ワールド・ウォーZ:フォースター監督に聞く「群集だと凶暴になる人間の恐ろしさ」を描いた

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 ブラッド・ピットさん主演の映画「ワールド・ウォーZ」が10日から全国で公開された。人間を凶暴化させる未知のウイルスが発生し、感染が世界規模で広がる中、ピットさん演じる元国連調査官のジェリー・レインが、ワクチン開発の情報を得るために世界中を奔走するパニックエンターテインメント作だ。作品のPRのためにこのほどピットさんらとともに来日したマーク・フォースター監督。「これは現代社会が抱えている問題を反映しながらも、娯楽性に富んだ、いわゆるイベント映画である稀有(けう)な作品。だからこそ取り組みがいがあると思った」と今作に関わる動機を語ったフォースター監督に聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 「僕はこの映画を、世界の終焉(しゅうえん)を描いた映画だと思っている。ただその奥底には、“家族”を中心とした人間的ドラマがあるんだ」と、語り始めたフォースター監督。今作のように“未知のウイルス”が猛威を振るい、それによって人間が絶滅の危機にさらされるという映画は、これまでにもたびたび作られてきた。フォースター監督によると、ウイルスはその時代における人間の不安や社会が抱えている問題であり、今作の場合は「経済破綻や環境破壊に対する恐怖心のメタファー(隠喩)」なのだという。

 もう一つ、フォースター監督がこの作品で描きたかったことは、「人間は、個人であればとても友好的かつ平和的だが、群集になるとガラリと変わり、凶暴になる。その恐ろしさ」だ。その凶暴化、暴徒化する人間たちの間で「父親として、家族を守るために奔走する」のがピットさん演じる今作の主人公ジェリーだ。

 原作は、マックス・ブルックスさんによる同名の世界的ベストセラー小説。あるとき、フォースター監督の元に、原作本が、ピットさんが立ち上げた製作会社「プランBエンターテインメント」から送られてきた。そして「読んでみたら面白かった。これをベースに映画を作ろうということになり脚本作りに入った」という。しかし、さすがに「そのまま映画にはできなかった」。なぜなら小説は「国連の調査員が54人の人間の話を聞いて回り、それを手記としてまとめたもの」に過ぎず、そのため、フォースター監督は「大いなる陰謀」や「消されたヘッドライン」などの脚本家として知られるマシュー・マイケル・カーナハンさんらと、映画として成立させるためにジェリーという主人公を立て、原作小説は「あくまでも参考に」というスタンスで脚本を組み立てていったという。

 ジェリーを演じているピットさんは、今作でプロデューサーも務めている。フォースター監督はピットさんの魅力を「俳優としてのブラッドは、撮影中は役にのめり込んで集中しているが、ひとたびカメラが止まると俳優としての彼は姿を消し、プロデューサーとしての彼が現れる。彼は、映画スターのアイコンといっても過言ではない。長年それでやってきて、(役による)変貌ぶりは、まさにカメレオンだよ。しかも人間として優しいし、周囲の人への気配りも忘れない。それに何より家族を愛している。ジェリーという役とオーバーラップする部分がある」と評する。

 フォースター監督といえば、最近の作品に「007/慰めの報酬」(08年)という娯楽作があるものの、ほかはハル・ベリーさんに米アカデミー賞主演女優賞をもたらした「チョコレート」や、ジョニー・デップさん主演の「ネバーランド」、さらに、運命に翻弄(ほんろう)された2人の少年の友情を描いた「君のためなら千回でも」といったヒューマン作を多く手掛けてきた。今作のようなパニックエンターテインメントは珍しいが、それでもところどころに“フォースター印”は刻印されている。例えばそれは、ジェリーがワクチン開発のための情報収集に出掛ける際、妻に別れを告げる場面。その親密な雰囲気は「人間を描くことが大好きだ」という監督だからこそ表現しえたシーンだ。また、監督自身が印象深いと語るのは、感染者がイスラエルの壁をよじ登る場面。「かつて僕が育った家の裏庭にはアリ塚があってね。そこをアリの大群がよじ上っていく光景が目に焼きついていた。あの衝撃は忘れられない。それをあのシーンで再現したかったんだ」と説明する。

 今回の作品では、これまでにないほどのエキストラを多く使った。「毎日500人から1000人のエキストラに来てもらって撮影する。それも1日だけじゃなく何週間もだよ。しかも、みんながパニックに陥って大混乱の群衆シーンだ。夜、目が覚めて、明日撮るシーンが出演者が2人きりの、コーヒーを飲みながら会話するシーンならどんなによいだろうと思ったものだよ」と当時のプレッシャーを苦笑混じりに打ち明ける。

 そんな重圧をはねのけ完成させた今作は、全米では大ヒットしている。「僕はこの映画で、経済破綻や環境破壊への恐怖を描くとともに、我々がテクノロジーの奴隷のようになり、人間よりむしろ機械とばかりかかわっていることに警鐘を鳴らしたかった」と自身のスマートフォンを操作するふりをしながら、改めて今作の製作意図を語ったフォースター監督。そして「それらを克服するために、国を超えて全人類が力を合わせる必要があること、“国境なき世界”の必要性を訴えたかった。だからこそ、それに対する一つの希望をほのめかして映画を終わらせているんだ」と締めくくった。映画は10日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1969年、ドイツ生まれのスイス育ち。90年、渡米しニューヨーク大学で3年間映画を学んだ。2000年、「Everything Put Together」(日本未公開)で監督デビュー。翌年の「チョコレート」で名を知られるようになり、その後、「ネバーランド」(04年)、「ステイ」(05年)、「主人公は僕だった」(06年)、「君のためなら千回でも」(07年)などヒューマン作を多く手掛けてきた。その一方で「007/慰めの報酬」(08年)や「マシンガン・プリーチャー」(11年)といったアクションやエンターテインメント作品も手掛けている。

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