ベートーベンが亡くなる半年前に完成させたという「弦楽四重奏曲第14番」をモチーフに、4人の大人たちの物語が展開する「25年目の弦楽四重奏」が6日に公開された。結成から25周年を迎えた弦楽四重奏団「フーガ」。ある日、メンバーの一人が不治の病を宣告され引退を決意したことから、それまで家族のようだった関係が変化していく……という物語。
ウナギノボリ
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フィリップ・シーモア・ホフマンさんにキャサリン・キーナーさん、マーク・イバニールさん、そしてクリストファー・ウォーケンさん……。演技巧者で、大人の色気を持ち合わせた彼らが、完璧であるからこそ、わずかなゆがみで均衡が崩れていく楽団メンバーを演じている。さらに、ホフマンさんとキーナーさんが演じる夫婦の娘役イモージェン・プーツさんが、はつらつとした若い魅力をふりまいている。途中には修羅場もあり関係は荒れるが、それもこれも25年の重みがあるからこそ。問題を無理に解決させず、流れに委ね、だからこそ希望が見えてくるというエンディングには好感が持てる。大人の良識が垣間見える芳醇(ほうじゅん)な作品だ。
劇中に「アタッカ」という言葉が出てくる。これは、途切れることなく演奏するという意味で、ベートーベンは「弦楽四重奏曲第14番」の全7楽章を、アタッカで演奏するべきだと言いのこしたという。その言葉に従えば、演奏途中で楽器をチューニングすることは不可能で、それゆえ音程は狂っていく。つまり「弦楽四重奏曲第14番」は、狂っていく音程の中で演奏し続ける画期的な名曲だそうだ。この楽曲から着想されたのが今作だという。監督、脚本のヤーロン・ジルバーマンさんは、米マサチューセッツ工科大学で物理学の学士号を取るなどした理系人間。初監督作は、ユダヤ人の女子スイマーたちに焦点を当てた長編ドキュメンタリーだったという。今作が、監督作2作目にして初のフィクションだが、次回作も見てみたいと思わせる。6日から角川シネマ有楽町(東京都千代田区)ほか全国で順次公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。今年1月から、東日本大震災復興のための「復興特別所得税」が原稿料から引かれていることに気づいた。平成49年まで続くんだそうだ。被災地のためといいながら、違うところで使わないようにしてほしいものだ。
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