小清水亜美:声優デビュー作「明日のナージャ」で開いた運命の扉 「感謝しかない」

「明日のナージャ」を手掛けた東映アニメーションの関弘美プロデューサー(左)とナージャ役の小清水亜美さん
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「明日のナージャ」を手掛けた東映アニメーションの関弘美プロデューサー(左)とナージャ役の小清水亜美さん

 テレビアニメ「明日のナージャ」の放送20周年を記念して、声優陣が再集結する朗読劇「アニメ20周年記念 朗読劇『明日のナージャ ~16歳の旅立ち~』」が上演されることが話題になっている。「明日のナージャ」は、ABCテレビ・テレビ朝日系で2003~04年、日曜朝(ニチアサ)に放送されたオリジナルアニメで、主人公ナージャ役の小清水亜美さんの声優デビュー作でもある。小清水さんは「スイートプリキュア♪」「コードギアス 反逆のルルーシュ」「交響詩篇エウレカセブン」などで知られる人気声優。小清水さんにとって「ナージャ」は「運命の扉を開いていただいた作品」になっているという。小清水さん、アニメを手掛けた東映アニメーションの関弘美プロデューサーに「ナージャ」への思いを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇「ナージャ」がなかったら今はありません

 ーー「ナージャ」はデビュー作です。特別な思いがある?

 小清水さん それまで声優歴が全くなかったんです。最初、恐縮していたら、関さんに「この先、この仕事を頑張っていったら、『ナージャ』はデビュー作として一生残っていきます」とお話いただき、責任も感じまして、「ナージャ」という看板を背負って、声優をやっていくことになるから、私自身もちゃんと「ナージャ」に恥じない声優にならないといけない、と思っていました。当時は学生だったので、今に比べるとそんなにプロ意識を持っていたわけでもないのですが、ふんどしを締めるような気持ちになりました。20年間忘れたことはないです。思い出して話しているのではなく、ずっとそれが根底にあります。

 ーー小清水さんに決めた経緯は?

 関さん 日曜朝の枠でデビューすると、1年間にわたって仕事があるし、名前を売るのにいいという認識があったようで、オーディションにはたくさんの方が押しよせてきたんです。事務所によっては20人くらい参加するところもあったのですが、さすがに多すぎて困ってしまうと思ったので「人数を絞ってオーディションに参加してください」とお願いしました。すると、ベテランの方ばかりになるんです。皆さんベテランですから、芝居に安定感があるし、何の心配もありません。ただ、求めているフレッシュさ、はつらつとした若さを感じる声は少なかったんです。

 小清水さん 私は当時、高校生でしたし……。

 関さん 小清水さんは、オーディションにいらっしゃった方々の中で一番はつらつとした若さを感じる声だったんです。はつらつとしたというのがポイントで、お芝居よりも声質、話し方が現代に通じる若さがありました。そこが圧倒的な魅力でした。ベテランの方々には申し訳ないけど、彼女の声を聞いたら、心の中では決まっちゃっているわけですよ。その後、どれほど有名な方がいらっしゃっても、若く聞こえない。皆さん、芝居も達者なんですけど。

 ーー声優歴のない小清水さん、これから進んでいくナージャと重なるところもあった?

 関さん そうですね。これから扉を開けて、知らない世界へ出ていくんだ!という感じは、小清水さんが圧倒的でした。

 小清水さん 声優の養成所に行っていないし、声優の訓練を一切受けてなかったんです。舞台のことしか知らなかったから、台本は暗記するものだし、台本を持って本番に臨まないと思っていたり。ご迷惑ばかりおかけしました。印象に残っているのが、関さんに「何で選んでいただけたのでしょうか?」と聞いたら「後ろ姿のO脚の感じがナージャに似ている」って言われて(笑い)。

 関さん 高校の制服を着ていましたよね。まず見た目が新鮮でした。スカートから見える脚の形がナージャそのものだったんです。

 小清水さん 私でとって運命の扉を開いていただいた作品です。「ナージャ」がなかったら今はありません。アフレコの基礎もない人間ですよ。今なら分かりますが、そんなの使いものになりませんよ。

 ーー関さんの見る目がすごかった。

 小清水さん そんな私を選んでいただけるなんて、覚悟がすごい……。

 関さん うちのスタッフは覚悟だけはあったんです。ローズマリー役の宍戸留美さんも「ご近所物語」の時は声優として新人でした。歌手としてのキャリアはありますが、テレビアニメは初めてでした。そういうことを私がしているもんですから、ミキサーの川崎(公敬)さんは「また新人さんを使って……」と内心思っていたはずです。アニメ業界に引きずり込むわけですから、ピックアップといえば、上から目線ですが、上からではなくて、脚を持って引きずり込む(笑い)。オーディションで面白いことがあったの覚えている? 

 小清水さん 失敗がいっぱいあるんですけど……。どれですか?

 関さん 一番おかしかったのは、調整室の向こう側に収録ブースがあり、マイクが立っていて、さらに奥にモニターがあるんですけど、最初はマイクを背にして立ったんだよね。

 小清水さん 声優のオーディションで初めてで、これまでの経験で審査していただく方に背を向けるなんて考えていなかったんです。「逆!」と言われて「逆とは?」と挙動不審になりました。今度はモニターを背にして、マイクの前に立つと、また違って……。ご迷惑をおかけしました。

 関さん 笑いながら、ここから教えないといけないの!となりました。

 ◇皆さんに本気で育てていただきました

 ーー1年で成長できたのでは?

 小清水さん 「ナージャ」の現場の先輩の皆さん、スタッフの皆さんに本気で育てていただきました。誇張とかじゃないですよ。台本のチェックのやり方は大谷育江さんに教わりました。ト書き、せりふが上下に分かれていることも分かっていなかったんです。何を大事にすべきかを教えていただきました。京田尚子さんに教えていただいたこともずっと覚えています。

 ーー京田さんに教えてもらったことは?

 小清水さん 言葉にはセンテンスがある。3、4行せりふがあったとして、何が一番伝えたくて、このせりふがあるのか? そこが分かったら、一番伝えられるように芝居を構築していくかを考えるというお話でした。尺に合わせるために、語尾をちょっと伸ばしたとして、それは合っているかもしれないけど、本当の意味で合っているわけではない。総尺に合わせることを心掛けるといい。「お母さん」というせりふがたくさん出てくるのですが、私は無意識にアクセントが後ろになっていました。アクセントをしっかり考えることも教わりました。すごく優しいんです。「今すぐにできなくてもいいの。覚えておいて、いずれできるようになればいいから」と言ってくださったんです。

 ーー教えてもらったことが今も生きている?

 小清水さん 本来だったらお金を払ってお教えいただくことですよ。デビューさせていただいたからには、消えるわけにいかない!という思いがありました。感謝しかないです。自分がもちろん努力をして、才能がなかったのであれば仕方ないけど、努力をしないで消えるわけにはいかない。ちゃんと残っていくことが、せめてもの恩返しになれば……という気持ちでした。だからこそ今もまだ声優でいられていると思っています。

 ◇朗読劇で16歳のナージャに プレッシャーも

 ーー朗読劇では16歳のナージャを演じます。

 小清水さん プレッシャーです。喉が大人になっていますし、昔は芝居をしていたけど、芝居してないんです。積み重ねてきたものがないので、今できることを間違っていてもいいからやり続けていました。今は積み重ねたものもあって、そのナージャをどうやって演じたらいいのか?とプレッシャーを感じています。私も20年、年齢を重ね、おかげさまで、できることも増えました。故に失ったこともあります。やりたいんですけど、できるのか? やるしかないので、精いっぱいやります。当時のナージャにはならないかもしれません。温かく聞いてください。保険をかけたいです。皆さんは家族、親戚、ダンデライオン一座のような気持ちで来ていたらければ……。頑張ります!

 関さん 小説がある中で、どこをポイントにして朗読劇にするのか? 金春さん(シリーズ構成の金春智子さん)と相談しました。やっぱりフランシスもキースも何とかして出したい。ローズマリーがどういうふうにナージャに絡んでくるのかも見せたい。大胆に構成しています。小清水さんにもお話をつなぐためのナレーションなどで活躍していただきます。

 小清水さん 頑張ります!

 関さん 朗読劇のビジュアルが物語っているように、ローズマリーも見られるし、フランシスとキースもどういう方向に進んでいこうとしているのか?というのも見どころになります。

 「明日のナージャ」は、20世紀初頭のヨーロッパを舞台に、孤児院で育った主人公・ナージャが、「お母さんは生きているかも知れない」と告げられ、旅芸人一座・ダンデライオンの一員として世界各国を巡りながら、日記帳に記された母を知る人々を訪ねていく……というストーリー。朗読劇は、9月30日、10月1日に浜離宮朝日ホール・小ホール(東京都中央区)で上演される。2017年に出版された、アニメ放送後のナージャたちを描いた小説「明日のナージャ 16歳の旅立ち」(講談社)を朗読劇用に再構成した特別編で、ナージャ役の小清水さん、フランシス&キース役の斎賀みつきさん、ローズマリー役の宍戸留美さん、ダンデライオン一座の団長ことゲオルグ役の一条和矢さんが再集結する。

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