ヒットドラマ「池中玄太80キロ」などで知られる石橋冠監督が初めて手がけた映画「人生の約束」が9日に公開される。360年の歴史がある富山県射水(いみず)市新湊地区「新湊曳山(ひきやま)まつり」を題材に主演の竹野内豊さんが演じるすべてを失ったIT関連企業のCEO・中原祐馬の再生を描く。祐馬に敵対心を抱きながら徐々に打ち解けていく新湊の漁師役で江口洋介さんが出演。西田敏行さんやビートたけしさんも出演するなど豪華な顔ぶれがそろった。竹野内さんと江口さんに撮影エピソードや作品に込められた思い、今後について聞いた。
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――意外にも今回初共演だそうですが、お互いに会う前と共演してからでは印象は変わりましたか?
竹野内さん:江口さんはとにかく熱い方。石橋監督と撮影が始まる前にお会いして、すでに江口さんは何度か現地入りして漁師の人達と一緒に飲んだりしながら、「竹野内君が来ることを楽しみに待っているんだよ」と聞いていました。
その後、富山に初めて行って、江口さんとお会いしたときに、もう本当に別人ですよ。富山にいたときって江口さんじゃないですよね(笑い)。あのときは本当に漁師だったんだと。江口さんは、最初は近寄りがたい雰囲気で、バリバリの熱さというか、東京から来たやつなんて受け入れないぞという威圧感、勇ましさがにじみ出ていました。自分もあいさつ程度しか、あまりお話しできるような雰囲気ではなかったです。
江口さん:竹野内君がなぜそう思ったかというと、角刈りでジャージーを着替えないで、そのまま(撮影現場から宿泊先に)帰っていたので近寄りがたい雰囲気あったと思う。
竹野内君とは今回初めて一緒にやったんですけれど、もちろん世代的にすごく近いので(竹野内さんが出演している)いろんな作品も見ていますし、彼はスタイリッシュな役柄が多くて、今回もグローバル企業の社長役で僕が演じる鉄也と対極にある男と思って演じていました。僕は鉄也に入り込んでいたので、町の人と一緒に時間を費やし、漁師の生活スタイルとか、この映画にもある祭りを愛している人達の中に身を置く時間を作っていて。竹野内君が来たとき祐馬が来たと、みんなで最初は迎え入れないで、だんだん和解していくという本当にストーリーと同じように竹野内君と打ち解けていきましたし、どういうふうに物語が転がっていくのかというのを常に感じながらやっていて、撮影は楽しかったですね。
――江口さんは角刈りは初めてだったと思いますが、抵抗はなかったんですか。
江口さん:抵抗はなかったな。これをやる前にちょうど少し伸ばしていたんですよ。何回か(新湊の)現場に行っているうちに、町の中に床屋(理髪店)がすごくたくさんあるんですよね。(西田敏行さん演じる)玄さんの理髪店も本当にあったし。みんなここに切りに行っているのかなって。船を整備している人たちに角刈りのお父さんが結構いっぱいいたんです。この感じだなと思いながら、自分の中でインプットして、角刈りにした方が面白いなと。
――江口ファンはびっくりしたと思うんですけれど。
ここまで容姿的になり切るのはね。一回切っちゃったらそのままですからね。それしかできないという。だからとことんやってみようという気になる一つの手段でもありました。
――お二人ともイメージにぴったりの役柄でしたが、もし逆に相手の役を演じることになったら?
江口さん:俺もカッコよくスーツ着て黒塗りの車に乗ってバーンと出てみたい(笑い)。
竹野内さん:僕は江口さんのように角刈りもやってみたいと思います。方言とかのある役っていままでやったことないんですよね。だから方言のある役って憧れます。
江口さん:その(役の)気になれるしね。富山弁は漁師町の言葉なんですけど、そんなに荒くなく、なんとなく柔らかい言葉で、共通語(標準語)と違って方言ならではのものがありました。僕はすごくやりやすかったですね。もちろんせりふを覚えるまでは何回も聞いて、地元の方に現場に来てもらってずっとやってましたけれど。
――町の居酒屋に2人で飲みに行ったとか。
江口さん:映画的にも2人打ち解けてくるからそろそろいいかなって思ったんです。まず釣りに誘って、僕はキスを釣って。竹野内君が大きなアイナメが釣れたんですよ。泊まっているホテルの前にいつも行っていた居酒屋があって。取れた魚を持って行ったらすぐにさばいてくれて。それらを肴(さかな)にいろいろ飲み明かしました。地方ロケならではで、本当に魚がおいしかった。それでいろんな話をするようになっていったんです。
竹野内さん:おいしかった。
江口さん;翌日撮影するシーンについて、こういうふうにやろうかとか、先輩の話、俺の家族の話とか。竹野内君も結構(話のネタを)出してくるんですよ(笑い)。それがものすごく僕はうれしくて。自分がどう生きているかという話までしてくれて。思わず酒が進みましたね。
――2人とも結構飲まれるんですか?
竹野内さん:江口さんは結構飲みますよ。
江口さん:竹野内君は飲むとすごく冗舌になる(笑い)。ワーッて話してくるから。
竹野内さん:そんなに話してないですよ(苦笑)。
江口さん:いやいやしてましたよ。こういう作品ならではの(人生などの)会話になりますよね、不思議と。
竹野内さん:江口さんと飲みに行くと本当に面白いんです(笑い)。
江口さん:竹野内君が聞いてくれるから俺もいろいろ話して。竹野内君は聞き上手で話し上手。
――けんかしたり、殴り合ったり、暑苦しくて優しい映画です。
江口さん:これはいろんな優しさ、愛情がすごく入っている映画だと思う。
――殴り合うことって今の時代ないですよね。
江口さん:映画でもドラマでも昔はそういうシーンがいっぱいありましたよね。映画だからこそいろいろ面白いことができるんじゃないかな。いきなり人を殴ったり。見ている方がひやっとするという。ファンタジーですよね。最初、鉄也は町のことや家族のことなどいろんなストレスがあって、そこに来た祐馬に全部ぶつけたみたいな形になっていますけれどもね。
竹野内さん:もちろん痛かったですけれど(笑い)。
江口さん:本気では殴ってないですよ。もちろん映画ですから。殴れという監督もいますけれども、石橋さんは絶対にそういうことはおっしゃらないと思いますね。
竹野内さん:心に突き刺さる痛みでしたね。今、ないですもんね。殴り合いのけんかして握手とか。昔は取っ組み合いのけんかしたりして、そこで初めて打ち解けていくという。
――竹野内さんは曳山引いているうちにどんどん声が出て、涙も出ています。
竹野内さん:台本には「イヤサーイヤサー」って声を出すとかはあまり具体的には書いてなかったかな。自然に導かれていった感じですね。(状況に)引っ張られていったというか。
江口さん:あのシーンは最後の最後に撮りましたけど、ずーっと回して、竹野内さんから出てくるものを待つという感じでした。
――人とつながることを描いた映画ですが、撮ったあとで何か影響を受けたことはありますか。
竹野内さん:どこかで変わっているという部分ももちろんあるんですけれど、本当の意味でちゃんと分かっているのかというのは、まだまだですね。この映画に参加できたことも、今、この映画を撮り終えて、自分が、冠さんのこの映画の中で込めたかった、伝えたかったことというのは、今後どんどん、時間とともにより大きなものに、深さというか厚みはもっともっとあとに分かってくることなんじゃないのかなと思っています。79歳を迎えた冠さんですけれど、自分もそこまで頑張ったときに初めて冠さんが本当に伝えたかったことが改めて分かるんでしょうね。
江口さん:見た人たちから感想を聞くことでつながる作品だと思います。よかったといってもそれぞれポイントが違う。そういう意味でも終わったあと余韻を引きずる映画。誰が見ても自分史に置き換えられるようなね。僕もこの作品をやりながら、思わず自分に振り替えて役に臨んだりするという感覚でした。30、40代で社会派のドラマとかいろんな役をやってきて、竹野内君もそうだと思うんだけど、一度この年齢でこういう作品に携われて、自分のバックボーンだったりを感じられるという意味ではすごくありがたい作品です。
――この映画でお二人、いい出会いができたんですね。
江口さん:また竹野内君とは全然違う作品でご一緒できたら。
――2人で共演するとしたらどんな作品がいいですか。
江口さん:僕は刑事のバディものが面白いと思います。まったく違うタイプでね。
竹野内さん:面白いですよね。刑事ものとかやったことないので。今度は外洋に出て大間のクロマグロを取るというのは?
江口さん:過酷な撮影になるだろうな。
竹野内さん:でもなんかそういう今回のように地方の、日本人がまだまだ知らない景色とかたくさんあって、本当にこういう映画をやることによって初めてその地域の人々の生活とか、いろんなよさを知ることができるし、日本にもまだこんないいところが残っているんだって知ることもできていいんですね。
でも、その一方で江口さんとハワイとかそういうところでしばらくのんびりロケをやってみたい。
江口さん:いいですね。ハワイロケ。海外ロケ、いいですね。
――コメディーとか。
江口さん:上海を舞台にした作品とかね、なるほど、いろいろ広がりますね。
――それでは最後にエールを交換してください。
竹野内さん:江口さんのように、はったりとかじゃなくて本当に心の底から熱いものを持っている方ってなかなかいらっしゃらないので、今後ともよろしくお願いします。
江口さん:自分では熱いとか思わないんですけど、竹野内君こそ熱いですよ。竹野内君はいい意味で頑固さがあると思う。すごくこだわりがあって、真っすぐに話をするので、これからの竹野内君の人生でいろんなことが起こったときに、本当の頑固さが出てくるんじゃないかと。今も節々に話しているとあるんですよ。そこがすごく面白い。また一緒に仕事をしてみたいなと思います。
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