25日(日本時間)に発表される第85回米アカデミー賞で作品賞、監督賞など主要8部門にノミネートされている「世界にひとつのプレイブック」(デビッド・O・ラッセル監督)は、最愛の人を失ったことで心を病んだ男女が、次第に心を通い合わせ、立ち直ろうとする姿を描いたヒューマン作だ。今作で、主人公の1人を演じているのが「ハングオーバー!」シリーズや「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」に出演したブラッドリー・クーパーさんだ。「彼(主人公)になることだけを心掛けた」という演技で、自身も主演男優賞にノミネートされている。授賞式を前にした心境や役作りについてなどを、1月に来日したクーパーさんに聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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クーパーさんが演じる主人公パットは、妻の浮気が元で心のバランスを崩し、8カ月間病院にやっかいになっていた元高校教師だ。退院した彼は、やはり愛する人を失った女性ティファニーと出会う。そのティファニーを演じているのは、「ウィンターズ・ボーン」に続き、今作が2度めのアカデミー賞主演女優賞ノミネートとなるジェニファー・ローレンスさんだ。ほかに、パットの両親役でロバート・デ・ニーロさん、ジャッキー・ウィーバーさん(「アニマル・キングダム」など)が出演し、彼らもそれぞれ男女助演部門でオスカーにノミネートされている。
受賞の行方について、「どういう結果になるか分からないけど、8部門でのノミネートは本当にうれしい」と喜びを口にしたクーパーさん。通常、2時間の映画の脚本は120ページといわれるが、今作は158ページ。それを33日間で撮るという過酷なスケジュールだったが、現場では何度も「撮影している!」と実感する瞬間があったという。「その手応えが、僕らを前に推し進めてくれた」と当時の心境を振り返る。
役作りでは、「用意周到」をモットーにしている。「準備ができているからこそ、リラックスして演技ができる」からだそうで、今回も準備は怠らなかった。その上で重視したのは、「パットの思考回路を理解すること」だった。パットは「そううつ病」だ。彼の内面を理解するために、同様の症状を抱えるラッセル監督の息子さんや友人に接したり、その類のドキュメンタリー映像や記事に目を通し、あるいは施設を訪問するなど、「できることはすべてやった」。そうすることで「最初は恐怖心や不安ばかりだった」というパット役も、「フェイク(まやかし)ではない、リアルな演技」を見せることができた。
11年製作の「リミットレス」から、プロデューサーも務めるようになった。「作品に深くかかわれるし、自分の意見をいうときに、わざわざ手を挙げて「すみません……」と断らなくていいからね」と笑う。将来的には監督もやってみたいと思っている。それは、12歳のとき「エレファント・マン」を見て、演技に目覚めてからずっと抱いてきた夢だ。だからだろう、「ここ数年、大きな役や大きな作品にかかわれるようになって、自分の思考は、俳優よりむしろ監督に近いと実感するようになっている。物語をどうやって伝えるか。脚本は? カメラワークは? 共演者から素晴らしい演技をどうやって引き出すか。そういうことを考えるのが、僕は大好きなんだ。もちろん、役者として現場にいることへの充足感はあるけれど、それ以上に、他の俳優からいい演技を引き出すことができたり、監督をサポートできたりしたときの満足感は大きいんだ」と言葉に熱がこもる。
パットを演じ終えて、俳優として「大きなハードルを越えた」と実感している。そして、オスカーのノミネート。おそらく当分の間、“俳優ブラッドリー・クーパー”は引く手数多だろう。だが、“ブラッドリー・クーパー初監督作”のニュースがもたらされるのも、案外遠くないのかもしれない。
ハンサムとかセクシーと褒められることは苦手なようで、その手の質問をしても答えに窮するだけだからやめておいたほうがいいとインタビューの直前、関係者にアドバイスされた。取材部屋に入ってきたクーパーさんは、分刻みで部屋から部屋へと移動し、取材をこなしていて少々お疲れモードだった。それでも、質問には誠実に答え、合間には、透き通った、本当に美しい水色の瞳と、とろけるような笑みをこちらに送ってくれた。そのたびに、「どうしてそんなにカッコいいんですか」という愚問を飲み込むのに苦労した。映画は22日から全国で公開中。
<プロフィル>
1975年、米ペンシルベニア州生まれ。ジョージタウン大学卒業後、アクターズ・スタジオで学び、99年、テレビシリーズ「SEX AND THE CITY」シーズン2のゲスト出演で俳優デビュー。09年の大ヒット作「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」で一躍スターに。続編「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」(11年)に続き、13年公開予定のシリーズ最後となる第3弾にも出演する。ほかの主な出演作に、「そんな彼なら捨てちゃえば?」(09年)、「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」(10年)、「バレンタインデー」(10年)がある。
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