没後160年以上をへてもなお、その作品が多くのミステリーファンの心をとらえている、史上初の推理作家といわれるエドガー・アラン・ポー。彼の死については多くの謎が残されている。その最期の日々を、事実とフィクションを織り交ぜながら描いたのが今作、「推理作家ポー 最期の5日間」だ。ジェームズ・マクティーグ監督が、米ロサンゼルスの自宅から、インターネット電話「スカイプ」で取材に応じた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画「推理作家ポー 最期の5日間」は、エドガー・アラン・ポーが謎の死を遂げた1849年の米ボルティモアが舞台。ポー(ジョン・キューザックさん)の小説やアイデアを模倣した猟奇殺人が連続して起こり、やがて恋人エミリーまでもが事件に巻き込まれる。心身ともに追い詰められながら犯人探しをするポーの姿が、監督いわく「圧迫感のあるダークさではない、グラフィックノベル(マンガ)的な黒い空間」を意識した画面の中でつづられていく。それはあたかも、観客自身が暗闇に目を凝らし、犯人捜しのヒントを見つけるような効果をもたらす。
今作の監督を引き受けた理由を「もちろん、エドガー・アラン・ポーの物語だから」と答えることからも分かるように、マクティーグ監督はもともとポー作品の大ファンだ。ポーは小説家のほかに詩人、批評家、さらに雑誌の編集者の顔を持ち、長編小説のほかに短編や詩も多く残している。今作は、その彼の作品から少しずつエピソードをつみ取り、一つの物語にまとめる形をとっているが、そのアイデアが「非常に面白いチャレンジだと思った」ことからオファーを快諾した。
事実とフィクションが融合されているという点でキャラクターは重要だ。例えば、アリス・イブさんが演じるエミリーは、ポーの実生活において最愛の女性だったバージニアをモデルにし、また、その父親でブレンダン・グリーソンさんが演じるハミルトン大尉は、ポーの養父がモデルだという。とはいえ、「ポーの伝記映画を作るつもりは全くなかった」から、それぞれのキャラクターは、ポー役のキューザックさんはじめ、演じる俳優たちの解釈やアイデアと、監督自身の意見を組み合わせ作り上げていった。
今作では しばしば、“大鴉(がらす)”や“シェリーの酒樽(さかだる)”といった、ポー作品につながるものが登場する。それは真犯人を捜す上でのヒントになり、それを見つけることはポーのファンにはたまらない楽しみだが、その一方で、ポー作品に詳しくない観客は“蚊帳の外”となりかねない。それについてマクティーグ監督は「ポーの作品を知らない人でも純粋なミステリー、推理ものとして楽しめるように作っています」と言い切り、その上で「ポーは、その作品スタイルで米国のみならず英国、フランスなどいろんな作家に影響を与えた重要な人物。私としてはむしろ、この映画をきっかけにポーに興味を持ち、彼の作品をみなさんが読み始めてくれることを願っています」と今作がもたらす効果に期待した。
ポーの作品で一番のお気に入りは「告げ口心臓」で、ほかに「モルグ街の殺人」「落とし穴と振り子」、詩の「大鴉」、風変わりなところでは「跳び蛙」を挙げるマクティーグ監督。終盤の“棺おけのシーン”では監督自らが、中に閉じ込められている人の顔を目がけて砂をかけたことを明かし、「それを事前に知っておいてもらうと、映画がより楽しめると思う」とちゃめっ気たっぷりにコメント。また、日本の観客へのメッセージとして、「日本では、ファッションやデザインに対して人気があることは海外で知られています。だからこそ、衣装が豪華な仮面舞踏会のシーンは、シーン全体のデザインも含めてみなさんに楽しんでもらえるでしょう」と作品をアピールした。
ちなみに、映画の最後に流れるエンドロールにはこだわりを持っていて、いつも自分で制作するという。今回は、ガラスや金属が動くモダンな映像だが「1800年代を舞台にした、時代がかった雰囲気の本編が110分続いたあと、そこから急に現代に引き戻される感じを表現したかった」といい、作品の(英語)タイトルにもある「raven(大がらす)」をモチーフにデザインに取り入れ、フランス出身の芸術家マルセル・デュシャンの作品の影響も受けたとのこと。舞踏会のシーン、棺おけのシーンともども注目して作品を楽しんでほしい。映画は10月12日から全国で公開。
<プロフィル>
豪州シドニー生まれ。98年、「ダークシティ」の第2助監督を務めたのち、ウォシャウスキー兄弟監督作「マトリックス」3部作(99~03年)で第1助監督、「スピード・レーサー」(08年)では第2班監督を務めるなど数々の作品の助監督を経験。05年には「Vフォー・ヴェンデッタ」で監督デビュー。そのほかの監督作に「ニンジャ・アサシン」(09年)がある。
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