第二次世界大戦後の日本の命運は、一人の米国軍人の調査にかかっていた……。その知られざる真実を描いたハリウッド映画「終戦のエンペラー」は、日本人の奈良橋陽子プロデューサーが仕掛けた作品だ。どういった経緯で今作を作ろうと思ったのか、また製作中の印象深い出来事など、作品にまつわる話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画「終戦のエンペラー」は、1945年の終結直後の日本に、マッカーサー元帥率いる連合国軍総司令部(GHQ)が上陸するところから始まる。マッカーサーは、最も信頼する部下の一人で、軍事秘書官のボナー・フェラーズ准将に、この戦争における真の責任者を探らせる。それによって、昭和天皇の役割を明確にするためだ。期限は10日間。フェラーズは、軍事裁判を待つ東條英機前首相や、開戦直前に首相を辞任した近衛文麿らと面会しながら、この困難な任務に挑んでいく。マッカーサーを演じるのは、「メン・イン・ブラック」シリーズなどで知られ日本ではCMでも人気のトミー・リー・ジョーンズさん。フェラーズ准将は、米人気ドラマ「LOST」のマシュー・フォックスさんが演じている。さらに日本からは西田敏行さん、火野正平さん(東條英機役)、中村雅俊さん(近衛文麿役)、羽田昌義さん、初音映莉子さんらが出演している。
−−「終戦のエンペラー」を作ろうと思われたきっかけを教えてください。
私は「ラスト サムライ」(03年)など、ハリウッド主導の作品にこれまでたくさん関わってきましたが、日本から発信し、ハリウッドで作れるものはないものかとずっと企画を探していました。そんな中、この原作(岡本嗣郎さん著「陛下をお救いなさいまし」)と出合い、日本の歴史を大きく変えた無名の米国人の存在を知り、驚きました。マッカーサーはよく知られていますが、ボナー・フェラーズという人は、米国でもまったく知られていません。ですから、コンセプトとして非常にユニークで、企画を立ち上げるチャンスがあると思ったのです。
−−今作に登場する、天皇を補佐する関屋貞三郎宮内次官は、奈良橋さんのおじいさまだそうですね。そのことは、作品作りのきっかけになりましたか。
おっしゃる通り、関屋貞三郎は母方の祖父で、それも映画化を考える一つの力となりましたが、やはり一番、心に訴えてきたのはフェラーズの存在でした。
−−日本発信のハリウッド映画を作りたかったとのことですが、脚本を海外の人に頼んだところが、国際派の奈良橋さんらしいと思いました。
GHQに関する資料などは米国の方が多いし、ハリウッドで活躍している脚本家なら、スケールも大きく描けると思いました。それで、信頼しているデビッド・クラスさん(「コレクター」「絶対×絶命」など)にお願いしたのです。
−−映画では、フェラーズと初音さん演じる日本人女性アヤのラブストーリーが強調されていますが、その部分は原作にはありません。
原作からは、フェラーズという人物がいて、彼らの尽力があって日本は助かったという点を取り上げました。ただ、ハリウッド映画だからラブストーリーを入れたというのではありません。非常に重要な要素として取り入れています。フェラーズが、米国に留学していたアヤと恋に落ち、彼女がフェラーズに日本のいろいろなことを紹介していたから、彼も日本人の心理を知り得たのです。それをマッカーサーは知っていたので、手伝ってほしいと彼に頼んだわけです。彼女を知らなければ、フェラーズの日本人に対する思いは違っていたでしょう。
−−関屋貞三郎さんを、5月に亡くなった夏八木勲さんが演じていらっしゃいます。
夏八木さんのことは以前から知っていましたが、お仕事をしたのは今回が初めて。ほかの作品でキャスティングを考えたことはありましたが、実現しなかった。でも今回は不思議なくらい、本当にぴたりとはまりました。撮影に入る前、夏八木さんが、ぜひ会いたいとおっしゃったので、関屋貞三郎の息子である叔父の家にお連れしました。夏八木さんは、フェラーズのことや天皇陛下とマッカーサーが会ったときのことなどをいろいろ聞いていらっしゃいました。
−−キャスティングでほかに印象に残ることはありますか。
私は、「NO」といわれてもすぐにはあきらめないんです。この役にはこの人が絶対合うと思ったら、最後まで粘る。今回苦労したのは、天皇陛下役の(歌舞伎俳優の)片岡孝太郎さん。スケジュール的に非常に厳しい状況の中でお願いしました。最初のお返事は「NO」でしたが、そのとき偶然、(昨年末に亡くなった)中村勘三郎さんにお会いしたんです。勘三郎さんとは、息子さんの中村七之助さんに「ラスト サムライ」の明治天皇役で出演していただいたこともあり、旧知の間柄。勘三郎さんが「よお、どうしたの」とおっしゃるので、片岡さんにぜひにと思って、という話をしたら、片岡さんに「出るべきだよ、出なさいよ」と言ってくださったんです。それが勘三郎さんにお会いした最後でした。すごく貴重な言葉をくださって、それも助けになったと思いますね。
−−メッセージをお願いします。
伝えたいのは「再建と復興のエネルギー」です。実は映画の中の廃虚の場面には、東日本大震災の写真もベースに使っています。カメラマンが現地に行き、スチール写真を撮りました。終戦後、どん底の中でも頑張れた日本だから、3.11の震災のあとも、我々日本人はもう一度頑張れるはずだという思いを込めました。
*……映画は27日から全国で公開中。
<プロフィル>
千葉県出身。外交官の父の下で5歳から16歳までをカナダのモントリオールとオタワで過ごす。大学卒業後はニューヨークのネイバーフッド・プレイハウスで演劇を学び、「ヘアー」「Monkey」など数々の舞台を演出する。国連芸術賞受賞作「The Winds of God」(88年)は、ロサンゼルスやニューヨーク、豪州、ニュージーランドで上演され、その映画化「WINDS OF GOD ウィンズ・オブ・ゴッド」(95年)で映画監督デビューを果たした。演出家として活躍する一方で、俳優養成所アップスアカデミーを主宰。外国作品のキャスティングディレクターとして「太陽の帝国」(87年)、「ラストサムライ」(2003年)、「SAYURI」(05年)、「バベル」(06年)、「ラーメンガール」(09年)に参加。今冬公開予定作として「47 RONIN」がある。また、バンド「ゴダイゴ」のヒット曲「ガンダーラ」や「モンキー・マジック」「銀河鉄道999」などを作詞した。初めてはまったポップカルチャーは「私の世代だったらヒッピーかしらね。20代、ちょうどニューヨークを訪れたときで“ど真ん中”でした。当時は、平和やベトナム戦争に対して訴えていたり、好きな洋服を着たり。面白い時代でしたね」と国際派ならではの回答を寄せた。
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