中井貴一:ヤクザ役「あえて挑戦してみたかった」 WOWOW「きんぴか」3人の“悪党”に聞く

連続ドラマ「連続ドラマW きんぴか」に出演する(左から)ピエール瀧さん、中井貴一さん、ユースケ・サンタマリアさん
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連続ドラマ「連続ドラマW きんぴか」に出演する(左から)ピエール瀧さん、中井貴一さん、ユースケ・サンタマリアさん

 俳優の中井貴一さんが主演するWOWOWの連続ドラマ「連続ドラマW きんぴか」が13日からスタートする。中井さんが演じるのは、昔かたぎで人情派のヤクザ・阪口健太。さまざまな制約によってドラマ表現の幅が狭まってきている中、ヤクザ役に「あえて挑戦してみたかった」という中井さんをはじめ、共演のユースケ・サンタマリアさん、ピエール瀧さんという3人の“悪党”にドラマへの思いを聞いた。

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 「きんぴか」は、浅田次郎さんの同名小説シリーズが原作。天崇連合会岩松組の組員・阪口健太(中井さん)が、敵対する銀鷲会組長を射殺し、13年の刑期を終え出所するが、出迎えたのは老刑事・向井権左エ門(綿引勝彦さん)ただ一人。組に見放された健太は、向井の声がけにより、安全保障関連法案の撤回を求めた“一人クーデター”に失敗した元自衛官の大河原勲(瀧さん)、大物国会議員の身代わりとなってすべてを失った元政治家秘書の広橋秀彦(ユースケさん)とともに、それぞれが“筋”を通すため奮闘する……というストーリーだ。中井さんはWOWOWの連ドラ初主演となる。

 ◇浅田次郎原作はプレッシャー大きい?

 中井さんは、浅田さんの小説が原作の映像作品に出演するのは今回が4度目で、浅田作品の魅力について「読みやすさ」を挙げる。「だから小説と同じ感覚で映像化してしまうと、とても安っぽくなって、クオリティーを下げてしまうことがあるんです」と難しさを指摘する。また中井さんは「原作の『きんぴか』はコメディーですが、ドラマ化するにあたってハードさを優先した」といい、「小説が読みやすいだけに『映像化したらダメだよ、違うよ』って汚してしまうのはどうかなって思うし、そうならないようネタを探っていくという点で、浅田さんの作品をやる時のプレッシャーはとても大きい」と語る。

 さらに中井さんは「ご本人は『映像と小説、全く違うものなので、趣旨さえ変えないでいてくれればどうやってもいい』と言ってはくださるんですけれど、そういうふうに優しい声をかけられると、逆に気にするじゃないですか」と苦笑い。「いい緊張の中での撮影でしたが、果たしてうまくいったかどうかは、毎回分からない。俺らはいつもやったものに対して反省しかないので、うまくいったかどうかは、見たお客さんがかけてくれる『面白かったよ』の一言に懸かっている」と思いを明かす。

 そんな中井さんとは反対に、ユースケさんは「原作者が誰かとは考えない。そこにある台本のことしか考えない」という。「最近は原作ものばかりで、面白ければそれでいいんだけれど、みんなそのままやっちゃう。2次元のまんまというか。せめて台本は2.5次元であってほしいし、僕らは文字から3次元に起こすのが仕事。中井さんがまずそう考えていて、そういうところからスタートしているから、今回はすごく良くなっていると思いますよ」と自信をのぞかせる。

 また瀧さんは「原作で扱っているのはコメディー。でも、そこから抽出されたのはヤクザの仁義、政治家の汚職、自衛隊の安保法案に対する憤りだったり、ハードなもの。そこから導かれるのは『こうあるべき』という男の資質の話で、言葉にしてしまうとベタなことかもしれないけれど、とても必要なことでもあるんじゃないかな」と話し、「最近のドラマってそういうことを直接描くことが少なくなってきているし、みんなが“変化球”を求めているというのもあるんだけれど、そこに対して、こういったベタな種類のものをドンと投入することによって、何が浮き彫りにされるのか、とても興味深いですね」と語った。

 ◇ドラマ表現に募る危機 「描ける題材がどんどんとなくなる」

 一方、中井さんは「ここ数年、ヤクザ映画というものがずいぶん少なくなって、ヤクザを描くということ自体が、社会の中で良くないことに思われてしまっている」と嘆く。「僕らはウソをつくためにこの仕事をやっているのに、現実社会にとらわれて役を決めていいのだろうかと思った」といい、「今の時代ヤクザをやるというのは、びっくりするくらい制約がある。撮影をするのにも『ヤクザが出てくるならウチは貸しません。ここでは撮影できません』というのがあって……。けれども、そこを億劫がってやらないでいたら、ドラマで描ける題材がどんどんとなくなってしまうじゃないか」と危機感を募らせる。

 また中井さんは「俺らはドキュメンタリーを撮っているわけではないし、ウソを楽しむのがドラマ」と強調した上で、「世の中って悪と正義に分かれていて、世界の至るところでテロも起きている。テロに遭っている人たちから見たら、起こしている人は悪に見えているわけだけれど、起こしている人たちの中は正義しかない。だから正義と悪の区分けを、どこで僕らが持つのかも大切なこと」と力を込める。

 さらに、中井さんは「昔、取材したことがあるんですが、ヤクザの中には『まず最初に一般の人たちに好かれなくちゃいけない』という考えを持っている人がたくさんいて、それこそが任侠(にんきょう)道だと思う」と振り返ると、「ドラマに出てくる健太もそういった任侠道を持った人間で、彼がやろうとしたことは決して正義とは思わないけれど、『間違ったことはするまい』という気持ちは常に持っている。ほかの2人との唯一の共通点でもあるので、だたの仲良ししごっこでは終わりたくないという思いは表現できたのかな」と、少しだけだが満足そうな表情を浮かべた。

 ドラマは13日からWOWOWプライムで毎週土曜午後10時に放送。全5話で第1話は無料放送。

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