ジャングル・ブック:ジョン・ファブロー監督&ニール・セディに聞く 「アイアンマン」で培った特殊効果を応用

ディズニー映画「ジャングル・ブック」のジョン・ファブロー監督(右)とニール・セディさん
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ディズニー映画「ジャングル・ブック」のジョン・ファブロー監督(右)とニール・セディさん

 赤ん坊のときジャングルに一人取り残され、動物たちに育てられたた少年モーグリの成長と冒険を描いたディズニー・スタジオによる実写映画「ジャングル・ブック」(ジョン・ファブロー監督)が11日に公開された。原作は、英作家ラドヤード・キプリングが1894年に出版した短編小説集で、1967年にはウォルト・ディズニーがアニメーション化している。今回の実写化でメガホンを託されたのは、「アイアンマン」シリーズの監督で知られ、俳優としても活躍するジョン・ファブロー監督。作品のPRのために来日したファブロー監督と、モーグリ役のニール・セディさんに話を聞いた。

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 ◇「アイアンマン」の監督と聞いて「うっそ!」

 セディさんは現在12歳。モーグリ役には応募者2000人の中から選ばれた。それまでプロとしての演技経験はなかったが、ファブロー監督は「とてもカリスマ性を感じたし、自分が見て育ったアニメ版のモーグリを彷彿(ほうふつ)とさせる雰囲気を持っていた」とオーディション用に送られてきたセディさんの映像を見たときの印象を語る。その後、家族とともにニューヨークからロサンゼルスにやって来たセディさんと対面し、その「聡明さ」と「姉、両親との結束力の強さ」に引かれ、モーグリ役に抜てきした。

 当のセディさんは、選ばれたときこそ「超ハッピー、ハッピー、ハッピーだった(笑い)」ものの、その直後、事の重大さに気付き怖気(おじけ)づいた。しかし、「いい仕事ができるように、みんなが僕を応援してくれることは分かっていたので、怖がっている場合じゃない」と気持ちを切り替え、大役に臨んだという。

 その一方で、ファブロー監督に対しては、「オーディションを受けて何度かコールバックがあって、そのあとランチを一緒に食べたんです。そのとき、ジョンが監督だということは分かっていましたが、『アイアンマン』の監督だと聞いたときは、うっそ!と思いました(笑い)」と明かす。「だって、大好きなスーパーヒーロー……僕は“チーム・キャプテン・アメリカ派”なんですけど(笑い)、アイアンマンも大好きだし、みんなが知っているコミックのスーパーヒーローに、映画として命を吹き込んだのはジョンなわけで、そんなすごい人と一緒に仕事ができるなんて、すごく驚いたけど、すごく幸せでした」と隣に座るファブロー監督に尊敬のまなざしを向ける。

 ◇監督との川下り

 そのセディさん、今作では、動物も大自然も、ほぼすべてがCGという状況の中で演技をしなければならなかった。しかし、「楽しかったです。本物の動物たちが相手では、言うことを聞いてくれないから大変だったと思います」と屈託ない。撮影では、熊のバルーのふりをしたファブロー監督と一緒に川下りも“体験”した。

 「発泡スチロールの塊をバルーに見立てたんです。それに僕がつかまって水中タンクに入って、熊の頭の部分にはジョンの顔があって、一緒に歌を歌いました。お陰で演技は自然にできましたが、ジョンは、僕が気付かないようホースを用意していて、いきなり水しぶきをかけてきたんです。びっくりしましたが、そのときの映像がそのまま使われていたので、結果的にはよかったと思います」と笑顔を見せる。

 ◇俳優業と監督業

 ファブロー監督は俳優としても活躍している。監督業と俳優業の面白さを天秤(てんびん)にかけると、「すべてがうまくいっている状況であれば、(俳優は)自分が好きな監督や俳優と仕事ができ、撮影が終わったら、残りの作業はほかのスタッフがやってくれ、僕はプレミアに呼ばれて出来上がった作品を応援すればいいわけで、それはそれでとても楽しい」としながら、「自分で制御できることがあまりないというのが役者としての立場。その点では、人選や現場での裁量を任せてもらえる監督の方を、より楽しんでいる」と監督業に軍配をあげる。

 その監督としての存在感を世に知らしめたのが、「アイアンマン」(2008年)であることは周知の事実だ。「アイアンマン」の監督オファーを受けたとき、実のところファブロー監督は「スーパーヒーローを主役にした映画は、当時数多く作られていました。その頂点が『バットマン』シリーズ(クリストファー・ノーラン監督)で、僕自身、もう十分ではないかと思っていた」と打ち明ける。

 ◇「アイアンマン」での試み そして…

 半面、「もし、自分に『アイアンマン』が描けるのなら、ほかの作品とは異なるトーンで作ってみたい」という意欲もあった。「当時、特殊効果は、戦闘シーンやアクションシーン、宇宙船の造形などで駆使されていましたが、そうではなく、CGを別の部分、例えば、スーツを装着するとき、そこにユーモアや温もりといった人間味を醸しだせるのではないかと思いました。それに、『アイアンマン』はマーベル作品。僕は、マーベルコミックの長年の愛読者だったから、その世界観はよく分かっている。愉快で奇妙なところがあるのがマーベルの持ち味。そういうところを工夫できるのではないかと思ったのです」と語る。

 そういった試みは「ユーモアや人間味を作品にもたらしてくれる」との思いから、主役にロバート・ダウニー・Jr.さんを起用したことで強化され、さらに奏功したことは、映画の大ヒットが証明している。しかしながら、「アイアンマン」はあくまでもアクション映画。この「ジャングル・ブック」とは異なる。

 ファブロー監督は「アクション映画だけでなく、この(特殊効果の)ツールをほかで使えたら……その思いで生まれたのが今回の作品なのです。その点では野心的なものになり、私自身はワクワクしながら作ることができ、また、満足できる経験ができたし、誇りも感じています。でもそれ以上に、ご覧になった皆さんが、映像がすごいと驚くより、ストーリーにとても感動したと言ってくださっている。そのことが、とてもうれしいのです」と達成感をにじませた。映画は11日から全国で公開中。

 <ジョン・ファブロー監督のプロフィル>

 1966年生まれ、米ニューヨーク市出身。「ルディ 涙のウイニング・ラン」(93年)で、俳優としてのキャリアを本格的にスタート。主演作「スウィンガーズ」(96年)では製作・脚本を担当。2001年には「Made」(日本未公開)で長編映画監督デビューを果たし、「アイアンマン」(08年)、「アイアンマン2」(10年)の監督、製作で作品を大ヒットに導く。ほかの監督作に「ザスーラ」(05年)、「カウボーイ&エイリアン」(11年)、製作・主演・脚本を務めた「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(14年)など。製作作品に「アベンジャーズ」(12年)、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(15年)などがある。

 <ニール・セディさんのプロフィル>

 2003年生まれ、米ニューヨーク市出身。プロとしての演技経験がない中、今作で主役のモーグリ役に2000人の応募者の中から選ばれた。「今回の体験は本当に楽しかったので、演技はこれからも続けていきたい」としながら、日ごろから、「体を動かすことが大好きで、バスケットボールや野球、アメリカンフットボールなどをやっているので、そうしたスポーツもやっていきたい」と語った。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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