スマッシュヒットした「しあわせのパン」(2011年)の三島有紀子監督と主演の大泉洋さんが再タッグした「ぶどうのなみだ」が11日から公開される。夢に破れて、一度離れた故郷に戻って理想のワインづくりに精を出す兄と、地元で畑を守ってきた弟、そして突然現れた不思議な女性が繰り広げる人間模様を、大自然とおいしそうな料理が彩る。北海道でオールロケを行った。
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北海道の空知が舞台。家族の反対を押し切って夢を追うために家を出た兄のアオ(大泉さん)は5年前に故郷に戻り、亡き父が植えたブドウの木のそばの畑で、“黒いダイヤ”と呼ばれるブドウ「ピノ・ノワール」の醸造に挑戦していた。一方、年の離れた弟のロク(染谷将太さん)は、亡き父の小麦畑を受け継ぎ、兄に代わって家と畑を守ってきた。ある日、2人の前に真っ赤なワンピースを着た謎の女性(安藤裕子さん)が現れる。エリカと名乗るその女性は、お酒と料理で人々をもてなした。最初はエリカに対していい感情を持てなかったアオだったが、自分がつくったワインを飲んでくれたことをきっかけに距離が縮まっていく……という展開。
夢に挫折して傷ついた過去を持ち、ワインに人生の再スタートをかけている兄のアオ。「ワインが嫌いなんだ」と言い放ち、どこかわだかまりを抱えている弟のロク。広大な風景にもかかわらず、冒頭は兄弟の関係など閉塞(へいそく)感が漂う。それを打ち破るかのように、一陣の風のごとくエリカが現れる。その瞬間が見事だ。エリカは穴を掘り、初対面の兄弟に対してやや横柄な態度をとるが、シンガー・ソングライターの安藤さんがとてもチャーミングに演じていて、一気に引きつけられる。謎めいた彼女のたたずまいをはじめ、魔法で出したような色鮮やかでおいしそうな料理や、突然始まる合奏(たぶんわざと楽器と音が合っていないという緻密さ)、アンティーク+ナチュラル系の雑貨と衣装も含めて、今作は巧妙に編まれた寓話(ぐうわ)の世界に仕上がっている。統一されたこの世界観に酔えるかどうかが鍵だ。物語の軸には、「土」と向き合うことで自分の人生の土台と向き合う人間の姿と苦悩が描き込まれている。脇を田口トモロヲさん、前野朋哉さん、りりィさん、きたろうさん、小関裕太さんらが固める。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。最近心が震えた映画は、メキシコの女性監督クラウディア・サントリュスのデビュー作「マルタのことづけ」(18日公開)。
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