この「狼と香辛料 インタビュー」ページは「狼と香辛料」のインタビュー記事を掲載しています。
電撃文庫(KADOKAWA)の支倉凍砂(はせくら・いすな)さんの人気ライトノベル「狼と香辛料」の約15年ぶりとなる完全新作テレビアニメ「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」。同作のエンディングテーマ(ED)「アンダンテ」を担当するのが、女性2人組ユニット「ClariS(クラリス)」。「アンダンテ」は、アニメのメインキャラクターであるホロとロレンスの旅を描いており、ClariSのカレンさんは「私たちは明確なゴールを決めていないんです。そこがホロとロレンスと似ているのかなって」と語る。作品の魅力や、楽曲への思いを語った。
--「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」のEDを担当することが決まった時の気持ちは?
クララさん たくさんの人に愛されてきた「狼と香辛料」の新作でエンディングテーマを担当できることがすごくうれしかったです。また、アニメのイメージや世界観が、今まで私たちが楽曲を提供させていただいた作品とはガラッと雰囲気が違うアニメだなと感じていました。だから私たちも「どんなエンディングテーマが歌えるのかな」というワクワク感がありました。
カレンさん タイトルを見た時は「狼と香辛料」ってどういうことなんだろう?と思っていたのですが、実際に以前のアニメを見て「ああ、そういう意味なんだ!」と思ったと同時に、クララが話していた通り、今まで担当させていただいたことがないようなアニメでもありました。そのため、当時は「きっとこういう感じの曲になるんだろうな」というイメージは生まれたのですが、「ClariSの楽曲として落とし込んだときにどうなるんだろう」と。そのワクワクが第一にありましたね。
--「アンダンテ」はアイリッシュ音楽の特徴を取り入れた、異国の雰囲気漂う曲です。
クララさん 「狼と香辛料」も異国感があったのでアニメにぴったりな楽曲がきてすごくうれしかったですし、私たちが曲を受け取ったときはもちろん、歌っていてもすごくワクワクどきどき、楽しい気持ちになるような曲に仕上がったなと思っています。
カレンさん アイリッシュ感があって、それこそ現地の方が踊っているようなステップを踏みたくなる楽曲に仕上がりました。A、B、サビでリズムが違うことで、それぞれ違うステップを踏みたくなりますし、感情の起伏を表現しているような構成になっています。「旅をしていてもいろいろなペースがあるよね」ということも感じて、このアニメにすごくぴったりだなって。
--ホロとロレンスの旅を描いた歌ではあるのですが、ClariSの二人の音楽の旅にも重なるように感じました。
カレンさん 私たちは明確なゴールを決めていないんです。そこがホロとロレンスと似ているのかなって。「何があるか分からないから楽しい」という気持ちで二人で活動していて。ハプニングと言うと大げさですけれども、旅の中でところどころにある予想していない出来事も楽しめたら良いよね、と思っているところは、二人の感覚と似ているのかなと思いました。
クララさん 個人的には、カレンはホロっぽいなって感じています。カレンは旅にスパイスを与えてくれる存在なんです。私は割と計画的というか、ある程度の決まった道筋の上を歩いていくタイプなのですが、カレンは「それも良いんじゃない?」「あんなこともしてみたい!」と、その場で思いついたことをどんどんと提案してくれるタイプで、旅がさらに面白くなる。そう感じることが普段からとても多いので、二人の関係性もちょっと反映された曲になっているんじゃないかなと思っています。
カレンさん 私は計画性ももちろん大事だと思うんですけれども、その時その瞬間にしか出会えない人や出合えないこと、そこでしか作れない思い出もたくさんあると思うんです。その分からないワクワクに飛び込んでいくことがすごく好きなんです。でも私の感性だけで生きていたら、きっととんでもないことばかりが起きていっちゃう(笑い)。ゴールのないダンジョンというか。そこを楽しみつつも軌道修正してくれるクララの存在があるからこそ成り立っている旅なんだろうなと思います。そこもホロとロレンスっぽいのかもしれません。
--カレンさんは「アンダンテ」を歌っている中で、二人ならではの化学反応を感じる瞬間はありましたか?
カレンさん 歌声は全く違うんですけれども、楽曲によって、二人で歌っている部分が一人で歌っているように感じる部分があるんです。それはお互いに感じていることで。「アンダンテ」のようなゆっくり歌うテンポがあったり、タタタンッと軽快に進むリズムがあったりする楽曲は、二人の良さを引き出すのにもピッタリで。そういう意味では、クララの良さ、カレンの良さ、がすごく出ている楽曲だなと感じています。
クララさん 一つの声に聴こえる、という感覚がより際立った楽曲だなと思いました。コーラスも含めてなのですが、今までになかった一つの声が出来上がった気がしていて。今までもそう聴こえる楽曲の中に、二人それぞれの良さ、合わさった時の良さを感じる曲がたくさんあったんですけれども、より親和性が高くなったというか。それと、温かみを感じるような歌になったんじゃないのかなって思っています。
カレンさん ハートフルな曲だなと感じています。この楽曲って誰も急いでいないんですよね。それでいて、誰もせかしていない。今自分が生きている中で、いろいろなことに追われすぎてしまって、もうあしたのことを考えていて、「なんか生き急いでいるな自分」って思うことがあるんです。この「アンダンテ」を聴いていると、それが一回リセットされるというか。そういった意味でも、温かみを感じられる曲になっているんじゃないかなって思っています。“今”について考える時間が少なくなっている人ってたくさんいると思うんです。そういう人にこそ、聴いてもらえたらうれしいなって。
--ClariSならではの応援歌とも言えますね。
クララさん そうですね。ClariSの歌で「頑張れ」と直接的に言うことはほとんどないんです。歌を通して「自分のペースでゆっくりでも良いんだよ」「一歩でも前に進めたら良いんだよ」って伝えているのが、ClariSらしさなのかなと思っています。ClariSらしい応援歌の新作ができたのかなと思っています。
--特に「大丈夫 ゆっくり踏み出せるよ」という言葉に、とても優しい響きが込められているように感じました。
カレンさん それはきっとお互いそう思っているところがあるんです。クララに「大丈夫」って言われると、私も「あ、大丈夫なんだな」って思えるし、きっと私が「大丈夫だよ」ってクララに言ったら、きっとクララにとっても自信になる。だからこそ、この「大丈夫」という言葉にも説得力が生まれるのかなって思っています。
--レコーディングの様子は?
クララさん いろいろなテンポが組み込まれていて、ClariSとしての新しいイメージを持つ曲だなと感じたんですが、同時にどこか懐かしい雰囲気もあって。長年ずっと聴いてきたようなメロディーやサウンドにも感じられて、違和感なく身を任すことができる楽曲だと思います。サビはリズム感があって、歌詞も弾むような部分があるんですけれども、最近の楽曲と比べると、A・Bメロは言葉数も音数も少なくて、より歌詞の意味やメロディーが入ってきて。そこが新鮮でもありましたし、どうやって歌ったら伝わるかなというのは、曲をいただいた時にとても考えました。それもワクワクする要素でしたね。歌詞の意味一つ一つが伝わるように歌いたいなと思っていました。
カレンさん 曲の中にはタイトルの「アンダンテ」の他にも「スタッカート」「クレッシェンド」など音楽用語がたくさん出てきます。抱いている思いがオシャレに表現されていて、クララが話していた通りどこか懐かしさもあって、すんなりと心に響きました。ただ、いざ歌ってみると意外と難しくって。耳なじみの良さから「心地いいな」と思うんですけれども、歌ったことのないテンポだったので、サビの「Step by Step 君のリズム感じて」というところも「今まで自分の体験したことのないリズムだ」と。これをどう落とし込んでいけば良いんだろう、と模索しながら練習をしました。リズムを大切にしている楽曲だからこそ、ちょっとでもズレてしまうと「アンダンテ」の良さが無くなってしまうので、完成するまでは苦戦したところもありました。でも、クララの歌を聴きながら歌うと、自然とペースが合っていって。クララの声に引っ張ってもらいました。
クララさん 久しぶりに時間の掛かったレコーディングだったんです。シンプルだからこそ、一つ一つの音・言葉の重さがあって、ニュアンスやリズムなど、意識するところも。
カレンさん この楽曲はホロにも言えるし、ロンレンスにも言える、お互いの感情を表したものになっているんですよね。だからどちらに寄せるかというよりも、「狼と香辛料」というアニメの世界観に寄り添ったものになっていて。だからこそ、言葉に対する表情を歌声で表現していくのが大変なところもありました。
クララさん 表情をつけすぎるとリズムが崩れてしまったり、リズムを意識しすぎてしまうと言葉の意味が伝わらなくなってしまったり……。そういった細かな表現には久しぶりに苦戦しました。イメージの中ではすごく歌えていたんですけれども(笑い)。実際に声を吹き込んでみると「ちょっと違うかも」という部分が生まれてきて、そこは挑戦と調整を繰り返していきました。
--アニメを見ている人にも、ぜひフルで聴いてもらいたいですね。
クララさん Dメロ(パート)もすごく良いメロディーなので、ぜひフルで聴いてもらえたらうれしいです。
カレンさん アニメをご覧になっていく間にどんどんと歌詞の意味が深まっていくんじゃないかなって。二人の関係性に結びついてくるような言葉が散りばめられているので、ワクワクするような気持ちになるのはもちろん、「アンダンテ」という曲はアニメをすべて見終わったあとに完成する曲でもあるのかなと思っています。
--5月末からは久々のツアー「ClariS SPRING TOUR 2024 ~Tinctura~」が始まります。ツアーは二人にとって旅の一つだとは思うのですが、歌詞にかけて、二人で旅をしてみたい場所があれば教えてください。
クララさん ずっと旅行をしたいねって常に話していたんです。それこそ、コロナ禍に入ってしまって行けなかった海外旅行があって……。
カレンさん デビュー10周年をお祝いして、今までのおつかれさまとこれからも頑張ろうねという意味で旅行を計画していたんです。
クララさん 実はその時はフロリダのディズニーランドに行きたいね、って言っていたんです。かなわなかったので、今も一番行きたい場所です。国内でも、プライベートのツアーをしてみたいです(笑い)。
カレンさん したいよね! それと音楽的なところで言うと、やったことのないこと、新しいことにたくさん挑戦していきたいです。それが反映されたアルバム「Iris(イーリス)」がツアー前にリリースされるので、そこでもいろいろな旅ができたんじゃないかなって思っています。
--最後に「狼と香辛料」のファンに向けてメッセージを。
クララさん 「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」のエンディングテーマを担当させていただき、とてもうれしく思っています。今作はリメークでありながらも、新しい要素が入った完全新作とのことで、私たちも楽しみにしています。また、ロレンス役の福山潤さんとホロ役の小清水亜美さんが続投っていうのがすごいなって。私も以前の作品を拝見させていただき、ホロとロレンスの関係性にシンパシーを覚えたり、私もこんな旅をしてみたいなと憧れたり……視聴者としてホロとロレンスと旅をできることをすごく楽しみに思っています。
カレンさん 長年愛されてきた作品だからこそ、リメークが実現したのだと思っています。そうした作品のエンディングテーマに、私たちを選んでくださり、うれしい気持ちでいっぱいです。ホロとロレンスの二人はあたかも最初からそうだったかのように自然に距離が縮まっていくので、最初の出会いを忘れてしまいがちなんですけれども、それすらも自然に見えてしまうくらいに引き込まれてしまいます。その世界観が本当に大好きです。そうした作品を彩れる楽曲に仕上がったと思っているので、毎週のアニメ放送も、「アンダンテ」も楽しみにしていてもらいたいです。
「狼と香辛料」は、行商人クラフト・ロレンスが、豊穣(ほうじょう)の神としてあがめられていた狼の化身のホロと旅をする姿を描いたライトノベル。2006年2月に第12回電撃小説大賞の銀賞に選ばれ、2021年2月にはシリーズ15周年を迎えた。シリーズ累計発行部数は約500万部。テレビアニメ第1期が2008年、第2期が2009年に放送された。
新作アニメは、前作で監督を務めた高橋丈夫さんが総監督として参加し、前作の第2期に演出として参加したさんぺい聖さんが監督を務める。パッショーネが制作する。テレビ東京ほかで放送中。