人気アニメ「ガンダム」シリーズの最新作「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(村瀬修功監督)。6月11日に公開され、公開から10日間で興行収入が10億円を突破するなどヒットしている。同シリーズの劇場版が公開2週目で興行収入10億円を突破するのは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年公開)以来、約33年ぶりの快挙となった。SNSでは絶賛の声が多く見られ、中でも「映像美」に驚いたファンも多いようだ。「ガンダム」シリーズを手がけるサンライズは、手描きを中心としたモビルスーツ(MS)戦の最高峰とも呼ばれる「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」など、これまでも最高を更新してきたが、「閃光のハサウェイ」は、“さらにその先”を表現したようにも見える。スタッフの言葉から映像美の秘密に迫る。
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「閃光のハサウェイ」は、1989~90年に富野由悠季監督が発表した小説が原作。宇宙世紀0105年を舞台に、第二次ネオ・ジオン戦争で苦い別離を経験したブライト・ノアの息子ハサウェイが、新型モビルスーツ・Ξ(クスィー)ガンダムを駆って、地球連邦政府に反旗を翻す姿を描く。
「閃光のハサウェイ」の原作は、ファンの間では名作として知られているが、映像化が不可能とも言われてきた。同作に登場するΞガンダム、ペーネロペーの形状が複雑で、MS戦の表現が手描きでは難しいのが、理由の一つだった。メカニカルデザインを担当した中谷誠一さんは「今は整合性が求められるので、それを考えると動かすのが難しい。袈裟(けさ)のようなものが付いているけど、これを動かそうとするとグニャグニャになってしまうかもしれない」と説明する。
「ガンダム」シリーズは、手描きのMS戦が魅力の一つではあるが、「閃光のハサウェイ」では、3DCGと手描きを融合して、複雑な形状のΞガンダム、ペーネロペーを表現した。サンライズの小形尚弘プロデューサーは「映像的なチャレンジでした」と話す。
「Ξガンダム、ペーネロペーはミノフスキー・フライトによって重力下で自由に動き回ることもあり、3Dで表現することが正解と考えました。3Dだからこその動き、光源による影の変化など表現ができたと思います。微妙に動いたり、パースが変わるのは、手描きが一番苦手な部分ですが、3Dによって、空間を使った動きも表現できました。重力下で飛べないメッサーが落ちていくシーン、Ξガンダム、ペーネロペーが自由に動くシーンなど上下の動きにもこだわりました」
映像美は、MS戦だけではない。小形プロデューサーが「閃光のハサウェイ」を手がける村瀬監督について「ビジュアルセンスがこれまでのサンライズアニメの枠を超えています。今回も実写志向と言いますか、現場も途中からアニメを作る感覚ではなかったです」と話していたのが印象的だった。
確かにリアリティーを感じる映像に仕上がっている。村瀬監督は「リアリティーを高めたいと考えたというよりも、画から得られる情報量を上げるには、そうするしかない」と語る。
「せりふで説明するよりも画で説明しようとした。キャラクターだけを追いかけてドラマを作ることもあるけど、背景で状況を説明する。実写ではそういうこともしますが、アニメの場合、せりふで説明してほしい人もいるかもしれません。テレビでやろうとすると、せりふで説明しないと、誰も気付かないかもしれない。映画だからできたことです」
「閃光のハサウェイ」は、「ガンダム」シリーズの最高を更新しただけではない。小形プロデューサーは「一つのターニングポイントになった」と自信を見せる。
「3D、手描きは手法であって、出来上がったものが格好よければよいと思います。日本のアニメは手描きの技術が優れています。それをさらに生かすために3Dも使っていかないといけません。そういう意味でも『ガンダム』にとって一つのターニングポイントになった作品です。『UC』の時は手描きの頂点を目指しましたが、これまでやってきたことを一度壊して、新しいものができたと思います」
これまでやってきたことを“壊す”ことは勇気が必要だが、その決断をしたからこそ、映像美を実現した。「閃光のハサウェイ」は全3部だ。第2部の公開時期は発表されていないが、さらなる映像美で驚かせてくれるはず!と期待が膨らむ。
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