ドラゴンボールDAIMA
第9話 トウゾク
12月9日(月)放送分
「機動警察パトレイバー」「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」などで知られる押井守監督の初実写映画「紅い眼鏡」の35ミリネガフィルムを4K画質にするプロジェクトのクラウドファンディングが、ウェブサイト「MOTION GALLERY」で4月29日にスタートし、2日間で目標金額に達成したことが明らかになった。ストレッチゴール(2番目の目標金額)として設定した1100万円も達成し、押井守監督、千葉繁さん、玄田哲章さんによる新規オーディオコメンタリーが制作されることになった。5月1日午前10時には、1700万円を超えて増え続けており、新たな特典を追加することを検討しているという。
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同作は、声優の千葉さんのプロモーションフィルムを作るという自主映画企画だったが、次第に企画がスケールアップして、35ミリフィルム撮影での本格的な映画として制作され、1987年に公開された。伊藤和典さんが脚本を担当するなどアニメ「うる星やつら」の関係者、鷲尾真知子さんや田中秀幸さん、玄田さんら声優やアニメ業界関係者が参加した。故人となった声優の永井一郎さんや、アニメーターの大塚康生さんらに加え、岡本喜八監督映画の常連として知られた天本英世さんが月見の銀二役で出演した。
「紅い眼鏡」は僕の初めての実写作品であり、その後の実写作品を「売れない」「当たらない」「難解」「退屈」「道楽」さらには「呪物」といった方向へ導いた所謂「犬の呪い」の始まりであり、その一方でいまだに続いている「ケルベロス・サーガ」の原点でもあります。すでにご覧になった方々には説明不要かとも思いますが、その評価は賛否両論とか毀誉褒貶とかいうより、ハッキリ言って9割までがボロクソだった不幸な作品ではありますが、なぜかごく一部の呪われた映画好きの人々と、あの「黑い動甲冑」の発する奇怪なフェロモンに惹かれたフェチな方々にとっては「酢豆腐のように後を引く」映画になったようで、現在に至るも原版は廃棄処分されずに生き残っております。ありがたいことです。監督としてこれに勝る喜びはありません。そこでさらに一歩踏み込んで今回のリマスター版のお話です。
当時としても低予算でー粗大ゴミ置き場から回収した材料でセットを組むしかなかったような、しかもモノクロ作品である「紅い眼鏡」を、なぜいまリマスターするのか? 作品の評価は置くとして、その意義を技術的側面から説明したいと思います。「紅い眼鏡」をモノクロ作品として仕上げたいと考えた理由は、決して低予算だったからではありませんし、監督の趣味でそうなったという訳でもありません(それもありますが)。当時でもモノクロフィルムの入手はすでに困難であり、まして長編劇映画の撮影に必須でもあるフィルムのロットナンバーを揃えるという作業は困難を極めました。入手可能だったネガフィルムの絶対量には限界があり、撮影にあたってはカメラ内に残った十数秒分の端尺といえども無駄なく使用するために大切に保管され、撮影部の大きな負担にもなっていました。そこまでして、なぜモノクロフィルムに拘ったかといえば、それは一にも二にも 「紅い眼鏡」という作品にとって何より重要な「紅」という色を演出的に際立たせるー色彩設計を極限まで重要な演出要素として確保したかったからに他なりません。全編モノクロームの無彩色の世界の中で、夢とも幻ともいえるような鮮やかさで浮かび上がる「紅」の色彩は、この作品がどうしても獲得しなければならない色であり、すべての演出方針はこの獲得目標に向けて決定されなければならなかったからなのです。紅一という主人公の名前も、幻影の紅い少女(赤頭巾)も、あの黑い動甲冑の暗闇に輝く電子眼の紅い色も、全てはその「紅」に向けて収斂すべき伏線だったのです。まあ撮影中の思いつきだったりもしますが。
当時はデジタルなどという結構な手段は存在しませんから、ラストシーンでモノクロの世界から鮮やかに浮かび上がる「紅い少女」の色彩をワンカット内で実現するために、カメラマンの間宮さんと知恵を絞りました。その結論が「モノクロネガフィルムで撮影し、それをカラーポジに焼き付けることで、カラーフィルムの世界に擬似的にモノクロの世界を出現させる」という方法でした。この方法は副産物として、モノクロの柔和なトーンに微妙な粒状を加えて、伝統的な邦画の世界の情緒的な映像と一線を画す、という効果を上げることも可能としたのです。ご存知でしたか? 実はそうだったんです。この疑似モノクロ映画はネガフィルムを確保するために奔走し、ラボでのオプティカルテストを繰り返し、映像のキレを担保するためにズームレンズの多用による現場の効率化を退けて敢えてレンズ交換を繰り返し……オカネはなかったけど手間暇だけはふんだんにかけて制作した映画だったのです。いやあ、本当に大変だったなあ、といっても苦労したのはスタッフだけで、監督である僕自身は初めての実写映画の現場を堪能しただけなんですけど。この疑似モノクロ映画の微妙な色彩の体験は、本来はオリジナルプリントの上映によってしか実感できないのですが、もし現在の技術でリマスターできるのであれば、DVD や LD でしか鑑賞できなかった方々や、遠い記憶の彼方にあるスクリーン体験を蘇らせたいという物好きな方々に、新たな映像体験を提供できるのではないかー。それは呪われた映画を撮って、本人も呪われた監督になってしまったオシイ個人のささやかな願望でもあります。
というわけで、すでにDVDをお持ちの方にもお願いです。「紅い眼鏡」の「紅」をーモノクロの世界から鮮やかに浮かび上がる「紅い少女」をこの眼で観たい、確認したいという殊勝な方々へ今回の企画への賛同をお願い致します。目標額に達しなくても恨んだりしませんから。
時が経つのは早いもので、気がつけばあの狂乱の日々から38年! そもそも事の始まりは数々のアニメ作品で音響監督をなさっていた斯波重治さんから私のファンクラブ向けに詩の朗読やショートドラマなどを収録したLPレコードを作りたいんだがどうだろう?という有り難いお話からだった。ところがその企画に押井守監督や脚本家の伊藤和典さんが参加したところから話はどんどん大きくなっていった。「どうせなら映像の方がファンも喜ぶのでは?」「いやいや、だったらいっその事35mm の映画にしようよ!」などと話は盛り上がり、最初は穏やかに微笑んでいた斯波さんの顔が徐々に青みを増していき、気が付いたら夕方6時くらいに撮影現場に入り朝日が昇ってきたら終了解散という前に進むことしか考えない魔物が走り始めていた! 小平の廃工場、横浜の安ホテル、東京湾埋立地、その他数えきれないほどの怪しげなロケ現場で牛丼を貪り、赤い眼鏡の裏に仕込まれた豆電球で瞼を焦がされ、どぶ川の水をしこたま飲み腹をくだし、拷問台に縛り付けられ殺意ある水責めに死にかかり、深夜3時に長い階段を何度も駆け上がり足が攣り、狭いトイレで殴り合いの末強烈な下痢に襲われのたうち回り、前貼りもつけず白塗りの輩を撃退し、非合法の立ち食い蕎麦屋で不味い蕎麦を啜りなどなど夢の断片を彷徨い歩く日々が続いた。そのため睡眠不足と過労がピークに達し直立姿勢でカチンコを握ったまま爆睡していた助監督やら、隣のセットでひたすら穴を掘り続け結局その労働が報われることなくスコップを枕に横たわったスタッフやらやらの魂が明け方の撮影現場に浮遊していた。だがそんな環境にあっても我々は押井監督の「夢の世界」に酔いしれ踊っていたのだ! そして「あの夢」は今も続いている……。
プロデューサー:斯波重治、林大介▽脚本:伊藤和典、押井守▽撮影監督:間宮庸介▽照明監督:保坂芳美▽助監督:伊藤和典▽音楽:川井憲次▽プロテクトギアデザイン:出渕裕▽エンブレムデザイン:高田明美▽出演:千葉繁、鷲尾真知子、田中秀幸、玄田哲章、兵藤まこ、永井一郎、天本英世ほか
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