2006年に第50回岸田國士戯曲賞を受賞した演劇ユニット「ポツドール」の舞台劇を映画化した「愛の渦」が1日に公開された。今作は、ポツドール主宰の劇作家・三浦大輔さんが映画用に脚本を書き下ろしメガホンもとった作品で、マンションの一室に集った男女が、相手ややり方を変えながら体を重ねる様子を通じて、感情に振り回される人間の滑稽(こっけい)さや切なさ、むき出しになる本能を描く。親の仕送りを使ってまで参加するニートの青年を演じる池松壮亮さんと、地味で清楚(せいそ)に見えて実は性欲が強いという女子大生を演じる門脇麦さんに話を聞いた。
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相手の第一印象を池松さんは「麦ちゃんの下北沢(東京都世田谷区)のザ・スズナリで上演された舞台を前に見て、相手役が普段、僕が仲がいい(今作にも出演している)柄本時生で、『あの子誰?』と聞いたのをすごく覚えています。やっぱり光るものを持っていたし、そうじゃないかもしれないけど、何をやっていても寂しそうだったし、笑っていても何か背負っているなみたいな(笑い)。孤独の色を持っているなと(思った)」と語った。一方、門脇さんは「落ち着いているし、雰囲気も穏やかな中に、きっと何かいろいろあるんだろうなみたいなことを、最初会った時に思いました」と笑顔で語った。共演してみて改めて似ていると感じたという池松さんは「三浦さんがよくいうことなのですが、根底にどこか似ている部分があったんじゃないかなと思います」と共通点を見いだした。
上映時間123分間の中で着衣しているのが18分間だけという過激な内容の今作の印象を、門脇さんは「面白かったし、より自分の想像よりも(自分たちが演じたニートと女子大生の)2人の話になっていたというのは思いました。やっぱりこういう話だし“エログロ”を想像して皆さん見に来ると思うのですけど、三浦さんは完全にそこを逆手に取っていて、品格を保っていたしすべてアプローチにしちゃった感じが見事だなと思いました」と池松さん。門脇さんは「すごく面白いなと思ったし、やっているときから感じていたことではあるけど“プレイルーム”(プレイするためにベッドが複数用意された部屋)のシーンだったりも本当にスポーツを見ているみたいな感じで、変に湿っぽさがないというか、三浦さんがそう撮らなかったということですが、いろいろと計算しつくされていている映画だなと思いました」と率直な感想を語る。
今作の撮影では、約2週間ほど休む間もなく、早朝から深夜までの撮影が続いたという。特にタオルだけや裸といった姿での撮影が続く中で、池松さんは「2週間ぐらい毎日、同じ部屋に裸でいましたから何か変な感じにはなっちゃう(笑い)。プレイルームは麦ちゃんも言ったように、みんな感覚がまひしてスポーツみたいな感覚になっていて『さあやるぞ』『よっしゃ』みたいな感じだったので、あとから思えばもうちょっと気を使ってもよかったのかなと」と奇妙な高揚感があったと明かす。門脇さんも「女の子なので、恥ずかしいとかあるじゃないですか(笑い)。特にプレイルームのシーンについては、ネジ2、3本は飛んでいたと思います(笑い)。正直、プレイルームでの撮影はあまり覚えていない」と当時の心境を振り返る。
「家にいる時間はほとんど寝るだけで、毎日、寝に帰ってまた服を着ていって脱がされて、不思議な体験でした」としみじみ話す池松さんは、「休みの日をはさむとまた違ったのでしょうけど、(休みをはさまなかったことが)いい方向にいったのでは」と話した。特に印象深いシーンとしてプレイルームでの1シーンを挙げ、「グルグルと四つのベッドが回る、“愛の渦カット”と呼んでいるシーンは、(他の出演者が映り、僕たちが)映っていないときもある。(撮影が上から俯瞰<ふかん>した形で自分からはカメラが見えないから)麦ちゃんが見ていてくれて、『きた!』という合図で、よしいくぞと(笑い)。おかしいと思いながらやっていました」と撮影時のエピソードを披露した。
撮影が終わったときの心境を門脇さんは「疑似体験している感じがすごくあって、(映画の中の)一夜の話の流れを自分の中で追った感じがあったので、終わってからも変な感じは続きました。すっぽり抜けちゃった、空っぽになっちゃった感じというのは、(撮影終了後)1~2カ月くらいは続いたかもしれません」と表現する。今作についてを門脇さんは「デビューしてからそんなにたっていないときに、自分が心の底から面白い、愛情がある作品と出合えて、今後、何年たっても自分の中に何か一つ、軸にではないですけど、そういう作品に出合えたのはすごく恵まれていると思います」と言葉を選びながらも作品への感謝の思いを口にする。
池松さんも「『こうありたい』や『こうあるべきだ』ということに近付いている感覚はあります。単純に去年大学を卒業したというのもありますし、学生なのでやれないことがたくさんあったのでそこから解き放たれて、ここで『学生終わったのに変わらない』と言われたら辞めてやろうと思っていました。それぐらい真剣にやらなくてはと思っていた時に、『愛の渦』の話がきてすごく運がよかったというのはあります」と、門脇さんと同じく、本作が自身のキャリアにとって重要な作品になったという。
刺激的な内容の作品だが、最も面白いと思う部分を聞くと、池松さんは「すごくたくさんある」と前置きをし、「アプローチが違うだけで、描いているものはさしてほかの映画とは変わっていない。そこに日本人的だとか、男と女に関することだとか、社会性や動物性、人間性だとか、そういうものがタイトル通り渦巻いている感じ。アプローチを変えるだけでこういう見え方をするというのが新しく、人間はたくさんいるのに10人集めて裸にしてみた結果、こんなに面白くなったというところが見どころかなと思います」と熱弁をふるった。
門脇さんは「いざふたを開けてみたら笑いどころもあり、見終わったあとに、人間性や動物性とのはざまだったりということが詰め込まれていた作品。堅苦しくではなく、一夜だけの時間を通してあそこまで描かれているというのは面白いと思います」と人間の本性を描き出している脚本に注目してほしいと話す。数年後、もう一度共演するならどんな作品でと聞くと、「これだけ周りから似ているといわれたら、兄妹ぐらいいけるのでは」と池松さん。「面白そう」と返す門脇さんの言葉を受けつつも、池松さんは「だめですね。あんなことやったあとに兄妹やるなよって感じですね(笑い)」と照れながら笑った。映画はテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開中(R18指定)。
<池松壮亮さんプロフィル>
1990年7月9日生まれ。2000年に10歳で劇団四季ミュージカル「ライオンキング」のヤングシンバ役でデビュー。「ラスト・サムライ」(03年)で映画デビューを果たし、第30回サターン・若手俳優賞にノミネートされる。主な映画出演作は「鉄人28号」(05年)、「ダイブ!!」(08年)、「いけちゃんとぼく」(09年)、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(11年)など。ドラマは「15歳の志願兵」(NHK)やNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」、「Q10」(日本テレビ系)などに出演。映画は、14年には「大人ドロップ」「春を背負って」などの公開を控える。
<門脇麦さんプロフィル>
1992年8月10日生まれ。2011年のデビュー後、エーザイ「チョコラBB Feチャージ」のテレビCMが話題となり注目を集める。ドラマ「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ系)で女優デビューし、以降、映画「リアル鬼ごっこ3」(12年)、「スクールガール・コンプレックス」(13年)などに出演。13年には東京芸術劇場(東京都豊島区)で上演された、三浦大輔さん構成・演出、つかこうへいさん作の「ストリッパー物語」や東京ガスなどのCM、NHK大河ドラマ「八重の桜」にも出演している。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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