本谷有希子さん:芥川賞受賞は「エサのようなもの」 アニメ声優についても語る 会見一問一答

「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」で芥川賞を受賞した本谷有希子さん
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「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」で芥川賞を受賞した本谷有希子さん

 第154回芥川龍之介賞(以下、芥川賞 )を受賞した本谷有希子さんが19日、東京都内のホテルで行われた受賞会見に出席した。「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」(群像11月号)で受賞を決めた本谷有希子さんは「自分が取れてうれしいかは頭が真っ白で分からないけど、これで周りのみんなが喜んでくれる。それがすごくうれしい」と喜びを語った。会見のおもな一問一答は以下の通り。

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 --まず一言。

 今は頭が真っ白な状態で。滝口さん(同時受賞の滝口悠生さん)のコメントを聞いて、ああいう風に率直に言っていいんだなと安心しました。

 --選考の中に、これまでの凶暴さが失われて残念という評価があるが。

 これまで激しい欲望、感情を持った人が出てくる小説を書き続けてきたので。今回専業主婦のさんちゃんは激しい感情に動かされることなく、のらくら生きている。小説はそのときの(自分の)人格に引っ張られちゃうので、最近はのらくらしたりだらしなく、というのが自分になっているので。今の私が激しく書いても期待に沿えるような激しさではないんじゃないかなと。またすぐ激しくなると思います(笑い)。

 --昨年の10月のおめでた(出産)と今回のおめでとうの共通点は。

 昨年の10月のおめでとうは、第1子の娘を出産したおめでとうで。赤ちゃんがおなかにいたときに小説を書いていて、2年半ずっとのらくらして、ちゃんと形になる小説を書けていなかった。でも出産までに、なんとか小説を書かなきゃいけないと思ったときに初めて書けた。今まで3回だめだったのに、彼女が生まれて4回目で受賞できたので、自分の中では娘と今回のことは関連しているような気がします。

 --長女を出産されて、自分で顔が似ていると言っていた。今回の小説でも主人公とパートナーの顔が似てくるという話。書いているときに、自身とパートナーの顔が似てくるという現象があったのか。

 ありました。本当のこの話のきっかけは、実は、(パソコンで)写真の整理をしたときに、「この顔の人を全部勝手にパソコンがより分けてくれる」という機能があるらしく、それをしたときに、パソコン内では私のことをだんなさんと認識して一つのフォルダに入れていたという話を聞いたのがきっかけ。そういう現象ってあるんだなと思ったことから、一段落目を書いて。そのとき、夫婦が顔が似てくるという中にある薄気味悪さを感じとったときに、これは書けるかもしれないという予感があった。

 --今日のファッションのポイントについて。特に靴下が……(互い違い)。
 
 正直(賞を)取ると思ってなくて、着ていく服も決めてなかった。取って、10分後に出発だといわれて。(靴下を)履いたときに、ああ、間違えたと思ったけど、そのまま来た。でも、もともと靴下ぐちゃぐちゃに履くのが好きなので(笑い)。

 --配偶者は受賞作を読んでいるのか。
 
 「群像」に掲載された時点で読んでいる。チラチラ私の原稿を見ていて、たぶん夫婦の話だなと自分が出てくると期待していたらしいけど、本当の旦那さん像と、この話に出てくる“楽をしたい旦那さん”像は真逆なので、とてもがっかりしていた。

 
 --アニメ「彼氏彼女の事情」の声(出演声優)と認識している人も多いが、今後声優に挑戦する可能性は。

 19歳のときに、あのアニメのオンエア(放送)を見たとき、あまりの棒読みに絶望したので、もうないと思います(笑い)。

 --地元(石川県)でも喜びの声は広がっているが。

 これ4回目(の候補)で取ったので、昔からずっと応援してくださってた。自分が取れてうれしいかは頭が真っ白で分からないけど、これで周りのみんなが喜んでくれると。それがすごくうれしい。

 --高校時代に演劇部で脚本を書いていたと思うが、今回に生きたことは。

 昔より、小説は小説でしかできないことを書こうという意識が強くなっている。でも人を魅力的に書こうということに関しては、全体の構成とか、小説としての何かというよりは、私が魅力的だと思う人を愛して書こうという気持ちがあるのは、演劇で生身の人間とやっていたから、人間にすごく興味があるのだと思う。

 --受賞するとはまったく思ってなかった?
  
 思ってもいいよなとは思ってたけど。今回は滝口さんが取るんじゃないかと思ってた。そういう予感があった。受賞の電話を受けたとき、言えないような変なことをしていて。(それで)もらったので、本当に頭が真っ白なるんじゃないかなと思ってたが、そこからさらにもう1段階、自分のことじゃないみたいに冷静に聞いていた。

 --4回目の候補を強調されてたけど、最初に候補になってから足掛け10年。芥川賞というところで何か思いがあるか。

 いつも賞って何なんだろうって(思う)。作家にとって何なんだろうって、候補になるたびに考えていて。今もよく分かっていないままだけど……。エサのように感じるときもある。作家にとって、エサをまいて、もっと書きなさい、と言ってくれているような感じがあって。エサがなかったときにもちゃんと書けるのかな、と考えるときがあります。賞をもらったうんぬんより、書き続けることの方が作家にとって大事な資質だと思うので、それが自分にあるのか試されるのだと思う。

 --石川県出身者では芥川賞の歴史で初めてだが。それと石川の生活が与えている影響はあるか。

 うーん……。これだと言うこともできるけど、全部うそっぽくなりそうで。今自分が何の影響を受けてこうなっているかは混沌としていて。これだと言えない部分がある。どういう人たちに囲まれていたかということが物の考え方に影響を与えていると思う。でもこれで石川県の人たちが喜んでくれたらおこがましいですけど、そう思ってくれたらうれしいです。

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