人気グループ「KAT-TUN」の亀梨和也さんの主演映画「俺俺」が25日に封切られた。第5回大江健三郎賞を受賞した星野智幸さんの小説が原作で、ドラマ「時効警察」や映画「インスタント沼」で独特の世界観を表現してきた三木聡監督が手がけた。亀梨さんが1人33役を務めることなどで話題を呼んでいる「俺俺」について、三木監督とミステリアスなヒロイン・サヤカ役を演じた女優の内田有紀さんに、撮影時のエピソードや映画の魅力などを聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
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郊外の家電量販店で働く主人公・均(亀梨さん)が、なりゆきで「オレオレ詐欺」をしたことから“俺”が増殖していき、やがて“俺”同士の削除が始まる……というストーリーの今作。映画化にあたって、脚本も担当した三木監督に原作を読んだ印象は、「普通に読むとどう映画化するのという話で、原作をどうしようかと思いました。不条理な世界に引きずり込まれていくのが面白く、映像化するのは大変だけれど、かなり興味はわきました」と三木監督が第一印象を語れば、「最初に脚本を読ませていただいたときは、『これどうやって撮るんだろう?』と思いました。もともと、三木監督の映画を見ていたり、三木監督の作品に出ている俳優さんと会うことが多くて、三木監督の話をよく聞いていたタイミングでの(出演の)お話だったので、出るのがすごく楽しみでした。三木監督が描く世界はどうなのかなど、いろいろな期待感がありました」と内田さんは脚本を初めて読んだときの心境を明かした。
内田さんが演じるサヤカは、自ら会社を経営する自立した女性ながらも時に思わせぶりな言動で、均を翻弄(ほんろう)するという役どころ。ミステリアスかつ原作にはない役柄を作ったことについて三木監督は「基本構造は『フィルムノワール』の『ファムファタール』という役どころ。主人公を混沌(こんとん)とした世界に引きずり込む女性、悪女ということの不条理版のようなことを考えました。『フィルムノワール』ではないですが、サスペンスな部分の方程式には、そうは見えないですけど、一応僕なりには乗っかっているつもり。ですのでファムファタールは必要でした」と内田さんの役を生み出した。
一方、内田さんはサヤカを演じることについて、「脚本を読んだときは深く考えすぎず、三木監督と現場でお話しして、何かヒントになる言葉があればと思っていました。でも第一声で『謎の女性役です。すみません』と謝られて(笑い)。決めつけてかかることはなしということを、そこで思いました。もうなるようになろう、縮こまった考えは持たずにいこうと、楽しみに現場に向かいました」と笑いながら振り返る。内田さんの発言を聞き三木監督は「それが望んでいたことで。頭の論理構造で考えると、僕は役を条理で書いているわけではなく、そこをずらして書いている。だから、そういうところを取っ払う覚悟をしてきてくださったことはうれしかったです」と喜ぶ。
三木作品のファンだという内田さんは、今回が初めての三木組に参加した。実際に出演してイメージとの違いや発見について、「三木監督を前にして言いづらい」と前置きをしながらも「三木監督のビジュアルは拝見したことがありましたが、(今回実際にお会いするまで)こんなに丁寧でこんなに思いやりのある方とは思えなかったので驚きました(笑い)。見た目がラフな方だから『おまえちょっとそのへんで寝てろ』みたいに言うのかなと思っていました」と笑いながら暴露すると、思わず三木監督が「そんな人いないでしょ」と笑顔で突っ込む。
内田さんは「現場の空気や役者がその日に出しているものを見過ごさないというか、全部見透かされているような感覚を受けるので、ある意味気が抜けません。アンテナがすごい立っているのが感じられ、こっちも全開でいないと何か落としてしまいそう。落としたくないと必死になって考えているうちにわけが分からなくなって、言われたままになっていることが多いです(笑い)。催眠術じゃないですけど、何か術を持ってるのでしょうね」と、笑いを交えつつ三木監督を評する持論を展開した。三木監督は「余計うさんくさいじゃないですか」と再び笑った。
33役を演じた主演の亀梨さんの印象は、「普通の演じ分けという役者の方法論を亀梨さんに使わずにやってもらわないと、(原作者である)星野さん(が描く世界)の不条理は成立しない。いわゆる役を構築していく演じ分けと違う形の演じ分けをやらなきゃいけない。それを亀梨さんに期待して、亀梨さんはそのことを見事にやってもらったという印象です」と三木監督。09年放送の連続ドラマ「神の雫」(日本テレビ系)以来、3年ぶり2度目の共演となった内田さんは「三木監督がおっしゃっているのを聞いて、本当に作り分けをしなきゃいけないということを考えている人じゃなくてよかったです(笑い)。感覚の話になりますが、頭で考えて『ああしなきゃ、こうしなきゃ』を思い過ぎる人では、きっと成り立たない映画だったと思います。三木監督が亀梨さんならやってくれるだろうと信頼して始まったというのは、すごく感じました。やっぱり亀梨さんでないとできないだろうと思います」と振り返った。
内田さんの発言を受けて三木監督が「彼の普段の環境もそうですよね。トップスターやアイドルといったいろいろな面を持っていて、それを瞬時に切り替えていかなければならない。あのリアリティーが『俺俺』には合うと思いました。そこに対する批判や映画に対してさまざまいわれることは予想できますが、これが今僕が作りたいリアリティー。よく分からないけど新しいだろうと思える手触りに一緒に行けるというのが今回の目標でした」と語った。
数多くの個性的なキャラクターが登場する今作の撮影現場での雰囲気について、内田さんは「亀梨さんと(のシーン)が多かったのですが、ふせえりさんは前から共演させてもらいたい女優さんでしたので、共演できて楽しかったです。ご本人は可愛らしい人なのに、ものすごくパワフルなものを出されるので、底知れないすごさを感じました。加瀬亮さんも(共演は)ちょっとだけのシーンでしたが、変わっているという思いもありましたし、『インスタント沼』でも見ていましたが、やはり三木監督の好きな俳優さんなんだろうな、いじりたいんだろうなというものを持っていると感じました」と共演者の印象を語った。
三木監督は映画全般について、「基本的には成長譚。最初のころはもう少し感覚的な着地点とか物語構造とかをあまり意識せずに(脚本を)書いていました。でも最近、『インスタント沼』や今作でいうと登場人物が戻ってきたときに何らかの成長を遂げているという構造の着地点みたいな、同じ風景が違って見えるということは(感覚的に)考えていました。最初に団地のお母さんから始まり最後は団地のお母さんで終わる。給水塔を物語のポイントで振り返ると、やはり給水塔はそこにあってなど、そのことはかなり意識して作りました。とにかくどういうふうに映画として着地点を見つけていくか、小説は小説で着地点が完成しているわけです。だけど、映画だから別の着地点を探さなければいけない。そのことをプロデューサーと一緒に長く考えていたのが今作でした」と、構想時のエピソードを明かした。
最後に内田さんは、今作について「最後に答えを少し与えてくれた作品になっているなと思いました。今までの三木監督の作品は感覚的に書いていたことが多かったということで、今回はいろいろな計算があったりしたと聞いて、『俺俺』については確かに、最後なるほどなと思えましたし、気持ちよかった。解けないのも大好きなんですが、(今回は)すーっと解けた気がします。『俺俺』はこういう作品と感じましたし、原作と映画との違いだとも思いますし、楽しめます」と魅力を語った。
映画は新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開中。
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