はいからさんが通る:原作者・大和和紀が明かす創作エピソード “酒乱キャラ”誕生のきっかけは…

劇場版アニメ「はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~」原作者の大和和紀さん
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劇場版アニメ「はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~」原作者の大和和紀さん

 大和和紀さんの人気少女マンガが原作の劇場版アニメ「はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~」(古橋一浩監督)が11日、公開された。約38年ぶりのアニメ化で、前後編の2部作となる。前編ではヒロインの花村紅緒と婚約者の伊集院忍の出会いや接近していく2人の関係などが描かれる。原作者の大和さんに、劇場版アニメ化への思いや、じゃじゃ馬で“酒乱”という個性的な主人公が誕生したエピソード、これまでのマンガ家人生への思いなどを聞いた。

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 ◇劇場版アニメ化への思いは…

 「はいからさんが通る」は、大正時代を舞台に、剣道が特技でじゃじゃ馬な“はいからさん”こと紅緒と婚約者・伊集院忍の恋を描いたラブコメディー。1975~77年に少女マンガ誌「週刊少女フレンド」(講談社)で連載され、第1回講談社漫画賞少女漫画部門を受賞。78~79年に全42話のテレビアニメが放送されたほか、87年に南野陽子さん、阿部寛さん主演の実写映画が公開された。79、85、2002年にはテレビドラマも放送された。今作は連載40周年を記念した企画で、「後編 ~花の東京大ロマン~」は18年に公開される。

 1970年代にテレビアニメが放送されて以来、劇場版で約38年ぶりのアニメ化だ。大和さんは「(テレビアニメは)途中で終わっており、劇場版でラストまで入れたドラマを作りたいというお話でしたので、いいんじゃないかなと思って」と劇場版アニメ化への思いを語る。

 前編では、紅緒と忍の出会いや、徐々に距離を縮めていく2人の“胸キュン”な関係などが描かれる。劇場版にはアドバイスなどの形で携わっているという大和さんは「原作に近いというか……。ギャグの部分はそんなに入れる余裕がなかったんですが、明るく楽しく、可愛らしく。ふんわりした感じで、いい仕上がりになったと思います。最近のアニメってシリアスが多いから、軽い感じでいいかな」と太鼓判を押す。絵柄など、原作とは多少異なる部分もあるが、「原作と同じ顔には、どうしてもならないじゃないですか(笑い)。だから今風の絵で、今のアニメを作ってほしいなという気持ちがありました」と笑顔で語る。

 ◇ヒロインの“酒乱キャラ”はなぜできた?

 主人公の紅緒は、浮き沈みの激しい人生を送っているが、いつも前向きで明るく、思いのままに行動する自由奔放さが魅力のキャラクター。そんな紅緒について「時代背景もありますが、あのころの主人公はたいてい元気ですね。明るくておてんば、というキャラクターはそれまでも皆さんお描きになっていたし、私も描いていたんですが、もう一歩踏み込んだ、変なキャラクターを主人公にしたいなと思って。例えば酒乱だったり(笑い)」と主人公誕生のきっかけを語る。

 “酒乱キャラ”については、担当編集者の影響があったという。「担当者が『俺も酒乱なんですよ』と(笑い)。酒乱っていいフレーズねって。酒乱って、なんか面白い言葉じゃないですか。あまり使わないでしょ。だから『そういう言葉って新鮮だよね』と。付き合いのある編集者さんには、真面目だけど、飲むといきなり人格が変わる女性が結構いたんですよね。そういうのも面白いんじゃないかって。人間味を出したくて」と明かす。

 なお、連載前は大和さん自身、お酒は飲めなかったそうだが、担当編集者との打ち合わせのたびにお酒を飲むようになり、「必然的に午前2時ごろまで飲むわけですよ。それで大変お酒が強くなりました。酒乱ではありません(笑い)」と冗談交じりに当時のエピソードを披露する。

 忍は、爽やかで笑い上戸のイケメン。大和さんは「少尉がなぜいいかっていうと、好きなようにやらせてくれそうだから」とその魅力を説明する。忍のみならず、美形で男らしい編集長の青江冬星、ぶっきらぼうだが優しい鬼島森吾……と、登場する男性キャラには個性的なイケメンがずらりと並ぶ。男性キャラには大和さんの好きなタイプがそれぞれにちりばめられているといい、「好きなタイプをみんな描いたので、みんな好き」と笑う。

 ◇マンガ家人生は「幸せなこと」

 昨年、画業50周年を迎えた。長きにわたって人気作を生み出し、マンガを描いてきた大和さんは、50年を振り返り「仕事しかしていない人生なので、締め切りから締め切りへ渡り歩いているうちに50年たってしまった、という感じ」と振り返る。50周年を迎えられたことについては「好きでスタートした仕事なので、50年続けられたのは幸せでしたね。初めからこれになりたい、と思ってなる人もいないだろうし、皆さんいろんな事情でやめていきますから……。(50年続けてきたことは)幸せなことだったなと思います」と心境を明かす。

 これまでテレビアニメ化やドラマ化など、さまざまな形で愛されてきた「はいからさんが通る」。これほどまでに長く愛される作品になったことについて、「自分ではよく分からないですね」と笑いつつ、「古びない、みたいなところはあるのかな」と大和さん。「描いて、しばらくの間は(自分で)見られないんですよ。連載が終わってから読むと粗が見えたりするので……。何十年もちゃんと見られないんですね。で、今回アニメ化されるので、把握しておこうかなと。やっと読めました。結構面白かったです(笑い)」と楽しそうに語る。

 最後に、劇場版アニメに望むことは? 「当時の読者さんに満足していただくのが第一の目的で、その上で、若い方が面白いんじゃないかと言ってくださるのが希望ですね」と穏やかにほほ笑みながら語った。

 <プロフィル>

 やまと・わき。北海道出身。1966年にデビュー。代表作に「はいからさんが通る」や「ヨコハマ物語」、「源氏物語」をマンガ化した「あさきゆめみし」など。2016年に画業50周年を迎えた。

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