1967年にモンキー・パンチさんによって生み出されて以来、マンガ、アニメと多くのファンを生んできた「ルパン三世」。その実写版映画最新作が30日に全国で公開された。メガホンを託されたのは、「あずみ」(2003年)や「ゴジラ FINAL WARS」(04年)を手掛け、その後、拠点をハリウッドに移し2作品を世に送り出している北村龍平監督。老若男女、誰が見ても満足させられるものにするという、本人いわく「なかなかミッション・インポッシブル」な作品に挑み、完成した今、「自信はすごくあります。それはひとえにキャストのみんなが素晴らしかったから」と出演者をたたえる北村監督に話を聞いた。
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実写化のうわさを何年か前に耳にしたときは、まさかその監督が自分のところに回ってくるとは予想もせず、「やめときゃいいのにと思った(笑い)」という北村監督。にもかかわらず無茶な仕事を引き受けたのは、プロデューサーを務めているのが、北村監督が「僕の人生を変えた、誇りに思える作品」と言ってはばからない映画「あずみ」で組んだ山本又一朗さんだったことと、やはり「あずみ」で仕事をした小栗旬さんがルパンをやると聞いたからだ。そのとき北村監督は、「小栗旬が誰よりもキツいですよ。誰がルパンをやるんだといわれるわけだから。その旬が覚悟を決めて挑もうとしているのであれば、僕はベストを尽くそう」と腹をくくり、「最後にはそこにルパンがいて、次元(玉山鉄二さん)がいて、五ェ門(綾野剛さん)がいて、不二子(黒木メイサさん)がいて、銭形(浅野忠信さん)がいる。新しい実写の『ルパン三世』はこうだという世界に観客を連れていこう、絶対それを成し遂げる」と決意したという。
今回、ルパンたちは、クレオパトラ7世に贈られた世界で最も美しいジュエリー“クリムゾン・ハート”を巡って海外の大富豪たちと争奪戦を繰り広げる。ストーリーは、監督が水島力也のペンネームを持つ山本プロデューサーとゼロから組み立てた。もともと物作りに対するアプローチの仕方が異なり、「真逆のことをいい合い、徹底的に議論していく」というやり方の2人。山本プロデューサーからは「リアリティーをベースにしたい」という案も出たという。「でも、リアリティーうんぬんを考えると、泥棒は赤いジャケットを着てはいないとなるし、刀で鉄を切っちゃいけないという話になる」と監督は感じた。
実際、五ェ門については「ビジュアル系バンドのメンバーということにして、ギターケースに斬鉄剣を入れている」という案も考えたという。しかし、「日本中、世界中の人たちの中にそれぞれのルパン像がある。その全員のルパン像に100%合致させることができなくても、ちょっとしたくすぐりのようなせりふだったり、表情だったり、やっぱりここがルパンだろうというところがあると思うんです。そういうことは絶対入れなきゃいけない。そのさじ加減はとても難しかったんですが、最終的にはすごくいい形でできたと思う」と仕上がりに自信を見せる。ちなみに、今回のルパンの赤ジャケットは「アニメのままの真っ赤にしてしまうと実写で撮ったときにやはりおかしい」からと、衣装デザイナーとさまざまな生地を考え、ベルベット素材の深みのある赤に落ち着いたのだという。
北村監督は、臆することなく「僕はルパン研究家ではないので、マンガやアニメのすべてを見たわけではありません。でもそれでいいと思った」と言い切る。その心の中にあるキーワードは「痛快な活劇」。「もちろん、伝えなければいけないストーリーがあるのが映画ですが、見終わった瞬間、ああ面白かった、痛快だった、ルパンだったなと思わせられることが重要」だという思いだ。そのよりどころとなったのは「モンキー・パンチ先生がお描きになった原作のスピリット(精神)」だった。
「ルパンとその仲間たちが、それぞれのキャラクターで動いていくのがルパンの世界だと僕は思うんです」。だからこそ今回は、5人のキャラクターを演じる俳優たちと、それぞれのキャラクターについて話し合う時間を設け、「5人みんなが主役になるモメント(瞬間)を作ることを意識し、そこは結構工夫した」と明かす。その言葉通り、ルパンにマイケル(ジェリー・イェンさん)という敵がいるように、五ェ門、次元、不二子にもそれぞれ戦う敵がいる。銭形警部にもナローン(ウィッタヤー・パンシリガームさん)というライバルがいる。二者の戦いを描くのは、北村監督が得意とするところ。それだけに今回は「ちょっと違うテイストを入れてくる」韓国のアクションチームを呼び、「いつもとちょっと違うトーン」の見せ場を作った。
撮影は、日本とタイで2カ月余りにわたって行われた。日本、米国、台湾、韓国、タイ、豪州、さらにスペインと、何カ国にもまたがった混成クルーによって固められた現場は「キャリア史上、最も大変だったといっていいぐらい」と苦労を打ち明ける。そういった中、中盤のルパンの愛車フィアットと敵が乗るハマーのカーチェイスシーンが、スケジュールの都合でなくなりそうになった。「最初は、ハマーの上で、五ェ門とサーベル(吉野和剛さん)がチャンバラをするという設定でした。でも、スケジュールがずれていったせいで綾野君が来られる日が少なくなってしまい、それを諦めろということになったわけです」。確かに、そのシーンがなくてもストーリーは進む。
しかし、そこは北村監督いわく、「実写だと、こんなアクションをやっちゃうんだという、僕にとっての生命線」だった。北村監督は「フィアットが出てくる以上やる。普通のカーチェイスをやったってハリウッドに勝てるわけがない。だけど普通じゃないよというのがルパンの醍醐味(だいごみ)だし、お客さんが一番見たいのがそういうところ」と踏ん張り、最終的には「ほぼあの日(撮影当日)考えた苦肉の策」で切り抜けた。そのとき、北村監督を後押ししてくれたのが小栗さんだったという。「旬が『絶対に必要だよ、絶対やろう』と言ってくれている限り、僕は間違っていないという思いがあった。彼の信頼があったから最後まで突っ走れた。結果的にあのシーンは、実にルパンらしい、いいシーンになったと思っています」と胸を張った。
米国に渡って6年。その間を「ハリウッドに行った途端、また4回戦ボーイからの始まり。なんのコネクションもない中で、いろいろしんどい目にも遭った」と振り返る。しかし、そのときの経験が今作には生きているという。例えば、ハリウッドでは、作品のクオリティーを保つために、プロデューサーから毎週のように進捗(しんちょく)状況や内容についての説明を求められる。彼らを説得することで柔軟性と説得力が培われたという。「昔の僕には、別にそんなことはいいんだよ、これでカッコいいんだから、とちょっと強引なところが作品作りに出ていたと思います。それが、向こうでいろいろやってきたことで、なるほどね、そういう意見も聞いてみよう、じゃあこうしてみようということが、すごく柔軟にできるようになりました。かつての僕だったら、おそらく、今回の混沌(こんとん)とした現場に対応できず、投げ出していたでしょう」としみじみ語る。
やり切ったと思えるからこそ、今作は特別なのだろう。「エピローグを見ながら、なんて魅力的なルパンワールドの人たちなんだろう。早くもっと見たい、早く続編を作りたいという思いが、こんなに強く出た映画は初めて」というほどの入れ込みようだ。そして、「『2』はすぐにでもやりたいですね。僕らからしてみれば、今回は試行錯誤して、実写映画の『エピソード0』として作ったので、やっとここからなんですよ、彼らを好き勝手に大暴れさせられるのは。そんなふうに思えたのは、ある意味、奇跡だと思っています」と早くも続編への意欲をのぞかせていた。映画は30日から全国で公開。
<プロフィル>
きたむら・りゅうへい 1969年生まれ、大阪府出身。2001年の長編第1作「VERSUS−ヴァーサスー」が世界の映画祭で高い評価を得る。「あずみ」「ALIVE−アライブー」「スカイハイ 劇場版」(いずれも2003年)、「ゴジラFINAL WARS」(04年)などを手掛け、08年、拠点を米ハリウッドに移し、「ミッドナイト・ミート・トレイン」(08年)、「ノー・ワン・リブズ NO ONE LIVES」(13年)を発表。今秋には新たな作品をハリウッドで撮る予定だという。初めてはまったポップカルチャーは「やっぱり映画」。中でも、79年の「ヤング・ゼネレーション」と「リトル・ロマンス」には思い入れがあり、特に「ヤング・ゼネレーション」は劇場で70回くらい見たという。豪映画「マッドマックス」(79年)と豪ロックバンドINXSにはまり、17歳で渡豪、映画を学んだのがキャリアの始まり。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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