ハイトーンボイスが魅力のシンガー、小野正利さん。1992年にデビューすると、吉田栄作さん、石田ゆり子さん、南野陽子さんらが出演したドラマ「君のためにできること」(フジテレビ系)の主題歌のバラード「You're the Only…」がミリオンヒットを記録。同年の日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞し、NHK紅白歌合戦に初出場した。現在はソロ活動を続けながら、ヘヴィメタルバンド「GALNERYUS(ガルネリウス)」のボーカルとしても活躍。今年、「GALNERYUS」はメジャーデビュー20周年の記念アルバムをリリース、全国ツアーを展開中だ。小野さんに、ブレークした1992年当時の心境や「You're the Only…」への思いを聞いた。(前後編の前編)
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小野さんは1967年1月29日、東京都に生まれた。アマチュアでのバンド活動を経て1992年5月、「ピュアになれ」でソロデビュー。ミリオンヒットとなった「You’re the Only…」は同年8月にリリースした3枚目のシングルだった。
「アマチュアで活動していて、とりあえず目標としてはデビューしたい、と。縁があってソロでデビューすることになって。次の思いとしては、やっぱり売れたいと。そうは言っても特にそれまでソロで楽曲を自分で作って活動していたわけではないので、ちょっとずつ、じわじわと頑張ろうと思ってた矢先に、どういういきさつか知らないんですけど、ドラマの主題歌が決まった、という話になって」
ドラマの主題歌からミリオンヒットが多数生まれていた時代。「You're the Only…」も放送が始まると瞬く間に話題になった。
「当時のレコード会社の担当も驚いてましたね。毎日、全国のCDショップから注文が何万枚も来ていると叫んでいて。担当もこういう売れ方を経験したことがないから、100万枚売れるってこういうことなんだねって。僕ももちろん初めてだから分からないけど、すごいことになってるなとは思いました。みんなで浮き足立ってましたね」
ただ、一抹の不安もあった。
「売れるということに関しては達成されるかもしれないぞと思ったんですが、地固めができていないところで売れても、単発で終わるのではないかと。ヒットしたときは、うれしさ8割、不安2割でしたね。バラードで売れてバラードシンガーって言われてるから、バラードで押し切ればいいのかなと、そんなことを25歳でつらつら考えていたんです」
その不安などが言動に表れていたのか、当時は取材を受けたり、テレビに出演したりしても、「例えば『笑っていいとも!』に出たときにタモリさんに『あれ、小野君うれしくないの?』っていわれて、『いや、うれしいんですけど……』といった感じでした」と手放しで喜んでいたわけではなかった。
「同じ年にデビューしたミスチル(Mr.Children)は、じわじわと話題になっていったので、ああいう感じになれたらよかったなと思っていました。もちろん、もともとの才能もおありでしょうから一概には言えませんが、うらやましく見ていた時期はありましたね。あと、広瀬香美さんも同じ年のデビューで、のちに“冬の女王”として毎年ヒット曲を出し続けて、あれはあれで大変だったと思いますけれど、100万枚のヒットは確かに素晴らしいし、そうそう経験できることではないけれど、10万枚が10年続いた方がよかったな、と当時は思いました」
「You're the Only…」が大ヒットしたことで、レコード大賞最優秀新人賞をはじめ各賞を受賞、紅白歌合戦に初出場するなど、めったにできない経験ができたことも確かだ。
「ポップスのソロという活動をアマチュアのときはしていなかったので、レコード大賞とか紅白などの存在をほとんど意識してなかったんです。だから仕事帰りの新幹線の中で、当時のマネジャーに『紅白決まったから』って言われて、『はい?』って。『紅白ってありましたね。出るんですか』ってピンと来ていなかった」
バンドをやっていたため、年末はライブをするもんだと漠然と考えていたが、紅白が決まると、「親戚一同の喜び方がすごかった」という。
「親戚や同級生が増えました(笑)。これはもう、親戚孝行として良いことなんだなと思って。そのとき、祖父母の中で秋田の父方の祖母だけが存命だったんですよ。その祖母が喜ぶならそれでいいと。紅白当日に美川憲一さんから『誰に一番見てほしいですか』と質問されて、『秋田の祖母です』みたいな答えをしたんですけど、そうしたら母方の親戚から大バッシングで(笑)。『正利は秋田のことしか言わない』と。そんなふうに親戚が盛り上がってましたね」
「多くの人が見ているんだなと思ったら本番はやっぱり緊張しました」と言いつつも、「そうそうたる方々が出場しているので、本物に会えたことがうれしかったですね」とも。
「森進一さんにごあいさつしたら、優しい方で、『小野さん、いつもテレビで見てますよ。いい声してますね』って言っていただいて、恐縮しました。うちの母が森さんが好きなので自慢してやりました。あと、小林旭さんが出演されていたんですけれど、今から32年前なので多分、今の僕より年下(当時54歳)だったんじゃないかと思いますけれど、とんでもない貫禄でした」
また、同年の紅白ではXのYOSHIKIさんが紅白のテーマソング「TEARS(ティアーズ)」を作って出場歌手全員で歌うコーナーもあった。
「NHKの方が割り振りを考えて、僕とXのボーカルのTOSHIさんを並ばせて2人で一緒に歌うパートがあって。そうしたらTOSHIさんからリハーサル終わった後に、『小野さんは声が高いから、僕の上(のパート)を歌ってくださいよ』って言われて、『何言ってんですか、一緒にユニゾン(同じ高さの音)で歌いましょうよ』って言って(笑)」と32年前の紅白の裏話を明かした。
最近はリバイバルブームで、1990年代をヒット曲で振り返るようなテレビの特番なども増えているが、32年活動を続けている小野さんだからこそ、声がかかることも多いという。
「やっぱりデビューして32年たっても、その曲(『You're the Only…』)で呼んでいただけるというのは。確実に代表曲ですので、本当にありがたいなと思いますね。代表曲があって良かった」としみじみ語った。
後編は、自身の特徴でもあるハイトーンボイスへの思いや、海外でも評判の現在の活動について語る。
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