吉野裕行:「怪獣8号」 怪獣9号の声に“ゾクっと”させられる理由 気持ち悪く、不快に、不安定に

「怪獣8号」に登場した怪獣9号(C)防衛隊第3部隊(C)松本直也/集英社
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「怪獣8号」に登場した怪獣9号(C)防衛隊第3部隊(C)松本直也/集英社

 集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載中の松本直也さんの人気マンガが原作のアニメ「怪獣8号」。怪獣を討伐する日本防衛隊の前に突如現れた人の言葉を話す謎の怪獣・怪獣9号を演じるのが、人気声優の吉野裕行さんだ。怪獣9号の圧倒的な強さ、目的も思考も分からない気味の悪さもさることながら、独特の声に思わずゾクッとさせられたファンも多いはず。吉野さんは怪獣9号の“声”をどうやって表現しているのか、どうしてあんなにも不気味に響くのか。吉野さん本人に聞いてみた。

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 ◇怪獣9号は「割とふざけた人」 不快に聞こえる不安定な音

 「怪獣8号」の原作は、2021年に「次にくるマンガ大賞2021」のウェブマンガ部門の大賞にも選ばれた話題作。怪獣が容赦なく日常を侵す“怪獣大国・日本”を舞台に、謎の幼獣に寄生され、怪獣に変身してしまった主人公・日比野カフカの活躍を描く。テレビ東京系ほかで毎週土曜午後11時に放送中で、X(旧ツイッター)でも全世界リアルタイム配信されている。

 吉野さんが演じる怪獣9号は、人間の言葉を理解し話すことができ、ほかの怪獣を操るようなそぶりも見せるなど前代未聞の特徴を持つ人型の怪獣。さらには、人間に擬態することもできるようで、第4話で初登場した際には、穂高タカミチ(杉田智和さん)という人間に化けていた。

 吉野さんは、原作のあるアニメで役作りをする際は、自分が原作を読んだ時にそのキャラクターから“聞こえる声”を再現するようにしているという。怪獣9号から聞こえてきたのは「割とふざけた人」の声だった。

 「そもそも“人”ではないですけど、たちの悪いタイプですよね。無責任というか、善悪より自分の興味を優先する、一番困るタイプですよね。そういうふざけた部分が見え隠れするといいなと」

 怪獣9号は、第4話で日本防衛隊の隊員で“史上最高の逸材”とも呼ばれる四ノ宮キコルを驚異的な強さで圧倒した。第7話でも、新人隊員の市川レノ、古橋伊春を襲ったが、殺意があるというよりは、どのくらいの攻撃で人間の体が壊れるのか“実験”しているようにも見えた。不気味な存在である怪獣9号を演じる上で、“気持ち悪さ”を意識しているという。

 「あまり極端な抑揚をつけないでフラットにしゃべるというか。テンションで言うと、低いところの下のほうだけど低すぎず、でも決して中盤より上にはいかないところ。何というかジメっとした感じですよね。キノコみたいな、菌類みたいな感じ」

 さらに「年齢も分からないように」とこだわりを語る。

 「どうしても、強かったり、説得力のあるタイプになると、自動的に年齢感は上がっていきますよね。でも、あまりそうしたくない。言っている内容がすごくレベルが高くなったとしても、言い方は子供っぽく。そこのアンバランスさが不快に聞こえる。聞く人がズレているんじゃないか?と感じるような部分をちゃんと表現できるといいのかなと思っています。かっちり決まっていない不安定な部分というか。でも、彼のメンタルが不安定なのではなくて、音になって出ているものが安定していない、くらいがいいのかなと」

 ◇「考えてタのか」「外にデられない」 カタカナを音に

 原作では、怪獣9号のせりふは「考えてタのか」「外にデられない」などカタカナが混じるのが特徴で、アニメの台本でも原作と同じように表記されている。吉野さんは、カタカナ混じりのせりふも表現しようとしているという。

 「松本先生の意図は聞いていないので私にも分からないのですが、本当は不協和音みたいなものなのかなと。ただ、そこにこだわりすぎると、聞き取りづらいし、むしろ見ている皆さんの集中をそいでしまうのでは? かといって、無視はしたくないから、邪魔しない程度にカタカナの部分をくみ取りつつやれる違和感を狙いました。『外にデられない』というせりふなら、『デ』だけ音を言い直す。カタカナだけ文章の流れにそぐわない高さの音で、外れた音で発声する。聞く人は、そのほうが嫌でしょ? 人間の生理に合わない。そういう存在であってほしいかなと」

 第7話の収録では、怪獣9号と対峙(たいじ)する市川レノ役の加藤渉さん、古橋伊春役の新祐樹さんと掛け合いをすることになった。怪獣9号のキャラクター的に、掛け合いも「自分のペースで自分で展開する」形になったという。

 「もちろん、相手のせりふは聞かないと返せないから聞いていますが、第7話で怪獣9号は、人間が自分の攻撃にどこまで耐えられるんだろう?というのを見ているわけじゃないですか。けど、そこに対象への思い、心はないかなって。ただ、現実として今起きている事象を受け止めているだけ。怪獣9号としてはある程度楽しんでいる部分もあるので、防衛隊メンバーは意識しないようにやっていました。皆さんは“チーム”という感じでしたよ。こっちは勝手に1人で湧いてきたみたいな感じですから(笑い)」

 最後に、「怪獣8号」の今後の見どころを聞いた。

 「怪獣9号を演じてはいますが、やっぱり隊員たちが気になります。魅力的なキャラクターが次々と登場して、見ている皆さんにもそれぞれの推しが生まれるわけですから。私が特に気になるのは、保科宗四郎。目が閉じていて、肝心な時にしか開かない。しかも、関西弁ですし、ほぼ肉弾戦に近い距離感で怪獣とやり合うでしょ。盛りすぎですよね(笑い)。絶対人気があるでしょう。今後、あのキャラクターがどうなるのか、気になりますね」

 今後、怪獣9号と日本防衛隊がどんな戦いを繰り広げるのか、そもそも怪獣9号は何者なのか。吉野さんの怪演に注目したい。

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