リゾートビジネスを興し、一代で大富豪となったシーゲル夫妻が、リーマン・ショックによって転落していくさまを密着取材で映し撮ったドキュメンタリー作「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」が16日から順次公開される。ベルサイユ宮殿を模した大邸宅を建築するという野望、苦労の連続の人生で勝ち取った夢を手放さなければならなくなった夫妻の葛藤に迫っている。ドキュメンタリー作家のローレン・グリーンフィールド監督は、今作で2012年のサンダンス国際映画祭ドキュメンタリー部門監督賞を受賞。全米のメディアで注目された。
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タイムシェア(共同所有)のリゾート物件を提供する会社で大富豪となったデビッド・シーゲルさんと妻のジャッキーさんは年の差30歳でともに再婚同士。2500平方メートルもの巨大邸宅で、8人の子どもたちと犬と一緒に暮らしている。ボディーガードやシェフ、乳母を雇い、自家用ジェット機で出かけるぜいたくざんまいの日々。ラスベガスに100%自己資産のビルを持ち、次の野望は、米国最大の自宅を持つことだった。フロリダに総工費100億円、ベルサイユ宮殿を模した8400平方メートルの自宅建築中という幸せの絶頂にいた08年、世界最大の経済危機リーマン・ショックが起こる。シーゲルさんの会社はこれまでのように融資が受けられず、巨額の借金を抱えてしまう。資産と従業員を整理し、会社の再起に駆け回る夫だったが、妻はこれまでのぜいたくがなかなかやめられない……という展開。
撮影途中でリーマン・ショックが起き、成功物語がいつしか転落物語になってしまったという今作。トイレが30カ所もある家に住んでいた夫妻が、誇らしげに新しい「城」づくりを語る姿から一転、ペットのふんが転がり、散らかり放題の荒れた家の中で、電気代のことで口げんかが始まる。家政婦は19人から3人に、子どもは公立学校に転校。家の中に入り込んだカメラが、私生活を赤裸々に映し出す。子どもたちや、シーゲル家に仕えるフィリピン人乳母にもマイクを向け、夫婦の人間像を別の角度からも浮かび上がらせる。ズレた発言や金銭感覚には驚くが、この夫婦はどこか憎めない不思議なキャラクターだ。夫婦には、貧しかったころの苦労をバネに財産と地位を築いた、という分かりやすいバックボーンがあるからかもしれない。子どもが育つ環境としてどうなのか……と思っていると、「お金から自由なようで縛られている」と語る冷静な子どももいて、なんだかホッとする。果てなき欲望を、彼らはこれからどう収めていくのだろうか。その後も見たくなってくる。16日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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