NHKのドキュメンタリー番組「ドキュメント72時間」（総合）。この1年の番組の中から視聴者投票で選ばれたベスト10を一挙に振り返る恒例の「年末スペシャル2025」が、12月30日午後0時15分〜同8時42分（途中ニュース等で中断あり）に放送される。枠を拡大して放送される今年は、全国各地から「ドキュメント72時間」の熱烈なファンがスタジオに集結。それぞれの“番組の楽しみ方”を披露するという新たな試みもある。そんな“熱烈なファン”を生む背景とは？　番組を手がける岡部綾子、桜井和紀両チーフプロデューサーに話を聞いた。

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　◇番組に登場するのは「市井の人々」

　番組は、毎回一つの現場にカメラを据え、そこで起きるさまざまな人間模様を72時間にわたって定点観測するドキュメンタリー番組。偶然出会った人たちの話に耳を傾け、“今”という時代を切り取る。

　番組に登場するのは、普段、意識せずに街を歩いていれば、ほとんど目に留まることのない、ただすれ違うだけの「市井の人々」だ。そんな人々の言葉には、番組に登場しなければ知る術もなかった分、多くの共感や発見、気づきが詰まっていたりもする。そこの“リアルさ”は視聴者を惹（ひ）きつけてやまないものの一つなのかもしれない。

　結果として、一つのテーマ（場所）を見ているというより、「時代を見ている」気分にもなれる。その点について岡部さんは「番組としても大事にしているし、視聴者の方々に受け入れられている部分なのかなと思います」と話す。

　桜井さんも「視聴者の方々は必ずしも“いい話”を聞きたいわけではなくて、『生きる』ってこういうことなんだ、というリアルな部分を求めていらっしゃる印象はあります」と教えてくれた。

　◇「想定通りに行かないケースも多い」が…

　番組制作においては、各回の担当ディレクターが、現場で出会った人々のどんなところに興味を引かれたのか、「もっと知りたい」「教えてほしい」と思った部分をそのまま大事に編集することを心がけているという。そこには「えっ、どういうこと？」と驚き、思わず心に留（と）めたくなる言葉があり、知っているようで知らなかった気づきもある。

　岡部さんは「（収録場所が）こういう所だったら、こういう人がいて、こういう話が出てくるだろうな、という想像を覆されていく感じ、発見することの気持ち良さが（番組には）残っているのかなとも思っていて。他のドキュメンタリー番組だと追加で取材をしたり、理路整然と構成したりということがあると思うのですが、この番組は時系列を崩さず、72時間で撮影を終えるというルールを守り、その日その場所で出会った人に聞いて感じたことがすべて。ディレクターが出会った、その人にしか出てこない話、それぞれの立場から出てくる言葉のディテールが大事だと思っています」と話す。

　もちろん、「この場所に、この日この時間に行けば、こういう人が来るだろう」という想定は立てていくが、想定はあくまで想定。「全く想定通りに行かないケースも多い」と明かす桜井さん。

　「場所にひもづくテーマめいたものは、想定はもちろんするのですが、結果、その通りにならないことも結構ある。やっぱり人の人生って複雑ですし、だからこそ面白い。それぞれの歴史があるので、とにかく現場で発見し、虚心坦懐にその人と向き合って話を聞く。『こういうお話が聞けるかも』という想定はしてはいくけれど、それにとらわれないことが、この番組の制作においてとても大切だと思っています」と語った。

　ちなみに取材場所は基本的には各ディレクターが企画する。現場ではディレクター、カメラマン、音声の3人を1チームとし、毎回2チーム制であたっているとか。30日放送の「年末スペシャル2025」では、番組収録日に行われていたロケ現場からの“中継”もあるという。

　◇「ドキュメント72時間」らしさとは？

　通常、毎週金曜の午後10時から30分番組として放送中の「ドキュメント72時間」。週の終わりを前に、ふわっと心が軽くなったり、他者に優しくなれたりするような不思議な魅力がある。

　岡部さんは「大きなテーマやメッセージを提示する必要は感じていなくて、出てきた方のいろいろな話を聞いて、何かしらを視聴者それぞれが受け取ってもらえればいいのかなって、そうしたトーン、温度感も大事にしているものの一つです」と説明する。

　改めて「ドキュメント72時間」らしさをどんなところに感じているのか。「結局、『リアル』ってことになるのですが、人は些細と思えるかもしれないことに、すごく心を動かされるんだな」と番組制作を通して感じている岡部さん。

　「視聴者に受け入れられているのも、そうした部分のような気がします。決して何かを規定したり、一つの方向に向かった大きなテーマを提示するのではなく、『みんな、こんなにいろいろなことがあるんだ』と。時代を作っているのは人、人の集合体じゃないですか？　番組は、その人々が作るリアルな時代の断片みたいなものを撮り続けていくことで、時代の変化、価値観の変化が記録されていると感じています」と結論づける。

　一方、桜井さんは「世代とか、自分が置かれた状況によって、毎回必ず、感じるポイントがある番組だなと思うんです。30分の番組全体だけでなく『この回のこの人が』という見方、楽しみ方もあって、この先も、幅広い世代の人が、それぞれ何かしら感じる部分がある番組であり続けたいと思っています」と語っていた。