ダンダダン:原作の“密度”をアニメで再現 ギャップとテンポで魅せる 山代風我監督に聞く

「ダンダダン」の一場面(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
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「ダンダダン」の一場面(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

 集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載中の龍幸伸さんの人気マンガが原作のテレビアニメ「ダンダダン」。10月にMBS・TBS系の深夜アニメ枠「スーパーアニメイズムTURBO」で放送をスタートし、迫力のバトルシーン、サイケデリックな色遣い、息もつかせぬスピーディー展開など斬新な映像が話題になっている。アニメを手掛けるのはサイエンスSARU所属の山代風我監督。「犬王」「平家物語」「映像研には手を出すな!」などに参加し、「ダンダダン」で初めて監督を務める。山代監督に制作のこだわりを聞いた。

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 ◇オカルト、特撮の“小ネタ”をちりばめる

 「ダンダダン」は、宇宙人を信じない少女・モモ(綾瀬桃)と、幽霊を信じないオカルトマニアの少年・オカルン(高倉健)が圧倒的怪奇に出会う……というストーリー。心霊スポットのトンネルでターボババアに遭遇したオカルンは、呪いによる力で変身できる体になり、霊媒師の家系のモモは、セルポ星人に襲われたことをきっかけに秘められた超能力が目覚める。二人は、特殊な力を発動させ、次々と現れる怪異に立ち向かうことになる。

 山代監督は、原作を読み「ガツンときた」と衝撃を受けたという。

 「刺激的に感じました。スタイリッシュなアクションものと、ラブコメという二つの柱がしっかり立っていて、その間をすごい速さで行き来するスピード感もある。いろいろなところにギャップがあり、それが素早いテンポ感を生み出しているように感じました。龍先生が好きなものをそのまま描いていて、ごちゃごちゃしているように見えて、まとまりがあるというか。いろいろなものがいい方向にミックスされていて、すごく作品が生き生きしている感じがしました」

 山代監督が、「ダンダダン」をアニメ化する上で大事にしたのは、「原作の“密度感”をアニメで再現する」ことだった。そのため作中に登場する妖怪や宇宙人を調べ尽くし、さまざまな“小ネタ”をちりばめているという。

 「原作が、小ネタを散りばめるスタイルなので、映像もそのようなスタイルの方がいいと思いました。例えば、アクロバティックさらさらは、左手に自傷痕があります。本編ではドラマの中でその部分に怪我をさせてそれがいつまでも心残りのように残っている。それを衣装で隠していますが、戦闘の影響で見えるようになります。霧を発するフラットウッズモンスターは、テーマカラーを黒に設定し、発した霧の影響で画面も黒く染まります。また、浮くという特徴があるので、体内がガスで充満している設定にして天井に張り付いた状態で登場させたり、重量級に見せかけてガスの体であったり、そういう拾い方をしようと。映像化によって原作に時間が与えられて、良くも悪くも行間を確定してしまい、リアリティーラインが上がって立体的になってしまいますから、行間を作品にあった形で正確に埋めていかないと、圧縮された濃度が薄く引き伸ばされる感じがしてしまいます。そうならないように、原作を読んだ読後感、印象を映像でも再現できるといいなと。映像ならではの遊び、特性を活用して原作の世界観を正しく補完していく。妖怪や宇宙人それぞれの特性や、関連性のあるものを必然性のある形や、ギミックとして混ぜて、龍先生が足しそうな『ダンダダン』の本編に混ざってもおかしくない『匂い』のものを小ネタや描写として足していき、世界観の立体化に貢献できるといいなといった感じです」

 さらに、原作から円谷プロなどの特撮作品の影響も感じた山代監督は、その要素もアニメに加えていったという。

 「龍先生は、成田亨先生を敬愛されていると過去のインタビューで拝見しましたので、『ウルトラQ』から『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』あたりの初期の円谷作品の映像のニュアンス、匂いが感じられるといいなと思いました。そうした過去の表現方法を新しい今の映像のスタイルの中に差し込んでいくことで、今の若い人にも新鮮に見えるのかもしれないなと。また、原作の特徴であるごった煮感、ごちゃごちゃ混ざっている印象を映像方面からも感じさせることができるなと思いそうしました」

 山代監督は、コメディーのテンポ感は、「木更津キャッツアイ」「うぬぼれ刑事」といった宮藤官九郎さん脚本作品も参考しているといい、「いろいろなものを混ぜて作っていくのが『ダンダダン』という作品に合うのではないかと。組み合わせと引き出しの数で戦おうという」とこだわりを語る。

 ◇原作のコマ割り、情報量をアニメに落とし込むために

 さまざまな要素をちりばめ、さらに原作の魅力をアニメで表現するために山代監督が重要視したのは、「ギャップ」と「テンポ感」だった。例えば、フラットウッズモンスターの登場シーンは、原作では登場前に小さなコマで「ズシーン」と描き文字が入り、ページをめくると見開きでフラットウッズモンスターが迫力ある姿で登場する。アニメでは、フラットウッズモンスターが上から降ってくる形で登場させた。

 「原作の『ズシーン』をどう表現すればいいのか考えた時に、上から降ってきたというのが動きもあり分かりやすく、よりダイナミックな感じも出せる。原作も、ダイナミックに大きな印象として見せたいから見開きでフラットウッズモンスターを登場させたのだろうと。原作では、その前のページでコマをどんどん小さくしていき、提示する情報を制限してテンポを上げて行っています。次に見開きで、視野がバッと広がり、読者に情報が一気に流れて一瞬時間が止まる感覚を表現しようとしていると思います。しかし映像ではフレームが決まっているところもあり、同じ描写をそのまま映像に起こすだけでは原作を読んだ時のあの感覚を正しく表現することが難しいと思いました。ですから映像では天井に張り付いての登場にしました。ガスが天井から降りてくるので整合性も取れるし、何より重量級の物体が天井に張り付いているといったあべこべ感、私たちの物理や倫理観とは異なる状況に一瞬時間が止まるような、原作と似たようなあの感覚になるのではないかなと思いそうしました。その後の落下で大きさやダイナミックさを強調できます。原作の情報の順番や要素を分解してメディアの差を埋めるような形で再構築し、原作の印象を再現していく。そんな感じで作ろうとしています」

 さまざまなシーンでギャップを出そうとしているといい、キャラクターの会話のテンポも「緩急を大事にしている」と説明する。

 「声優さんの芝居も、メリハリをつけて情緒不安定のような感じが欲しいです、というオーダーをしています。コメディーかと思えば、いきなりシリアスになって、またコメディーになって、声が裏返ってしまってもいい。基本的にはどのキャラクターも早口で、通常のアニメより1.25倍くらいの速度感で掛け合いをしていただいています。会話が終われば、すぐにカットを切り替えて次に行く。コミカルな掛け合いは早いが、内面に迫るような会話はゆっくり読んでもらって落差が生まれるようにしています。会話でも落差を作っていくことが目的ですが、コメディーで笑っていると突然ドキッと刺されるような感覚にもできるといいなというのが狙いです。結果そのシーンが立つので効果的だと思います」

 テンポでもビジュアルの面でもギャップを見せる。山代監督が目指しているのは、原作の“空気感”や“匂い”を映像で表現することだという。

 「映像は、表現媒体の特徴としてマンガよりも情報量が増えてしまいます。物理的な動き、音、色、時間を自由にいじれてしまうので、情報の交通整理やバランスが大切だと思います。一つボタンをかけ違うと原作の持つ『空気感』や『匂い』が崩れてしまい全く異なった印象になってしまうこともあると思います。ただ、それらをうまいこと操ることができればマンガそのままの印象で、さらに生き生きと作品を彩ることができると思いますし、そこを目指して取り組んでいます。もちろん映像は大多数のスタッフの協力と努力のもとに成り立っています。うまいこと原作の空気感や印象を映像に落とし込めていると感じていただけるのであれば、それは作品の方向性を理解し、自分のセクションで求められている以上の力を発揮してくださったスタッフのみなさまのおかげであり、それはしっかりと作品からも滲み出ているので、そういった各セクションのスタッフの仕事にも注目していただけると、とても嬉しいです」

 原作の魅力を最大限に表現するべく、演出がちりばめられたアニメ「ダンダダン」。原作の名シーンがアニメでどう表現されるのか、見逃せない。

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