1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、マンガ誌「月刊コミックゼノン」(徳間書店)で連載、中学校の臨時美術女性教師・鶴田夜(いつや)が不思議な力で周囲の人々に“奇跡”をもたらしていく姿を描いた佐原ミズさんのマンガ「夜(いつや)さん」です。
ウナギノボリ
解説:新たな“最高峰”を目指したガンプラ 45周年のこだわりとは
認知症の祖母と2人暮らしをしている中学3年の坂本晨(とき)はある日、1人で勝手に思い出の場所へ出かけて行ってしまった祖母を迎えに行く。見つけた祖母は晨のことを認識できず、ショックを受けた晨は学校をサボって空を眺めていた。すると不思議な“毛虫”が現れて「学校へ行け」という。学校で、その“毛虫”にそっくりの絵を臨時美術教師が描いたと知って……。
人生は多分いつだって後悔の連続で。でも、そんな時にしか見えない景色、そんな時だからこそ見える光というものがきっとある……。夜さんが起こす小さな奇跡は、痛みを希望に変える処方箋。ほんのちょっとのきっかけで、痛みは前に進む大きな力になる。そんなメッセージが本作にはこめられています。
佐原ミズさんは「ファンタジーが苦手」(本人談)です。著者にとって初めての長期連載である「マイガール」を終え、新たなことに挑戦するために、あえてその「苦手」に挑んだのが本作。最初に決まっていた設定は「美術教師」「ファンタジー」のみ。だから初めて完成したネームの主人公は実は男性だったりします……。連載開始までのざっくりとしたいきさつはあとがきに著者自ら描き下ろしていますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。
内容はもちろん、本作で著者が特にこだわったのは装丁。真っ黒な背景に輝く銀の箔押し(箔が下から押されて表面にボコッと飛び出しています)の星々は1巻最終話の内容と密接につながっています。本編を読み終わった後、もう一度カバーを眺めていただければ、きっと読む前とはその輝きが違って見えるのではないかと……。ぜひ試してみてください。ちなみにタイトルは「よるさん」ではなく「いつやさん」と読みます。その理由も本編で明らかに。かなり切ないです。
亡くなったおじいちゃんにもらった金魚を、埋め立ての決まった池から救いたいと、何度も池に行くおばあちゃん。かなうなら、かなえてあげたいと優しい孫の晨君は願うけれど、自分一人ではどうにもならなくてふがいなくて。
美術教師なのに絵が下手、でも味のあるかわいい絵に一瞬だけ命を吹き込む。夜さんは、頑張っている晨君のためにちょっとだけ夢を見せてくれる。
我慢して我慢して「疲れた」と心から思うことが誰にでもある。少し慰めてもらうと、もう一回前を向いて頑張ろうと思える。そんな元気をくれるマンガです。
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