ブロック玩具「レゴ」の世界観を描いた初の長編映画「LEGOムービー」(フィル・ロード監督、クリストファー・ミラー監督)が公開中だ。今作は、レゴブロックの世界に住む平凡で生まじめな主人公・エメットがなぜか伝説のヒーローと勘違いされ、レゴワールドを支配する邪悪な“おしごと大王”から世界を救うための冒険に出る物語。日本語吹き替え版ではエメット役を声優の森川智之さんが務め、エメットが恋心を寄せるヒロイン・ワイルドガール役を沢城みゆきさん、おしごと大王は山寺宏一さんが演じる。森川さんに映画やレゴについて話を聞いた。
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今作の主人公であるエメットは、毎日をお気楽に過ごすどこにでもいるような普通の青年という設定。森川さんは「子供に人気がないだろうね」と笑いながらも、「(エメットを演じられて)逆にうれしいと思いました。レゴは想像の世界だから、レゴで遊ぶ時は自分で世界を考え出し、作っていくので、主役になるものは“自分”で、実はスーパーヒーローは脇。中心にいるのが自分で、それが普通の作業員というところにとてもレゴらしさというか、想像してみんなに遊んでもらうという本来のレゴの遊びの要素が、映画にもちゃんと入っていると思い、すごくうれしかった」と持論を交え、エメット役を演じた喜びを語る。
エメットが“普通”であることについて、森川さんは「映画の中でも“誰でもヒーローになれる”というのがレゴの世界だから、何もないキャラクターからヒーローになるというときに、自分に置き換えられるような名前もないイチ作業員のエメットに白羽の矢が立ったのかな、と。子どもはカッコいい名前のあるものがほしいだろうから微妙な表情になるかもしれないけど(笑い)、大人は『これがいいんだよ』みたいになるかもしれないけどね」と自ら分析。エメットはストーリーが進むにつれて伝説のヒーローと周囲から思い込まれていくが、「すごくお気楽な性格でもあるので、自分が世界を救うヒーローなんだというようになったとき、周りのテンポと自分のテンポが合わないままどんどん進んでいってしまうというところが面白いと感じました」という。
そして、数々のヒーロー役を演じてきた森川さんは「最終的には本当のヒーローになれるけど、ヒーローというのは『俺がヒーローだ』といってなるのではなく、気づかないうちにやっていたことがヒーローだったというもの。エメット自身も最後の最後までどこかカッコ悪いんですけど、一番最後に(ヒーローらしい)姿を見せてくれる」と独自のヒーロー観を交えて振り返る。
レゴとしては初の長編映画だが、森川さんは当初、「“レゴムービー”だから一個一個(組み立てる工程を)撮っていくという映画なのかな」と思ったという。実際に映像を見た際には莫大なレゴの量に「一個一個やっていたら何世代にわたるんだろう?」と驚いたという。そして、映像内のレゴはすべてコンピューターグラフィックス(CG)と聞いて、「全然CGに見えず、本当に一個一個、人の手で(レゴを)動かしているように見えるぐらいすごかった。子供にも見てほしいけれども、昔、子供だった人にも絶対見てほしいと思いました」と初めて見たときを振り返る。
レゴワールドを舞台としながらも、青年の成長や人間模様などを笑いを交えつつ描く。森川さんは今作のストーリーを「おもちゃ箱をザーッとひっくり返してスタートさせるドラマ、ストーリー」と表現。続けて「ちゃんと悪役がいて、自分を投影させられる普通の主人公がいてヒーローになっていくというのが(台本を読み進めていくうちに)見えてきたときにはすごくワクワクしたし、レゴの可能性がしっかり投影されていると感じた。普通のヒーローものとか特撮ものとは少し違って、頭の中で組み立てられる想像の世界の話なので、台本を読んだときに自分の子供の(ときの)部屋を思い出しました」と話す。
今作は、3Dでカラフルに造形されたレゴの世界に加え、日本語版では8人で150以上のキャラクターを吹き替えたことも話題だ。森川さんはエメット以外に、スーパーマンなど六つのキャラクターを演じたという。8人で150以上のキャラクターを担当したという話を聞き、「ちょっと大変だなと思いました。演じている時はいいんですけど演じながら役に入り込むと、ディレクションする方のから見て『それはさっきやった』みたいになっちゃうんじゃないかなと。2、3個前にやった役と似ていると、きついと思いました」と当時の心境を明かす。
「変えているつもりでもなかなか難しい。声の音色もですが、トーンやテンポ、しゃべり口調とか、しゃべりでも例えば日本語なら方言っぽいものや標準語ぽいもの、若者言葉だったり、DJ風だったりと組み合わせていけばいろんなパターンはできますが、百何十とかの役で一つ一つを覚えていくのは大変だと思う」といい、「収録が一人ずつだったので、そういう意味ではほかの人たちの苦労話はまったく聞いていません。自分の中だけで大変だったということでした」と笑う。
劇中の世界は“マニュアル”に支配されているが、マニュアル通りに暮らしていれば生活には困らないという、ある意味、現実社会を映したような作品について森川さんは、子供のころのおもちゃで遊んだ思い出がよみがえったという。「当時大人気だった作品に出てくる基地のおもちゃがほしかったのですが買ってもらえず泣き崩れていたら、親が『ほしければ自分で作れ』と方眼紙を投げてきました」とエピソードを明かす。「想像しながらほしかったおもちゃを方眼紙で作った思い出が映画に通じるものがあって、自分で作るというのはオリジナルになるし、誰も持っていない自分だけの世界という面白さがある」と思い出話を披露。その経験から「映画を見た時に“枠”は自分で決めるのではなくて、“枠”を決めずにどんどん遊んでいけば、想像力も含めて無限に際限なく広がっていくと思った。決められた法律の中で暮らしていかないといけないが、その中でも人に迷惑を掛けない範囲であれば“枠”から飛び出していいのかなと」と持論を展開する。
そんな森川さんが初めてはまったポップカルチャーは「マンガ」なのだが、実は読むのではなく「自分で描くこと」に熱中したという。「ノートの切れ端にパラパラマンガを描いたり自分のキャラクターを作ったりと、子どものころから作るのが好きでした。一番最初に描いたマンガが『社長』というマンガで、実は僕が社長という設定(笑い)。社長と部長の2人しか出てこないのですが、部長は当時の親友でした」と笑顔で語る。そして今作を楽しみにしている人に向け、「お子さんも、昔お子さんだったみなさんも、レゴブロックの世界で誰もがヒーローになれる映画ですので、迫力あるレゴの世界に入って楽しんでいただけるとうれしいです」とメッセージを送った。映画は新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1月26日生まれ。神奈川県出身。ブラッド・ピットさんやトム・クルーズさんなど数多くのハリウッドスターの吹き替えなどで知られ、最近では特撮ドラマ「獣電戦隊キョウリュウジャー」のトリン役なども担当。代表作は、ゲーム「FINAL FANTASY 7」のセフィロス役、「M:i」シリーズ のイーサン・ハント役、「スターウォーズ」シリーズのオビ・ワン・ケノービ(ユアン・マクレガーさん)役ほか「NARUTO」「BLEACH」など、洋画からアニメまで幅広い作品に出演している。2011年4月1日に設立した声優プロダクション「アクセルワン」の代表取締役社長も務める。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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