで、プロ用のものではなかった。新作ではフルサイズのカメラを導入したが「今、悩んでいます。フルサイズのカメラにしたのですが、APS-Cの方が向いているかもしれない。フルサイズはボケが強く、おもちゃっぽく見えてしまうところもあります。変えようか?と悩んでいるところです」と機材がグレードアップしても、クオリティーアップにつながるわけでもないという。

 ストップモーションアニメの制作は地道な作業だ。撮影に使用する三脚などの機材も自作するなど堀監督は妥協せず、細部までこだわり抜いている。

 「ずっと作っていますね。基本的に休みもないですね。休むにしても勉強のために映画を見ています。遺伝だと思います。親もこだわりだすと、眠っていませんでしたから。実家が九州の田舎で農家なんですけど、小学生の時から家に帰ったら手伝いをして、山でクリを拾ったり、夜中まで選別をしたりしていました。自分の欲望を抑えることが身についていて、ものづくりをしていても、目的以外のことは我慢できるんです。関係ない遊びに興味が全くなくなる。それが当たり前だと思っています。そこを頑張らないと、意味がないでしょうし。自分の頭の中にはハリウッドレベルの映画があって、それを再現しようとしているけど、妥協しないとできない。許されるギリギリのレベルを探りながら何とかやっています」

 「確実に前作以上のものになります」と自信を見せる堀監督。「JUNK WORLD」は、さらなる驚きにあふれた作品になるはずだ。人形やセットが展示される機会もあるようなので、実物を見てみると“実在感”にも驚かされるはずだ。


 堀監督は制作費増強のためクラウドファンディングを実施している。「JUNK HEAD」は動画配信サービス「Amazon Prime Video」などで配信中。


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