2015年にWOWOWドラマ「テミスの求刑」でデビュー以来、数々の映画、ドラマに出演してきた俳優の堀田真由さん。フェミニンで柔らかい容姿であるにもかかわらず、演じる役は一癖も二癖もあり、その表現力は、映像界でも高く評価されてきたが、2023年はさらに大きな飛躍を遂げたと言っても過言ではないだろう。その活躍ぶりを振り返る。
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まず1月期に放送されたNHK「ドラマ10『大奥』」で演じた3代将軍・徳川家光となる女性・千恵には度肝を抜かれた。
男女の役割が逆転した江戸時代を舞台に、大奥の人間ドラマを描いた本作において、若い男性のみに感染する奇病で亡くなった父・家光の落胤として生を受け、その存在は「この世にいてはならぬもの」という過酷な運命を背負う千恵。歪み切った境遇から来る暴力性、やるせない悲しみ、そして少女のような純粋さ……。そんな爆発的で危うい役柄を、堀田さんは圧倒的な芝居で表現した。
過去にも癖のある役は経験してきた堀田さんだが、ここまで瞬発力を要する役はなかったのではないだろうか。それほどまでに激しく浮き沈みする感情を拡散していくさまは、場の空気を支配する演技だった。
その後も、「風間公親-教場0-」(フジテレビ系)、「CODE-願いの代償-」(読売テレビ・日本テレビ系)と連続ドラマでレギュラー出演を果たすと、現在放送中の「たとえあなたを忘れても」(ABCテレビ・テレビ朝日系)で、地上波連続ドラマ初主演を務めることになった。2023年は、4クール連続でドラマに出演するという売れっ子ぶりを見せている。
中でも、12月17日に最終回を迎える「たとえあなたを忘れても」では、堀田さんの吸収力の高い芝居の素晴らしさを垣間見ることができる。
本作で堀田さんが演じる河野美璃は、音楽大学でエリートたちの実力に自信をなくし、ピアニストになる夢に破れ、東京から神戸に引っ越してきた24歳。やや自分に自信がなく卑屈になっているという部分はあるものの、真面目に現状に向き合う姿は、これまでやや癖のある役が多かった堀田さんにしては、非常にストレートで多くの人が共感できるキャラクターだ。
そんな美璃は、神戸で家族の間で起きた悲しい出来事によって、記憶障害になってしまったキッチンカーを運営する青年・青木空(萩原利久さん)と出会い、交流を深めていく。
空は突然記憶をなくし、自分自身がどんな人間であるか、これまで関係してきた相手のことも忘れてしまう。そこで頼りになるのは、空を取り巻く人たちの反応だ。空は、自分と接する人たちのリアクションで、自分がどんな人間であるかを知ることができるのだ。
こうした状況下、どちらかというとリアクションを起こすのは美璃の方であり、ややもするとお芝居が大きくなってしまいそうなところ、しっかりと相手の不安な気持ちを受け止め、時には「あなたは1度忘れている。2度目がないとどうして分かるの」と自分の不安をぶつけながらも、全体として2人に起こる出来事を吸収する芝居を見せる。「大奥」での拡散する感情とは違う形でありながらも、“静”でその場を支配する。
第8話では、美璃が最も恐れていた、空の記憶がまた失われてしまった。これまでの記憶障害のときとは、積み重ねてきた“記憶”の重さが違う。しかも、記憶がないという中、空は強い意志で美璃を拒否。さすがの美璃も「私のこと忘れないって言ったよね? 私のこと思い出せない?」と詰め寄ってしまう。そこからラストまでの流れは、ひたすら美璃にとって、抑えられない感情が押し寄せるが、萩原さんの繊細な芝居に対して自身の感情を拡散するのではなく、丸々と吸収し静かなシーンを作り上げた。
“静”によって激しい思いを表現する演出の妙もあるが、萩原さんの“無”になってしまったと思わせる緻密な芝居に感情をぶつけるのではなく、絶妙なさじ加減で思いを漏れ出す堀田さんの芝居は圧倒的だった。
9月に公開された主演映画「バカ塗りの娘」では、不器用で誠実な等身大の主人公を、現在公開中の映画「翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜」では、ディスられ続ける滋賀県の滋賀解放戦線・近江美湖役をキュートに演じた。
来年1月には「ある閉ざされた雪の山荘で」で上昇志向の強い俳優役、「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」では芯の強い看護師役と2本の待機作が控えるなど、2024年もまだまだ快進撃が続くだろう。(文・磯部正和)