映画「キッズ・リターン 再会の時」が全国で公開中だ。今作は、北野武監督の名作「キッズ・リターン」の“その後の物語”で、ボクシングの道に進んだシンジと、ヤクザの道に進んだマサルによる約束や友情などを描く。シンジ役には平岡祐太さん、マサル役に三浦貴大さんがふんし、熱演している。「キッズ・リターン」で助監督を務め、今作ではメガホンをとった清水浩監督に、男同士の友情や製作時のエピソードなどを聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
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「最初聞いたときは『マジですか!?』という感じでした。信じられなかったです」と、自身が監督を務めることに驚いたという清水監督。今作は1998年にビートたけしさんが発表した短編小説「キッズ・リターン2」が原案となっているが、清水監督は「『キッズ・リターン 2』が出てから15年ぐらい。今では少し時代が違うので原作そのものをやるのは難しいという話は、プロデューサーとの間では出ていました。シンジとマサルの2人の世界で何があったのかという、前作にはないものを作らなければならない。そこで“2人のリターンマッチ”という核を作ろうということになりました。原作者である北野監督の“思い”などを聞かせていただき、脚本を作りました」と映画製作を始めた当時の様子を振り返った。
北野監督との打ち合わせでは「ある程度の流れなどを提示し、『じゃあこういうふうにしたらどうだ』と北野監督がいろいろアイデアをくださいました」と、より具体的なやりとりがあったという。「最後には『好きにやって』ということでしたので、『分かりました』と」と清水監督は笑顔で事の顛末を明かした。お墨付きをもらった清水監督だが、シンジとマサルについて「キャラクターは『キッズ・リターン』を見れば大体出ている。それを平岡君や三浦君に押しつけるのではなくて、2人が演じるシンジとマサルを撮ろうというのは決めていました」と、これまでのイメージにとらわれないようにしたことを明かす。続けて「シンジはこう、マサルはこうというのは(2人には)言ってなく、台本にも書いていない。当然キャストが(『キッズ・リターン』とは)違いますから。台本を作るときもできるだけ『キッズ・リターン』の要素を省いていったというか、キャストも引きずらないように排除していきました」と話した。
シンジとマサルを見事に演じた平岡さんと三浦さん。「プロデューサーなどから、シンジを平岡君、マサルを三浦君でどうという話でした。その人が演じるシンジやマサルを撮ると決めていたので、キャスティングなどはある程度お任せました。決める前には(キャストに)一度会わせてはもらいますが、同じスタッフですしお互い信用しています。こうでないとだめとか、こういう人といったリクエストはほとんどないですね」とキャスティングについて語る。平岡さんと三浦さんの印象は、「すごく瞬発力がある。スケジュール的にもタイトでしたし、撮る分量が多く、現場も結構きつかったと思います。ほとんど1回のテストで本番を撮りましたし、毎日、改訂稿といって台本を変えたり現場でもせりふをいじったりしても、ほぼNGはなかったですね」と清水監督は2人の演技を絶賛した。
実際の試合を見ているかのような迫力が伴うボクシングの試合シーン。物語の重要な要素だが、「パンチが当たるところに寄ったり、スローモーションや汗が飛ぶとかは撮らないと決めていました。試合のときはロープを超えてリングの中にカメラは入らないことにしていたので、平岡君らには試合中にカメラを気にさせないようにはしました。本当に試合をやってもらったという感じ」と撮影秘話を語る。そして「(試合シーンは)すごく“生”ぽいと思います。(平岡君には)2~3カ月間ぐらいボクシングの練習をやってもらいました。後半の練習では、(試合シーンの)対戦相手は現役や元プロの方でしたので、ある程度、流れを決めてスパーリングを繰り返し練習してもらい、現場ではアドリブありで一発で撮りました」と臨場感を出すための工夫の一端を語った。
タイトなスケジュールで撮影は行われたという清水監督だが、「普通はスケジュールがきついと『日が暮れるから早く』と、かなり撮りこぼしたりしますが、すごく(撮影と撮影の)間に時間ができてしまうのがほとんどでした。ある日なんかは昼食も取らずに午前中だけで終わったときも」と撮影自体は順調だったようだ。「トラブルはほとんどなかったのですが、中尾(明慶)君がトイレを破壊したぐらい(笑い)。蹴飛ばしたら割ってしまったみたいです」と唯一ともいえるハプニングを明かし再び笑う。
登場人物の中で数少ない女性で、シンジの彼女であるマナミの役割を聞くと、「さっぱりした男ぽい感じで、男がこういう女性だったらいいという言葉で書いているところもあります。シンジとマサルの中には入れないという女性がいるほうが、2人の関係が見えるかなと思いました。2人を描くためにマナミという女性を作ったところはあるかもしれません」と語った。続けて、「高校時代などにいつも一緒にいたような友だちは、自分はどうであれ、その人がうまくいっていればうれしくなる。自分がだめでもその人が頑張っていると思えば、自分がそこにいる存在感などが出たりして、そういった“身内”みたいな感じになる。言葉を交わさなくてもお互いに心地いいというか、久しぶりに会っても『おう』というだけですむ仲というのは、不変のものだと思います」とシンジとマサルの関係性を解説した。
印象に残っているシーンはと振ると「『キッズ・リターン』と同じ所で撮影しているシーンがあります。違うふうに撮っているので、ご覧になった方もまず気付かないでしょうね。狙ったわけではなくて、たまたまですが、自分の中では意外に面白かった」と清水監督。ちなみに「シンジが一人で橋の上でシャドーを行うシーンの橋」だそう。さらにラストシーンは台本とは異なり、「編集の段階であの形になりました。(使った映像は)全然そういう意図では撮っていなくて、編集段階で最後どうしようと思い試してみたら、うまい具合にはまりました」と土壇場で変更したことを明かした。
今作のテーマについて清水監督は「高校のときなどは、どこか素直に変なことは考えず、敵はこれだとぶつかっていった気がします。大人になると処世術やうまく立ち回ることを覚え、そんな自分にジレンマがあったりする。世知辛いというか生きにくいことになってしまったと思うのですが、若いときには一度向かっていく相手にはガツンと向かっていったほうがいいのではという感じはします」と作品に込めたメッセージを語る。さらに「敵だけではなく、ちゃんと見てくれたり味方になってくれる人が絶対出てきて、生きていく上で本当に助けてくれたりするようになってくれる。きちんと向かっていかないと、そういった人は出てこない気がします。本当にケンカできる人とケンカしたほうがいいと思いますし、そんなことがちょっとでも感じてもらえたらいい」と今作について熱く語る。「僕としてはその後の話なのですが、“もう一つの『キッズ・リターン』”みたいなところで見てもらえたらいいと思います」と話した。映画はテアトル新宿(東京都新宿区)ほかで公開中。
<プロフィル>
1964年5月26日生まれ、京都府出身。「ソナチネ」(93年)、「みんな~やってるか」(95年)、「キッズ・リターン」(96年)、「HANA-BI」(97年)、「菊次郎の夏」(99年)、「BROTHER」(01年)まで北野武監督作品に助監督として参加。98年公開の「生きない」で監督デビューし、第51回ロカルノ国際映画祭アキュメニカル特別賞、第3回釜山映画祭国際批評家連盟賞を受賞。自ら脚本も担当し、池内博之さんが主演した「チキン・ハート」(02年)が第55回カンヌ国際映画祭国際批評家週間招待作品となる。最近の監督作は「呪いの心霊感染 わたしはとり憑かれた~19歳女子大生 聡子の場合~」(10年)などがあり、今作が5作目の監督作品となる。
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