名探偵コナン
#1141「お留守番毛利一家」
11月9日(土)放送分
西尾維新さんの人気小説が原作のアニメ「<物語>シリーズ」の劇場版アニメ3部作「傷物語」の総集編「傷物語-こよみヴァンプ-」が1月12日に公開された。「傷物語」は、シリーズ第1作「化物語」の前日譚(たん)に当たり、「<物語>シリーズ」の原点でもあり、シャフトによるテレビアニメ「化物語」でシリーズディレクターを務めた尾石達也さんの初監督作品でもある。「傷物語」は、「化物語」で多くのアニメファンを驚かせた実写、CG、文字などを使った独特の演出がさらに色濃くなり、尾石監督の世界観が凝縮されている。どのようにして「傷物語」は生み出されたのか、尾石監督、アニプレックスの石川達也プロデューサーに聞いた。
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「傷物語」は、「I 鉄血篇」「II 熱血篇」「III 冷血篇」の劇場版3部作が2016年1、8月、2017年1月に公開された。阿良々木暦と伝説の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの出会いが描かれる。「傷物語-こよみヴァンプ-」は、劇場版3部作を総集編として再構成する。
なぜ「傷物語」を1本の劇場版として公開することになったのだろうか。尾石監督は、劇場版3部作を制作した際も、そもそも一つの作品として「傷物語」を制作しようとしていたという。
「当時、絵コンテを描いている時は1本で作りたいと思っていたのですが、それが3部作になった。ただ、作りきれたことで満足はしていたのですが、3本目が終わった直後に、アニプレックスの岩上(敦宏)さんから『テイストを変えて一本にまとめてみないか?』というお話をいただいたんです。それは、完全にシリアスなバンパイアストーリーとして一本にまとめるという提案でした。自分も全く新しいものとして、もう一度組み直すのであれば、それは面白いなと思いました。だから、3本目が終わってすぐにまとめる作業に入りました」
尾石監督は「決定版を作る」という思いで、完成度の高い総集編を目指し、編集作業に挑んだ。編集にあたり、声優陣が改めて収録したシーンも多いという。中でも大きく刷新されたのは音響で、「劇伴はコミカルな曲をなくして、シリアスなものに統一した」と魅力を語る。
新たな装いでよみがえることになった「傷物語」。劇場版3部作の制作当時、石川プロデューサーは、アシスタントプロデューサーとして作品に携わっていた。石川プロデューサーは、2009年に「化物語」が放送された当時は、一ファンとして作品を楽しんでいたという。
「僕がアニメのブルーレイディスクを初めて買ったのが『化物語』なんです。西尾さんの小説との出会いも、アニメの『化物語』がきっかけですし、僕がアニメ業界に入ろうと思ったきっかけの作品の一つでもある。そこからアニプレックスに入社して、最初は『魔法少女まどか☆マギカ』でシャフトさんとご一緒することになりました。その流れで『傷物語』で尾石さんとご一緒することになった。『化物語』のブルーレイを買っている時には、自分がそんなことになるなんて全く思っていなかったですね(笑い)」
石川プロデューサーがそうであったように「化物語」が放送された当時は、多くのアニメファンがその独特の映像表現に度肝を抜かれた。「化物語」は「西尾維新アニメプロジェクト」の第1弾として企画され、「さよなら絶望先生」「まりあ†ほりっく」といったシャフト作品に参加してきた尾石監督が初めてシリーズディレクターを務めることになった。尾石監督は西尾さんの原作に触れ、「挑戦しがいがある」と感じたという。
「初めて原作小説を読んだ時は、びっくりしました。マシンガンのように会話が続いて、これを一体どうやって映像化すればいいのか?と。それまで自分はマンガ原作のものしかやっていなかったものですから、小説でかつ会話劇がひたすら続く『化物語』は挑戦しがいがあるなと思いました」
尾石監督は、西尾さんの作品に限らず、原作のある作品をアニメ化する上では、「とにかく作品を愛して、作品に向き合って作る」ことを大切にしているという。それを前提として、シリーズディレクターとして全権を任された「化物語」では、「今までシャフトでやってきたことを全部入れる」「自分の美意識で全部固める」という意識で挑んだ。
「その上で、原作が小説なので絵がないじゃないですか。そこに自由度があると思いました。だから、読者が小説を読み終わった時の感覚、読後感をアニメでも同じく表現できていれば、かなり映像として飛躍してもいいんじゃないかと僕は思っているんです。そこが映像になる時の腕の見せどころ。やはり、見る人をびっくりさせたいと、一生懸命必死になってやっていましたね」
尾石監督は「化物語」の原作の読後感について、怪異といった恐ろしい存在が登場するものの、「基本はボーイミーツガールで、青春ものだなと思った」と語る。「読んだ時の爽やかさというか。アニメもそういうものになればいいなと思いました。だから、どんなに凄惨(せいさん)な場面があっても、最終的には見てよかったなと思えるような作品になるといいなと」と原作と同じ“読後感”を目指した。
「化物語」のアニメならではの魅力の一つが、文字や実写を使った独特の演出や、自転車や教室の机がずらりと並ぶような背景美術だ。
「あの演出は、自分の美意識なんですよ。混沌(こんとん)としているものが好きではなくて、理路整然としているものが好きなんです。アニメーションは、いろいろな人の力で作られている集団創作ですから、自分がジャッジできることは、自分が嫌だと思うものを排除することだと考えています。だから、自分の中で嫌だというものを画面に入れないことを突き詰めていくと、最終的にああなっていくというか」
「化物語」を経て、「傷物語」では独特の演出がさらに色濃くなった印象を受ける。尾石監督は「『化物語』は、限られた時間の中でやれることをやりきったのですが、『傷物語』では、そこからさらに先に進みたいという思いがありました」と、さらなる高みを目指した。
「傷物語」は、旧国立競技場や山梨文化会館、パレスサイドビルといった近代建築が数多く登場することもファンの間では話題になった。「化物語」でも実在する場所、建築物が登場することがあったが、「傷物語」では、尾石監督のある思いが込められていたという。
「『化物語』の時は、僕がすごくゴダール(ジャン・リュック・ゴダール)に傾倒していた時期なんです。ゴダールの政治的な部分ではなく、表層のスタイリッシュさ、キャッチーさにすごく影響されていた。それが、『傷物語』を作っている時に、3.11(東日本大震災)が起こって、いや応なしに『日本で生きること』を考えざるを得なくなった。だから、『傷物語』で最も多く引用しているのは丹下健三さんの建築なんです。僕たちの世代から見ると、丹下さんの手掛けた建築には、輝かしい日本の印象みたいなものがあるんです。それが、作中の無人の世界で巨大な墓標のように見えるような、そういうものになればいいなと考えました」
日本の高度経済成長期を代表する建築家である丹下さんの近代建築が登場し、旧国立競技場を舞台としたキスショットと阿良々木暦のバトルシーンでは、東京五輪の実況中継を思わせる音声も流れる。“日本の輝かしい過去”を背景に阿良々木暦が奮闘する「傷物語」には、「これから日本で生きてかなきゃいけない若者を描くんだ」という思いがあった。
尾石監督のこだわり、そして制作当時の思いが詰め込まれた「傷物語」。独特の映像表現を生み出す美意識は「映像漬けだった」という思春期に培われたものだった。
「中学の時には『うる星やつら』に熱中していましたし、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』を見て、実相寺昭雄さんの作品にハマったり。別の切り口として、書店に並ぶ『AKIRA』の単行本のオシャレな装丁を見た時もびっくりしました。あとは、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のビジュアルですとか。洋画では『ポセイドン・アドベンチャー』やゴダール作品にすごく影響を受けました。やはり思春期に何を見るかで自分の人生が決まると思うんですよね。そこで影響を受けたものをずっと追い求めているようなところがありますね」
「傷物語」の制作現場では、こだわりを突き詰める尾石監督らスタッフの熱をプロデューサー陣もひしひしと感じていたという。
石川プロデューサーは「ダビングなどさまざまな行程で尾石さんが作られている素材を見せてもらって、それが形になってどんどん解像度が上がってくるタイミングは、すごくわくわくした記憶がありますね。プロデューサー陣としては、その映像をより多くの人に見てもらいたい。『傷物語』は、腕が切断されたり、地下鉄のホームが血だらけになったりするシーンもあるので、そうした描写をどこまで見せるか?というせめぎ合いでした。もちろんクリエーティブ自体は格好よかったので、どこまでOKにすれば、いろいろな人に見てもらえるんだろうと、相談して作っていた記憶がありますね」と振り返る。
最後に、尾石監督に総集編「傷物語-こよみヴァンプ-」の見どころを聞いた。
「映画館は、テレビとは違って、自分でわざわざお金を払って暗闇の中でスクリーンと2時間対峙(たいじ)するようなメディアです。だから、阿良々木暦という少年の行動を自分も一緒に体験するようなものになればいいなと思って作りました。『傷物語』の読後感は重いものだと思います。暦の青春の蹉跌(さてつ)を一緒に味わっていただけたらと思います」
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