ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
俳優の松山ケンイチさん主演の映画「珍遊記」(山口雄大監督)が公開中だ。 映画は、1990年代に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された漫☆画太郎さんのギャグマンガ「珍遊記-太郎とゆかいな仲間たち-」が原作。天竺(てんじく)を目指す玄奘(げんじょう)が、偶然出会った天下の不良少年、山田太郎の妖力を封印し、嫌々ながらも共に旅する姿を描いた。主人公の山田太郎を演じる松山さんと、今作でメガホンをとった山口監督に話を聞いた。
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まさかの実写映画化で話題の今作だが、映画化に至った経緯を「漫☆画太郎作品はいくつかやらせてもらっていて、10年前ぐらい前にも次やるなら『珍遊記』かなという話は出ていた」と山口監督は切り出し、「3年前に紙谷(零)プロデューサの方から、本格的に『珍遊記』をやりたいけどどうだろうという話があり、やり方も分からないけど入ってみましょうかみたいな感じで始まりました」と説明。そして、「今まで漫☆画太郎作品は僕しか実写化していないので、僕以外の人にやられるのが嫌だった」と山口監督は笑顔ながらも力強く語る。
松山さんは、今作出演にあたって「雄大さんとやりたいというのと、漫☆画太郎さんのファンだったのでぜひという感じでした」と当時の心境を振り返り、「こういう役をできる機会もなかなかない」と楽しみにしていたという。
山口監督は「最初は芸人さんたちを集めてやろうというのが企画の発端でしたが、開発をしていく中で漫☆画太郎先生の方からも『今回はみんなが見られる映画にしてほしい。原作から離れても構わないから“メジャー感”のあるものにしてほしい』という要望があった」と明かし、「僕も漫☆画太郎作品を今まで何回かやってきて、もう一回やるんだったらアプローチを変えたいなとは思っていました」と自身の考えを明かす。
続けて、山口監督は松山さんについて「以前に『ユメ十夜』という作品で一緒にやっていて、夏目漱石原作ではありますが、漫☆画太郎さんに脚色を担当してもらっていて、ほとんど漫☆画太郎テイスト。(松山さん)本人がどう思っていたかは分からないけど、それを喜々として演じていたという印象があった(笑い)」と振り返り、「松山くんと一緒に長編映画をやりたという思いはずっとあったし、彼だったらビジュアルは違いますが内面から山田太郎というものを出せるのではと思って、ここぞとばかりに松山ケンイチに話してみようかなと思いました」と松山さんをキャスティングした理由を説明する。
松山さんは山田太郎を演じる際、「漫☆画太郎さんの絵のインパクト、持っているパワーみたいなものは生身の人間では表現できない」と感じたといい、「最低限必要だなと思ったのは人間性というか、山田太郎という人間がそこにいるといえるようにどうしなければいけないのか」ということに注力したという。そのために「表情だったりではなく、たたずまいみたいなところが大事だなというふうに思っていて、そこはすごく悩みました」と心境を明かす。
役作りでは山口監督と相談を重ねた松山さんは「監督と話をしていく中で、歩き方はこういう感じとか、キャラとしては『七人の侍』の(三船敏郎さん演じる)菊千代みたいな要素が入ってきていてもいいかなと」という話になり、「野生の感じ、生き物みたいな感じというのがいいかなど、そういうのを少しずつ見つけていった感じです」と振り返る。
松山さんの話を聞いていた山口監督は、「『七人の侍』の菊千代も主役じゃないというか、物語を進めていくのは(島田勘兵衛役の)志村喬の方だったりする。物語を進める人物がストーリーテラーとは違うというのは、作品の構造的にも若干近いかもしれないと思ったので、彼に提案してみたというところはあります」と補足する。
さらに、「(原作と)ビジュアルは違うのですが、山田太郎のキャラにいかにしてなれるかというか、マンガを読んでいた人が、『見た目は違うけど山田太郎だよね』というものを築ければいいというのは最初からあり、それはやれるだろうと思っていた」と山口監督は語るも、「最終的に実写版の『珍遊記』はこんな感じなんだと気付いたのは、撮影の後半ぐらいです」と打ち明ける。
その撮影後半は韓国のオープンセットで行われたというが、「韓国のオープンセットでの撮影映像は全体にちりばめられていて、韓国に行くまでにある程度僕らの中で『山田太郎はこうだよね』というのはできていたので、結果、全編にわたってある程度完成した山田太郎というのは見せられていると思う」と山口監督は自信をのぞかせる。だが「ずっと手探り。撮影は酒場のシーンから始まったのですが、松山くんも声が決まらないと言うなど、酒場のシーンはかなり探っていた」と語る。
山田太郎というキャラクターを作り上げるのに力を合わせて取り組んだ2人だが、「今回の作品は、あまりマンガを当てにできないというか、原作を当てにできないのでモデルが必要でした」と松山さんは切り出し、「三船さんとか千原せいじさんの存在がすごくヒントをくれました」と笑顔で打ち明ける。聞いていた山口監督も「撮影前に『見つけましたよ山田太郎! 千原せいじさんですよね』とメールがきて、確かにな、と思った(笑い)」と同意すると、「あとは『修造カレンダー』の松岡修造さん」と松山さんが、さらに参考にした人物を明かす。
撮影中もずっと役作りを研究していたという松山さんは「『(天元突破)グレンラガン』で、(アンチ=スパイラル役)の上川(隆也さん)の『反螺旋(らせん)ギガドリルブレイク』という必殺技の言い方」アニメのワンシーンも参考にしたという。続けて、「(今作に出てくる登場人物が放つ必殺技の)『ベルリーノ』と『メラメーラ』が僕にとっては衝撃で、あの人たちは必殺技はしょぼいですが、魂からしゃべっている感じがして、その真剣さはこの作品には絶対必要」と力を込め、「『グレンラガン』の上川さんも魂が口から出るぐらいの勢いでせりふを言って、必殺技を放っている。それをやりたかった」と意図を明かす。
山口監督も「こういう作品は躊躇(ちゅうちょ)したらだめ。やるならきっちりとやらないと……というところは僕もあるし、役者さんたちもみんなあって、そういう熱みたいなものが見えているといいなとは思う」と期待を口にする。松山さんが熱弁したアニメを参考にしたせりふの言い回しは「(必殺技の一つ)『クリフハンガー』に生きているのかな?」と山口監督が確認すると、松山さんは「そうです」と言ってうなずいた。
今作には松山さん演じる山田太郎以外にも強烈な個性を持ったキャラクターが数多く登場する。中でもお笑い芸人の今野浩喜さん演じるアキバについて、「アキバのはまりぶりはすごい。特殊メークよりも特殊メーク(笑い)」と松山さん。「何年か前にゆうばり映画祭に行ったときに、温泉でたまたま(今野さんと)2人きりになったんです」と山口監督は今野さんとの出会いを切り出し、「面識はなかったのですが、今野さんの胸毛がすごくて、いつかこの胸毛を撮りたいと」と決意し、今回のキャスティングにつながったという。
さらに印象に残っているキャラクターとして、松山さんは田山涼成さん演じる“じじい”と、笹野高史さん演じる“ばばあ”を挙げ、「最初に脚本を読んでキャストの名前を見たときに、ばばあのところに書いてある名前でうけちゃいましたから」と言って笑う。笹野さんの演技を見て松山さんは、「どうしてあんな抱かれる感じがうまいのだろうか」と感じ、「あの真剣さにやられました」と称賛する。
男性である笹野さんがばばあ役を演じている理由を山口監督は、「笹野さんが『ばばあをやりたい』と言ってくださった」と言い、「ばばあ役は実は難航していて、女性の方にすると若干生っぽくなりすぎるから、気持ちよく笑える感じにならないのではと悩んでいた」と当時を振り返る。そして、「(笹野さんが)昔の青島幸男の『意地悪ばあさん』のようなことをしたいと思っていたらしくて、向こうから言ってくださり、その手があるかと思って乗っかりました」と経緯を説明する。
今作では松山さん演じる山田太郎と、温水洋一さん扮(ふん)する中村泰造のアクションシーンも見どころとなっている。「温水さんとアクションしているシーンは、また全然違う風が吹いている気がして、違う要素が出たという感じはありました」と松山さんが振り返ると、「あれが結果的に最後の撮影で、(松山さんは)なんかもう堂に入っている感じでした」と山口監督。さらに「アクションはほとんど自分でやっています」と温水さん本人がアクションシーンに臨んだことを山口監督は明かし、「アクションチームもびっくりしていました」と絶賛する。
唯一無二の世界観を持つギャグマンガを映画化した今作は、物語の特性上、主人公の山田太郎が何かを成し遂げたり、成長したりといった要素は見当たらない。山口監督は「必ず成長とか、こういうふうに始まったけど最後はこうなりましたみたいな作品は多いですが、何もないというドラマツルギー、そもそもドラマなのかどうかも分からないですけれど、そういう作品はなかなかない(笑い)」といい、「山田太郎が誰かのために頑張るとか、1回そっちに傾きかけたときもあったのですが、そうすると全然違って山田太郎でもなんでもなくてだめだなと。何もないのが、それこそ漫☆画太郎(作品)かなという気がします」と力強く語る。
振り切った演技で楽しませてくれる松山さんも、「脱ぎたかったというのはあります」といって笑い、「衣装もそうですが、精神的な部分でもいろいろ着てきたという感じはするので、1回全部脱いで解放してみようかなと。そういう作品だったような気がします」と出演してみた心境を総括する。ここで松山さんが玄奘役でコンビを組んだ倉科カナさんの「きつかったけれど、もう一回やりたくなった」という思いを明かすと、「エンドルフィンが出たのでは(笑い)」と山口監督。続けて、「やりながら気付かされたことがいっぱいあり、なるほどこうなのかと分かっていった感じがする」と山口監督は撮影を振り返り、「今回は山田太郎と玄奘の“誕生編”みたいな解釈で、実写の玄奘と山田太郎はこうなんだというのが分かったので、次からもっとうまく動かせるというのはある。だから続編を作りたいなというのはすごく思います」と次回作に意欲を見せる。
今作のテイストを「監督も言っていますが、見ても何も残らない。それが本当に素晴らしいし、やっぱりいい映画だなと思います」と松山さんが絶賛すると、「言い訳が嫌なんです。この映画は“コメディーだけど愛を描いています”とかが嫌で、コメディーならコメディーでいいじゃないか、そのままでいいのではというのがある」と山口監督は持論を展開する。そして、「本当に何もない、単純に100分間ずっと楽しめるだけのものだと思うので、遊園地に行ってアトラクションに乗って帰ってきたのと同じような感覚になってもらえるといいなと思います。そういうのを目指して今後も作っていきたいと思います」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<山口雄大監督プロフィル>
1971年生まれ、東京都出身。2003年に漫☆画太郎原作の「地獄甲子園」を映画化。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤングコンペ部門グランプリを受賞した。その後も「魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE」(05年)、「激情版エリートヤンキー三郎」(09年)、「極道兵器」(11年)など映像化不可能といわれたマンガ原作を次々と実写映画化。今作にも出演している板尾創路さんの監督作「板尾創路の脱獄王」(09年)には、脚本とクリエーティブディレクターとして参加している。
<松山ケンイチさんプロフィル>
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年ドラマ「ごくせん(第1シリーズ)」(日本テレビ系)で俳優デビューし、06年の映画「デスノート」のL役で脚光を浴びる。以降、多数の映画やドラマに出演。主な映画出演作に「デトロイト・メタル・シティ」(08年)、「ノルウェイの森」(10年)、「GANTZ」(11年)、「家路」(14年)、「の・ようなもの のようなもの」(16年)などがある。山口監督とは07年の「ユメ十夜(第十夜)」以来の参加となる。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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