人気アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」のシリーズ最新作となる「劇場版PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」(塩谷直義監督)が、5月12日に公開された。常守朱、狡噛慎也が大事件に立ち向かう姿が描かれる。2012年に放送されたテレビアニメ第1期から同作の脚本を手がけてきた深見真さんに作品に懸ける思い、制作の裏側を聞いた。
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「PSYCHO-PASS サイコパス」は、巨大監視ネットワーク・シビュラシステムにより人の心理状態などを数値化し、管理できるようになった近未来の高度情報化社会を舞台に、厚生省公安局の刑事の活躍を描くSFアニメ。完璧に見える社会が持つ矛盾が描かれた。「PROVIDENCE」は、2019年公開の劇場版3部作の「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐(おんしゅう)の彼方に_」と、同年放送されたテレビアニメ第3期の間のストーリーが描かれる。公安局統括監視官となった常守朱が、外国船舶で起きた事件をきっかけに、かつて公安局から逃亡した狡噛慎也と再会する。狡噛は、海外を放浪した後、外務省海外調整局行動課の特別捜査官となっていた。朱と狡噛は、日本政府、ひいてはシビュラシステムをも揺るがす大事件に立ち向かうことになる。
「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズでは、「人間の幸福とは?」「人間とはどうあるべきか?」といったテーマが描かれてきた。キャラクターたちのせりふに聖書や古典の引用が多いのも特徴だ。「PROVIDENCE」でも、新約聖書の一説が引用されるシーンが描かれる。聖書や古典を引用することについて、深見さんはある思いがあった。
「一つは、やっぱり聖書が好きなんです。単純に文章が美しくて面白い。また、欧米圏では基礎教養なので、聖書を読んでいないと分からない映画のネタなどもあります。例えば、欧米圏の人にとって、新約聖書の『善きサマリア人のたとえ』は、日本で言う『こぶとりじいさん』みたいなものというか、教訓となるおとぎ話のように捉えられている。僕は『PSYCHO-PASS サイコパス』の第1期の時からよく聖書や古典を引用していますが、これをきっかけに『読んでみよう』と思ってくれたらうれしいなと。人類はそれこそ、何千年も文章にして記録を残してきたわけで、古典にはすごく面白い先人の知恵が詰まっている。第1期の宜野座伸元のせりふに『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』というのがあるのですが、本を読んで、何か危機を回避できたら得じゃないですか」
深見さんは「PSYCHO-PASS サイコパス」によって、視聴者の「好奇心をちょっとでも刺激できたら」と考え続けてきた。それは、制作をする上でずっと抱いてきた“隠しテーマ”だったという。
「PROVIDENCE」は、シリーズ最新作として常守朱をメインとしたストーリーが描かれる。朱は、テレビアニメ第1期で厚生省公安局刑事課一係の監視官となり、シビュラシステムの秘密を知り、さまざまな苦難、事件をくぐり抜けてきた。深見さんに「PROVIDENCE」に込めた思いを聞くと、「皆さんにも朱のように考え続けてほしい」という答えが返ってきた。
「例えば、ツイッターなどでも、一見白熱した議論に見えて、両者が思考停止に陥っているような論争がありますよね。陰謀論もそうですが、分かりやすくて気持ちのいい考え方に飛びついてしまうのは、一種の思考停止だと思います。でも、『いや、ちょっと待って』『やっぱり考え続けようよ』というのが朱のスタイルだと思うんです。だから、朱は答えが出ていることにも納得しない。ちゃんと自分なりの答えを見つけ出した上で、相手を否定するのではなくて、自分の考えを伝えたり相手を理解する努力を続ける。とにかく対話を大事にしたい人なんですよね。すぐに手が出る狡噛と相いれないのはそこなんです。狡噛にも『ここまでの悪党は殺すしかない』という信念があるのですが、朱にとって『殺す』は思考停止の判断なんです。思考停止せずに考え続けるということが、この作品から伝わったらいいなという思いがあります」
深見さんは「もし現代に朱がいて、ツイッターをやっていたら、もっと建設的な対応ができるような新しい方法はないか? そのためには新しいアプリを作るしかないのか?と、いろいろ考えると思います。考えるところが朱のいいところですよね」と笑顔で語る。
「PROVIDENCE」では、朱がある大きな決断をすることになる。朱の選ぶ道を見届けたい。
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