ブラッド・ピットさんがすご腕の殺し屋にふんし、プロデュース(製作)も手がけたクライムサスペンス映画「ジャッキー・コーガン」が26日に全国公開された。米作家ジョージ・V・ヒギンズさんの小説を基に、脚本も手がけたのは「ジェシー・ジェームズの暗殺」(07年)でもピットさんと組んだアンドリュー・ドミニク監督。「経済的に不安定なこんな時代だからこそ、経済危機をマンガ的に描いた作品で、その状況を笑ってほしかった」と今作の製作動機について語るドミニク監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画「ジャッキー・コーガン」は、米ニューオーリンズの裏社会で生きる男たちを描いている。闇の賭博場が強盗に襲撃され、痛手を負った犯罪組織が犯人捜しに乗り出す。その依頼を受けたのが、ピットさんが演じる殺し屋のジャッキー・コーガンだ。完全主義の彼は、ゆっくりと確実に犯人を追い詰めていくが、それが、腹黒い悪党たちを震え上がらせ、裏社会全体のシステムも揺るがせていく……という展開。
「笑ってほしかった」とドミニク監督はいうが、ストーリーそのものはとても笑える内容ではない。バイオレンス(暴力)シーンもある。しかし、ピットさんが、コワモテの表情の中にもチャーミングな顔を見せたり、賭博場を襲撃するチンピラ2人組(スクート・マクネイリーさん、ベン・メンデルソーンさん)がかなりまぬけだったり、さらに、照明を工夫するなどして激しい暴力シーンですら美しく見せる撮り方をしている。そのため最終的にはドミニク監督が意図するような「自分たちが恐怖心を抱いているものを笑い飛ばせる作品」になった。
ピットさん起用の理由を、ドミニク監督は「彼は、どんな役をやってもミステリーを感じさせる。それが彼をスターたらしめていると同時に、感情移入しづらいタイプの役者にしていると思う」と分析。しかしその分、「見る者を誘惑するような魅力」があり、それが今回の謎めいた殺し屋役にぴったりだったと明かす。
ピットさんが、チンピラの1人、フランキー(マクネイリーさん)と、ぶっつけ本番で演じたという場面がある。バーで2人が顔を合わせるシーンだ。これからとんでもないことが起こりそうでゾクゾクさせられる場面だが、その撮影についてドミニク監督は、興味深いエピソードを教えてくれた。
「あのシーンでのフランキーは、コーガンに対して非常に脅威を感じている。スクート(俳優本人)も同様で、世界的スターのブラッド・ピットを前にひどく緊張していた。スクートは、その気持ちを演技に生かせるのではないかと考えたんだ。そのアイデアをブラッドも気に入って、本番まで2人は顔を合わせなかったんだ」
ところが、いよいよそのときがくると、ピットさんもマクネイリーさんも、緊張のあまり最初のテークは失敗。結局、何度かテークを重ねたそうで、その間も「ブラッドはカメラが回っていないときもスクートに声を掛けたりせず、ものすごくプレッシャーを与え続けていた」という。もちろん、撮影が進んでからはピットさんも、マクネイリーさんにフレンドリーに接していたそうだが、そうした役作りが奏功し、最終的には「すごくいいシーンが撮れた」と、ドミニク監督は満足そうに語った。
観客に向けてのメッセージとして、「この作品をどうやって楽しんでほしいかというのを僕が語ることは難しい」としたうえで、「映画って、見る人にとって、鏡のような存在だと思う。だから、この映画の登場人物たちに自分を見いだしたり、こういう人間、自分の知人の中にもいるよなと思ってもらえれば」とアピールした。映画にはほかに、「扉をたたく人」(07年)のリチャード・ジェンキンスさん、人気テレビシリーズ「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」(99年~)のジェームズ・ガンドルフィーニさん、「ハンニバル」(01年)のレイ・リオッタさん、「ジェシー・ジェームズの暗殺」にも出演したサム・シェパードさんらが出演しており、彼ら個性的かつ演技派のアンサンブルも見どころの一つだ。映画は26日からTOHOシネマズみゆき座(東京都千代田区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1967年、ニュージーランド生まれ。豪メルボルンのスウィンバーン映画学校を卒業後、コマーシャルやミュージックビデオの制作に携わる。00年「チョッパー・リード 史上最強の殺人鬼」(未公開)で長編映画デビュー。この作品は、オーストラリア映画協会監督賞などを受賞し注目される。07年、ブラッド・ピットさん主演の「ジェシー・ジェームズの暗殺」の脚本と監督を務め、ピットさんにベネチア国際映画祭男優賞をもたらした。現在、マリリン・モンローの7歳から死までを描いた「Blonde」に取り掛かっている。
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