BBCネイチャードキュメンタリー:「グレート・バリア・リーフ」シリーズプロデューサーに聞く

BBCネイチャードキュメンタリー「グレート・バリア・リーフ」について語ったシリーズプロデューサーのジェームズ・ブリッケルさん
1 / 26
BBCネイチャードキュメンタリー「グレート・バリア・リーフ」について語ったシリーズプロデューサーのジェームズ・ブリッケルさん

 豪州東部に広がる、世界最大のサンゴ礁地帯グレート・バリア・リーフ。1981年に世界遺産に登録されたこの地帯には、サンゴ礁はもとより、小魚やカニ、サメ、ウミガメなど、さまざまな生き物が生息している。その一帯を、英テレビ局BBCが600時間にも及ぶ水中撮影の積み重ねで完成させた映像が、「グレート・バリア・リーフ BBCオリジナル版」としてブルーレイディスク(BD)とDVDで販売中だ。そこには、サンゴ礁同士の縄張り争いや2万6000頭ものウミガメの産卵シーン、粘膜のバリアーで自らを外的から守る魚など、見たことのない光景が収められている。全3話からなる同シリーズのプロデューサー、ジェームズ・ブリッケルさんに見どころなどを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−グレート・バリア・リーフについては、これまでにもいろいろな作品で取り上げられています。今シリーズと他の作品との違いはどこにあるのでしょうか。

 これまでの作品では、グレート・バリア・リーフのほんの一部分のサンゴ礁しか映っていませんでした。この地域すべてに焦点を当てたのは、今回が初めてです。それにはやはり、莫大(ばくだい)な資金が必要になる。今回は「ディスカバリーチャンネル」や豪州のテレビ局「チャンネル9」といったパートナーを得て制作できました。多くの専門家たちからの支援もあった。それもすべてBBCだからできたことです。

 −−なぜ“今”だったのでしょう。

 今、地球では温暖化や海洋の酸性化といったさまざまな異変が起きている。そうした状況だからこそ、みなさんにグレート・バリア・リーフについて、もっとよく知ってもらいたかった。それにこういう状態で撮影できるのは、今回が最後のチャンスかもしれないという危機感もありました。

 −−グレート・バリア・リーフは危機的状況にあるのですか?

 悪影響が及びかねない段階にあることは確かです。例えばサイクロン(台風)。以前に比べて頻繁に起きているし、温暖化や海洋の酸性化といった、コントロールできない外的要因もある。グレート・バリア・リーフは今、ギリギリのがけっぷちにいるような状態なのです。

 −−第1話の、レモンザメがアジ科の魚のカイワリの助けを借りて魚を捕るシーンが興味深かったです。

 あの撮影には6日間ほどかけました。あれはユニークなシチュエーションで撮ることができました。僕たちは撮影中、ケアンズに拠点を置いていましたが、現地の新聞を読んでいたら、たまたま水中からサメが飛び出している写真が載っていた。調べたら、そこから1時間くらいの島に行けば見られるという。早速向かいました。そこには、同じ場所にずっととどまり“狩り”をするレモンザメがいて、僕たちは最初、30メートルぐらい離れたところから隠れて撮影し、それから毎日少しずつ近づいていきました。最終的には、60センチくらいのところまで近づくことができた。で、アームの先にカメラを付けて撮ったのです。

 −−そんなに近づいて、レモンザメに食べられる心配はないのですか?

 それは大きな勘違い。サメは人を食べません。撮影中、5歳の娘が一緒に長期滞在していたけれど、彼女も一緒に泳いでいましたよ。

 −−スティーブン・スピルバーグ監督の「JAWS/ジョーズ」では食べられてましたが……。

 あれは架空の話だからね。ジョーズはモンスターで、たまたまサメの形をしているだけ(笑い)。サメは人間を、ああいう形で攻撃したりしない。サメの撮影って本当に難しくてね。彼らは、とても敏感な生き物なんだ。人間のにおいなどを感知すると怖がって逃げてしまう。だから、僕たちを怖がらないようにさせることが一番難しい。実際、僕は「ジョーズ」に出てくるサメと泳いだことがある。状況をちゃんと把握して、サメと付き合うためのシンプルなルールさえ分かっていれば、危険度は極めて低い生き物なんだ。

 −−ブダイという魚が粘膜でバリアーを作り外敵から身を守る世界初の映像がありましたが、今回の映像ではほかにどんな“世界初”がありますか。

 例えば、ナマコのお尻の穴に隠れるカクレウオの映像もそうだし、さっき話をしたレモンザメの狩猟も、あんな形で撮れたのは初めて。オーム貝の赤ちゃんの映像も世界初。そもそも、こんなに大掛かりな形でグレート・バリア・リーフの撮影が行われたこと自体が初めてだからね。たぶん、サンゴ礁が白化する現象をああいう形で映像に収めたのも初めてだと思う。

 −−“世界初”にはやはり憧れますか?

 もちろん! 世界で最高の仕事だ。僕は大好きな仕事に就けてラッキーだよ。

 −−今回の撮影で忘れられない体験を教えてください。

 たくさんあって選べないな……。しいて挙げるなら、レモンザメと5歳の娘が一緒に泳いだことかな。10代の子供たちが「サメだ、怖い!」と言っている中、娘はシュノーケルを付けて一緒に泳いで、「パパ、なぜヒレはみんな同じサイズなの」とか、「あそこはどうなってるの」など、純粋に疑問を投げかけてきた。彼女は「ジョーズ」を見たことはないけれど(笑い)、そんな彼女を見て、こういうふうに自然と人間はつながることができるんだ、そのきっかけ作りを僕たちはしているんだと、自分の仕事の意義を改めて感じることができたんだ。

 −−ちなみに、日本のテレビ局NHKと世界的研究者が、ダイオウイカの撮影に成功したことが話題になりました。それはやはりすごいことなのでしょうか。

 偉業です。実は昨年、僕がインタビューを受けたとき、次は何を見たい、何を撮影したい?と聞かれて、「ダイオウイカ」と答えたんだ。それを彼らはやってのけた。すごいことだよ!

 <プロフィル>

 1974年、英ドーセット市生まれ。BBCナチュラル・ヒストリー・ユニット(BBC NHU)所属のワイルドライフ映像制作者。動物学を専攻後、BBC NHUに加入。現在はBBC NHUダイビングチーム(水中撮影チーム)のヘッドを務める。英国アカデミー賞(BAFTA)受賞歴あり。

 「グレート・バリア・リーフ BBCオリジナル版」、販売中▽ブルーレイディスク(BD)5980円、Disc1枚、全3話(各話約50分)▽DVD4980円、Disc2枚、全3話(各話約50分)▽発売:BBCワールドワイドジャパン、販売:エイベックス・マーケティング

写真を見る全 26 枚

テレビ 最新記事