ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
電撃文庫(KADOKAWA)の支倉凍砂(はせくら・いすな)さんの人気ライトノベル「狼と香辛料」の約15年ぶりとなる完全新作テレビアニメ「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」が、4月1日からテレビ東京ほかで放送される。同作は過去にもテレビアニメ化され、第1期が2008年、第2期が2009年に放送されたが、新作は原作の第1巻から再アニメ化される。前作と同じく、声優の小清水亜美さんがメインキャラクターである狼の化身の少女・ホロ、福山潤さんが行商人クラフト・ロレンスを演じることも話題になっている。約15年ぶりにホロを演じることに大きなプレッシャーを感じながらも、「今だからこそできること」を目指したという小清水さんに新作に懸ける思い、収録の裏側を聞いた。
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「狼と香辛料」は、行商人クラフト・ロレンスが、豊穣(ほうじょう)の神としてあがめられていた狼の化身のホロと旅をする姿を描いたライトノベル。街から街へと商品を売り歩く日々を送っていたロレンスは、自身を賢狼と呼ぶ美しい少女と出会い、彼女の「遠く北にあるはずの故郷・ヨイツの森へ帰りたい」という望みを聞き、共に旅をすることになる。
新作テレビアニメは、前作の続編ではなく、ロレンスとホロの旅が一から描かれる。小清水さんは「前作の続編だと思っていたので、また一から歩み直すというのには、素直に驚きました」と語る。小清水さんが演じるホロは、姿は少女だが、何百年も生きている賢狼という難しい役どころ。再びホロを演じることに「うれしさよりプレッシャーのほうが勝っていたかもしれません」と明かす。
「やはり当時は年齢的にも経験値的にも至らなくて、ホロというキャラクターに対して、本当はこういう表現ができるほうがいいのに、自分の腕がないがゆえに、それを上手に表現ができなかった。できないから違う方法を模索せざるを得なかったという思いがとてもあって。そうやって当時の形のホロが生まれているんです。でも、ありがたいことに、当時のホロを好きだと言ってくださる方もいらっしゃると思うんです。そんな中で、今だったら、当時の収録で『こんなふうに演じてもらえたら』と言われた演出にも応えられるんじゃないかと。それは、当時のホロが好きだった人たちには求められていないものかもしれない。その複雑さがプレッシャーという形で私の心にのしかかりました」
当時、小清水さんは10代最後の年で「狼と香辛料」のオーディションを受け、ホロを演じることになった。声優として「できない」苦しさを抱えていた時期だったという。
「声優を始めて4、5年で、演技の楽しさを感じられるようにもなっていたんですけど、同時にいろいろなことがやっと理解ができるようになった時期でもあったんです。先輩たちがやっていることのすごさを、漠然とではなく、分析して細かく理解できるようになって、だからこそ、いかに自分ができていないのかも明確に分かるようになった。でも、そこでもがいてもすぐに手に入れられるものじゃない。今自分が得るべきものははっきりとしていたので、それをホロという役を通して吸収したい、学びたいと思っていました」
もがいていた時期から約15年という時を経て、「本来のホロのあり方って、多分今の私が演じる方が正しい」と感じているという。
「ホロの擬人化した肉体は少女のような若い姿だけど、中身はものすごく長く生きている存在である。今のアプローチは、もちろん若さも意識しながらも、達観したものがあって、“老けない”アプローチというか。私自身が年を重ねているところから若いキャラへのアプローチになっているんです。昔は実物の私が若かったから、そこから大人に向かったアプローチだったので、今回は逆向きなんですよね。原作のホロのキャラクター性としては、今の方向のアプローチが正しいんです。当時は逆にせざるを得なかったというだけで。そこが大きく変わったところではないかと思います」
小清水さんは「今だからこそできるホロを表現したい」と思いを込める。
「いろいろ考えた末に思ったこととしては、当時のまんまやるんだったらコピペでいい。あと、これは突き放しているという意味ではなくて、当時のホロ、当時の作品を好きな方は、それをそのまま大事にしてほしいです。今回、新たな『狼と香辛料』では、絵柄も新しくなっていますし、原作からピックアップしているせりふ、描く場面、カメラアングルも違います。同じストーリーではあるものの、見せる面が違うならば、それに合ったホロになりますし、福山さんが演じるロレンスもそうなっているんじゃないかなと思うので、『今作ならではのもの』というものを演じていきたいと思って、取り組ませてもらっています」
新たなホロではあるが、「ゼロから演じるわけではない」とも感じている。
「いっそそこまで割り切れればいいんですけど、当時の気持ちであったり、見てきた景色は残っている上で今一度なので、まっさらな状態でやるのとはまた違う。土台があった上での一から。逆に、まっさらではできなかったであろうことも乗っかってくる。できれば、たくさんの方に愛してもらえる『狼と香辛料』をまた作れたらうれしいですね」
小清水さんは、新作の収録に臨み、さまざまな思い、記憶がよみがえってきたという。
「ホロは、基本的に計算の上で言葉を放つキャラクターなのですが、まれに本当の気持ちをそのまま外に出すシーンがあるんです。前作でも、そういったシーンを演じる時はすごく考えていて。当時の私は計算の上で表現することができなかったので、ホロの気持ちを自分のもののようにして、その感情のままに言葉を出していく戦い方をしていたんです。その時の感情記憶みたいなものがいまだに残っていて、同じシーンを今回演じる時に、すごく胸が苦しくなりました。自分のことのように『このシーン、このせりふですごい動悸(どうき)がする』みたいな。当時の私は私自身を操り切れていなかった。キャラクターと自分自身の間に“隔て”を作れていなかった。その拙かった芝居構築もグッと思い出されて『はっ!』みたいな感じで。恥ずかしい思いになります」
「狼と香辛料」は、ロレンスとホロの丁々発止の会話劇が魅力の一つとなっている。ロレンス役の福山さんは、小清水さん演じるホロの声を聞き、「15年前のこともすごく大切にしながらやっているのが分かる」「今の小清水が演じるホロに対して、今の自分だったらこのぐらいの幅なら成り立つかな?とか。ちょっとずるいやり方なんですけど(笑い)」と語っていた。小清水さんは、福山さん演じるロレンスをどう感じたのだろう。
「ロレンス氏は、バレない感じに老けさせているなと思いました(笑い)。『福山氏、これバレないでしょ? ちょっと老けさせているけど』みたいな。こっちは『このシーンのホロは若くさせるぞ』なんて取り組んでいる中、ラクをしおってからに、と(笑い)。本人にはその意図すらないかもしれないので分からないんですけどね。この作品は専門用語も多いですし、ロレンスにしろホロにしろ、話し始めると、1人でつらつらしゃべっていかなきゃいけないので情報量がすごく多いんです。どうしても噛んでしまうことはあるんですけど、感情のつながりもあるから、できれば噛みたくない。それは今も昔も変わらず背負うところですね。特にホロは花魁(おいらん)言葉があるので、滑舌との戦いなんです。私、当時からちょっと思っていたんですけど、『ロレンスは標準語だからずるいな』みたいな(笑い)。これはただの役者目線ですけど」
新作では、ロレンス役の福山さんのほかにも、ノーラ・アレント役の中原麻衣さんら前作から続投するキャストが多い。小清水さんは、前作のキャストと「出会い直す」喜びも感じているという。
「あの時、あの役で共演していた皆さんと、また今の自分で出会い直すというか。ローラ役の中原麻衣ちゃんも、仲が良くてしょっちゅう会うんですけど、またこの作品、この役を通して会い直していて、芝居をし直している感じが『あ、楽しい』って。当時と変わらないキャストの皆さんと、もう一度、同じせりふのやり取りができるのが、今回の楽しさの一つですね」
ホロとロレンスの旅が新たな形で紡がれる「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」。小清水さんに改めて作品の魅力を聞いた。
「自分が経験したことがある場所やストーリーではないはずなのに、どこか懐かしく思える。それが『狼と香辛料』の一つの色だと思うんです。だから、初めて見る方も、どこか懐かしいような、新しいような、そんな気持ちで見てもらえるんじゃないかなと」
「生きる」って何だろう?と考えさせられる作品とも感じているという。
「キャラクターたちが明日を生きるために必死に生きているというか。その中で、ホロは長い間、存在していて、たくさんの人間のいろいろな部分を見て、そこに付き合ってきて、その上で新しい未来を歩み始める。それが『狼と香辛料』のスタートなんです。生きているといろいろな感情になりますが、『狼と香辛料』を通して気づくものが結構ある気がしていて。もちろん、そんなに深く考えずに見てもらっていいんですよ。ただ、もしかすると、深く悩んでいたことが『あ、いいんだ』とふと思えるきっかけになるエピソードのある作品かなと思うので。当時のアニメが好きだった方はもちろん、初めて作品に触れる方も、楽しんでもらえたらいいなと。そして、この『狼と香辛料』の世界を浴びてください」
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