世界の車窓から:あす放送1万回 ナレーター・石丸謙二郎が思い語る

2日の放送で1万回を迎える長寿番組「世界の車窓から」のナレーションを務める石丸謙二郎さん=テレビ朝日提供
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2日の放送で1万回を迎える長寿番組「世界の車窓から」のナレーションを務める石丸謙二郎さん=テレビ朝日提供

 1987年から29年間続く、テレビ朝日の紀行ミニ番組「世界の車窓から」(テレビ朝日ほか、月~金曜午後11時10分)が2日、放送1万回を迎える。世界各地の鉄道を取材し、車窓からの風景はもちろん、沿線の街や名所、遺跡などの観光地を含め、さまざまな情景を音楽に乗せて送る海外鉄道ドキュメンタリーとしておなじみの番組。初回から一貫してナレーターを務めている俳優の石丸謙二郎さんが番組への思いを語った。

ウナギノボリ

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 「世界の車窓から」は1987年6月1日から29年間続く紀行ミニ番組。世界各地の美しい車窓風景や沿線の観光地などのほかにも、列車内の乗客や乗務員、駅構内の様子を映し出すこともあり、一つの国を1~3カ月ほどかけて余すところなく紹介していく。番組スタートから現在までに104の国と地域を訪れ、総取材距離は約75万キロに達する。テーマ曲は溝口肇さん作曲の「世界の車窓から」。同局の番組で放送1万回に到達したのは、昨年5月27日の「徹子の部屋」に続く快挙となる。記念すべき1万回の放送では、インド北西部・ラジャスタン州の古都ジョードプルを出発する。

 ――放送1万回を迎えることについての感想は?

 生まれてから自分の名前をおそらく1万回も言ってないと思うんです。それを考えると、タイトル「世界の車窓から」を1万回読んでいるとなると、1万回の量を感じました。およそ30年……僕の人生の約半分しゃべってるんだよね。役者としての黎明(れいめい)期から始めているから、ナレーションだけでなく役者としても育ててくれた番組です。

 毎日放送しているから千回まではあっという間だったけれど、当時、冗談でこれにあとゼロがもう1個つくとスゴイねなんて言ったら、みんなドッと笑ったんだよね。そんなばかな、そうしたらおじいちゃんになってるよ、なんて笑っていたんです。それが、まさか現実になるというのが面白いなあと。

 1万回休まず続けてこられたのは、健康な体をくれた親に感謝です。あとは、役者がやらないようなウインドサーフィン、山登り、岩登り、スキー、自転車……自然の中で体を動かすことが好きで、じっとしてられないことが健康の秘訣(ひけつ)かな。

 ピンチは一度だけありました。舞台が続いたときに声をやられて、ナレーション撮りのスケジュールを延ばしてもらったことがあったんです。放送ぎりぎりで回復したのでなんとか間に合ったけれど、もしかしたら代役になってしまうかというピンチでした。その後は、若い頃よりもだんだん声が出るようになったんですよね。この番組で鍛えられたね。

 ――走行距離は地球19周分です!

 これは列車の走行距離。スタッフは実際、それ以上の移動距離(総取材距離は約75万キロ)があるんですよ。途中下車して、列車の走る姿を撮影したりしていますから。朝から夜までずっと撮ってるんです。だから、さまざまなトラブルも撮影できるんですよね。脱輪が起こったり、連結が外れて機関車だけが走っていっちゃったり、動物が線路を横切ったり……。

 日本は時刻表通りに同じ列車が来るけど、海外だとそうはいかない。色の違う列車が来たりするんですよ。時間も正確ではないですからね。やぶ蚊(か)に悩まされながら、ずっと待っていなければならないというスタッフの苦労も聞いています。列車の走行距離は地球19周分だけど、スタッフはきっとその倍は走っていますね。

 ――番組が長く愛される理由は?

 番組を変えなかった、いい意味のマンネリがあるからだと思います。30年もやっていると違うことをやってみたくなるじゃないですか。スロー映像を駆使したり、映像を加工してみたり、その時代に合わせて変化させようとします。変わったのは、テレビが横長になったとか、ハイビジョンになったとか、少しずつ僕の声が大人になったことぐらい。

 今まで一度もこうやって読んでほしいと言われたことがないんです。自由にどうぞ、それがこの番組のスタッフのすごさ。そのときの気分、初見で映像を見たときに感じたものを大事にしてくれた。モニターって列車の車窓のように見えるでしょ。頬づえをつきながら、本当に車窓から見ているような気になるんです。「あなたのナチュラルな声はどれですか?」って聞かれたら、この番組の声でしょうね。

 ――印象に残っている放送は?

 アフリカのタンザニアの車窓で、列車の墓場があったんです。引き込み線があって、アフリカの原野の中に使わなくなった列車を最後に落とす場所があるんです。普通、車体の鉄を再利用しようとか思うじゃないですか。そうではなく、たくさんの列車の車両が落ちているんです。まさに列車の墓場なんです。それを見るためだけに、そこに行ってみたいですね。

 ――心がけていることは?

 一番は好奇心。犬みたいな人間で好奇心の塊(かたまり)なので、ぶらぶらしていろんなものを発見したり、人と出会ったりするのが好きなんです。ナレーションをしている時も、映像から目が離せなくなってしまう時には原稿から外れちゃって、デタラメになってしまうことも。ひどいときには笑い出してしまったりして。可愛い子供が映った時には、ずっと見てしまって、Qランプがついているのは分かるんだけど、映像に見入って楽しんでしまうこともありますね。

 ――これからの目標は?

 線路はどこまでも続いている! 童謡にあるように線路はどこまでも続いているから、世界中の線路はまだまだたくさんあるんです。年代によってなくなる線路もあれば、新しくなる線路もあるし。いつか、自分で押すトロッコみたいなのに乗ってみたい。南米のボリビアあたりを青い空を見ながら走ったら、気持ちよさそう。声が変わって、おじいちゃんになっても、若者が旅する感覚でいたいな。

 1万回ってお正月を迎えたような区切りではあるんですけれど、ただ通り過ぎるんじゃないかなと思います。おそらく、スタッフとも「1万回ですね」「ああ、ゼロがいっぱいだね」ぐらいで終わるんじゃないかなと、そういう通過点もあっていいんじゃないかな。

 極端な話ですけど、将来、僕がやめちゃっても……年を取ったら誰かにやってもらいたいなと思う気持ちはありますよ。「世界の車窓から」がすてきな番組として、みんなに見てもらいたいっていう気持ちはずっと持ってますからね。でも、一応、僕ね97(歳)までは生きることにしてるんですけどね(笑い)。

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