M-1グランプリ2024 決勝戦
決勝戦 FIRST ROUND 前半戦 1~5組目
12月22日(日)放送分
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の直後に始まるNHK総合の朝の情報番組「あさイチ」(NHK総合月~金午前8時15分)。オープニングトークの「朝ドラ受け」から各種特集、「女性リアル」や「スゴ技Q」などの人気コーナーと女性の知りたい情報が詰まった番組だ。キャスターの人気グループ「V6」の井ノ原快彦さんと有働由美子アナウンサーの本音が飛び出す軽妙なやりとりも魅力。柳澤秀夫解説委員もMCに復帰し、ますます魅力を増した「あさイチ」について、またNHKの若い世代を意識した番組作りについてNHK制作局の海保香織チーフプロデューサーに聞いた。
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−−海保さんがテレビ局を志望した理由は?
そもそも新聞記者になりたくて、新聞社を受けたんですけど全滅したので。NHKも記者で受けたら、向いてないからディレクターにと言われて。
−−最初は「ETV特集」(NHK Eテレ)を担当されたんですよね。この番組は内容が攻めているという印象ですが。
地方勤務を経て、東京に来てからは、教養番組部というところで「ETV特集」を担当していました。「ETV特集」は攻めているときもあれば軟らかい内容のときもあります。当時は月~金曜で毎日やってたのでネタもいろいろ、という状況でした。
−−そのあとに「東京カワイイ★TV」(NHK総合)を担当された。
私が「東京カワイイ★TV」をやることになった当時は、NHKが視聴率の分析をしたら70代以上が多く、若い世代の支持がない!と騒ぎになった時期で、20~40代向けの番組を作ろうという機運があり、いろいろな番組を作った中の一つが20代の女性向けの「東京カワイイ★TV」でした。
−−2008年ごろはそれまでのNHKにはないテイストの番組が増えた印象でしたが。
制作サイドとしてはEテレとか総合の意識は特になかったんですが、Eテレは若い人向きで、総合はシニア向けという印象になってしまうのではなく、総合で若い人向けに作りたいというのがありました。NHK=おじさんというイメージではなく、若い女性にも見てもらいたいという機運が高まっていました。
−−取材では渋谷109に行ったそうですね。
最初は“マルキュー”とは何かを局内でも一生懸命説明したりして(笑い)。取材に行くと女子高生に「NHKって何チャンネル?」とか「NHK、超ウケる!」とか言われて、ウケないでほしいなと思いながら取材をしていました。NHKのBSは全然知られてないし。私は当時30代だったんですが、「お母さんと年が同じ! ウケる!」って言われて。そのお母さんたちもNHKを見てないということが分かり、ショックでした。本当に若い人に知られていないんだなと実感しました。
−−「東京カワイイ★TV」はどういう経緯で始まったんですか?
なぜ“カワイイ”に注目したかと言うと、そのとき国立代々木競技場第1体育館で「東京ガールズコレクション」をやっていて、見に行ったら女の子たちが携帯で洋服を買っていたんですね。「カワイイ!」だけで終わると女の子だけのものなんだけど、何千万円単位で売れていて、これは相当、大きなビジネスになるんだと。
そこで、「カワイイ」で大きなマネーが動くという、いわゆる“ガールズ経済”の最先端の動きを取材して。あとは当時、ジャパンタイムズが記事にしたり、「カワイイ」に海外メディアも注目していて、ムーブメントになっているということをアピールしたら、局内でもビジネス活動としてすごいんじゃないかという話になりました。
−−当時はサブカルが一般化する時期でしたね。
サブカルチャーとよくいわれますが、「東京カワイイ★TV」をやったときも「どうせサブカルでしょ」と言われましたが、「サブじゃなくてマスで、サブと思っているのはあなたたちだけですから!」と局内で番組の説明をした記憶があります。
−−ムーブメントはあっても局内では伝わりにくかったんですね。
テレビとか、新聞とか昔からあるメディアって社内で50~60代が圧倒的に強いけれど、IT業界などですと、20~30代がプロジェクトをどんどん任されていて、スピード感が違う。そのスピード感にわれわれがついていってないなと感じました。
新聞やテレビはおじさんが多くてそういうものだと思ってやってきたんですが、そうじゃない世界もすごく魅力的だし面白い。それに追いついていかないと遅れるよねと思うところもありました。
−−「東京カワイイ★TV」の手応えは?
放送した翌日に海外で中国語訳が出ていたり、放送を見た外国人の視聴者がYouTubeで翻訳をつけたり、ロシアのケーブルテレビが取材したいと電話してきて局のコールセンターが大パニックになったり。インターネットを通じて、海外の人からのダイレクトな手応えがすごく新しかった。
今では、ツイッター上の番組への意見を参考にしている人はとても多いと思いますが、当時はネットの反応はそれほど気にしていなかったんですね。でも絵文字入りの意見が届くようになったり、それまでは視聴者の意向調査というと局が行うモニター調査が中心だったのが、もう少しインタラクティブな感じで届くようになったというのが大きな手応えですね。
−−「東京カワイイ★TV」からの流れで「あさイチ」に?
「東京カワイイ★TV」は5年間担当しました。異動時期だったこともあり、その後「あさイチ」に行きました。
−−「あさイチ」での担当は?
曜日ごとの編責のプロデューサーが8人、その上に統括が1人います。私自身は10日に1本程度、月に2~3本の特集をやりつつ、あとは短い情報コーナーなども担当しています。
−−「あさイチ」の特集のテーマはどうやって決めるんですか?
基本的にはディレクターの提案制です。よっぽど難しいとか以前やったもの以外はあまり(企画を)否定しない。40~60人が集まって毎週提案会議をして、そこでやりたいものをどんどん出してきて。Aっていう提案がA’になったりとかこういう目線でやったら?とかたたきつつ。これダメなんじゃない?で終わることはないですね。
−−女性目線のテーマが目立ちますがスタッフも女性中心?
チーフプロデューサーは8人中女性が2人ですね。スタッフ全員で100人以上いますけれど、女性の割合が半分を超えています。「女性はそれ面白いと思わないのでは」などと言うと男の人が黙っちゃったり。なんとなく女性優位な感じはありますね。
−−「生理」とか「家庭内別居」「セックスレス」など生々しいテーマやダイレクトな取り上げ方が多いように感じます。
女性が「生理休暇の取りかたが疑問です」とか普通に提案してくるので、生理を扱うのもなんとも思わないですよね。女性だからそうなんでしょうね。数の論理で女が勝ってるので、あんまりドキッとしないで出しちゃうっていうのはある。
−−それは狙いなんですか?
意外と狙ってないんですよ。女性ファッション誌などでは普通にやってることだと思うので、それがテレビ番組になっているだけで、女性の中ではそれを取り上げることに驚きはないという感じはします。番組ではネット上で女性限定でアンケートできる仕組みがあって、何人の女性がどんなことで悩んでいるのかがすぐに数値で出せるんです。
−−視聴者層として意識している年代は?
コアターゲットは40代女性です。媚びるわけではないんですが、その人たちが見たいものってなんだろうって。たとえばセックスレスとか生理はみんなの悩みだと思うんですけど、時事問題でも女性からすると何が気になるんだろうと(テーマを)切っていくと自然とエッジが立っていく。
たとえばイラク情勢に関しても、普通のニュースだと現地での死者数や国際政治的なことが中心になりますが、「あさイチ」的には、それをやっても(視聴者から)ちょっと遠いかなと。このまま戦闘が長引くと我々の生活に何があるのか、例えば何の価格が高騰するのかとかはよくやりますね。
「そもそもそれって何だっけ」という話を、恥ずかしがらずに一からやってもいいなというところもあります。
−−10年の番組スタート時は裏に人気番組が多く、朝の情報番組は激戦区でした。
立ち上げのときには(スタッフとして)いなかったので聞いた話ですけど、他と同じことをやっても勝てないと。短いコーナーや特集を連打したりお店情報を紹介するのはNHKだからできない。じゃあどこで勝負するかというと、8~9時台をまたげる、長尺でも勝負できる「力のある」特集でがんばる。あとは「あさイチ」の前にやっていた番組「生活ほっとモーニング」の視聴者が60~70代中心だったので、若返らせて40~50代の女性に見てもらうために、“伝えたいこと”ではなく“知りたいこと”を放送するということを実現するのに苦労しました。
−−数字(視聴率)は意識してますか?
数字は前番組の朝ドラからもらってるのもあるので、そこは差し引いて考えるべきですが、毎分視聴率の折れ線が下がると、それはなぜなのかを考えるようにしてます。引っかかるところが作れなかったんだなと。全体の数で一喜一憂するのではなく視聴者の動きを気にしている。全体の視聴率は朝ドラで悲しい場面があれば上がるので(笑い)、あまり我々がそこに一喜一憂しても意味がないかなと思っています。
−−キャスター(MC)の有働アナウンサーとV6の井ノ原さんのコンビはNHKのこれまでの番組にはないキャラクターですね。
MCにはいつも驚かされます。日々何かを壊そうとしているというか。先日も特番「夜だけど…あさイチ」があったんですが、井ノ原さんたちもNHKではできないようなアイデアを出してくる。「夜だし、朝できないことをやろうよ!」とあえて言ってくる。MCは普通守りに入りがちなのに、今まで自分たちがやってきたことを守りつつ、新しいことをやりたいという姿勢がすごいなと。
−−番組冒頭の朝ドラ受けのコメントは当初は演出だったんですか?
最初は演出ではなく、自然発生的に始まったものだと聞いています。でもMCの朝ドラ受けにどんどん視聴者が共感してくれるようになり、たまに朝ドラうけがないと視聴者から「どうしてやらないの? 今日は録画か?」など、問い合わせがあったり。
NHKのこれまでの番組だと、VTRを作り込むことを頑張りがちなんですが、スタジオでの化学反応を実験しながら作り上げたという感じがあって、視聴者からのメールやファクスやツイッターなどネット上での反応も見ながら放送しているので、視聴者にツッコまれながらやっている感じがします。
−−尺や台本など細かく決まっているこれまでのNHKの番組とは違う?
ハイブリッドなんだと思います。VTRはスタンダードなNHKの作り方をしているんだけれど、NHKらしくないスタジオとか、視聴者のリアルタイムのツッコミが、それを壊していく。私たちもツッコミを楽しみながら放送しています。
ターゲットを40代女性に据えたときに、一番強いのは女性の視聴者で、その人たちがオンタイムで番組に(意見を)送ってくることで、意外と知らなかったことがあったという驚きに(ネタを)絞ってみたら“宝の山”だった。有働アナ自身が40代ですから、そういったところに非常に敏感だったし。
−−その変革はどなたがリーダーシップを取ったんですか?
アイコンとしても立ち上げから関わっている有働アナですね。あとは制作現場の女性が元気でイキイキしている印象です。でもバリキャリ(バリバリのキャリア)って感じじゃなくて、どちらかというと、元気で男性陣をやりこめちゃう、ぐらいの感じはあるかもしれないです(笑い)。
−−女性のツッコミで番組は成立する?
テレビ界はどうしても男性中心になりがちだけど、(「あさイチ」は)本当にいい意味で、“おんなパワー”や“おばちゃんパワー”が出てるので、新鮮に見てもらえてるのかな。民放のラインアップを見てると男性MCが立ってて、男性が仕切ってるのが同時間帯の番組で、「あさイチ」はその逆の視点が出ているのかなと。
−−昔は「はなまるマーケット」(TBS系)などがその役割を担っていましたが意識はしました?
「はなまる~」が終わった(14年3月)あたりで、民放がモデルチェンジしてきたなという感じがあって、私たちもそこは気になりますね。ラインアップを見て、ここはどういうコンセプトなのかとか、どういうことやってるのかなと気にしてます。今回は40代の女性パワーでいこうと思っていても、ずっと同じコンセプトだと飽きられるので。
−−裏番組は気にするものですか?
気にしますよ! NHKも以前は「勝てないし、うちは独自だから」というひねくれた気持ちはあったのかもしれないですけど、なんらかの新しいコンセプトやメッセージを売っていくことをメディアはやっていかないといけないので、新しい何かを打ち出した番組やメディアはすごいと思うし、気になります。
−−海保さんご自身が民放で好きな番組は?
「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(1985~96年、日本テレビ系)ですね! 日テレの土屋敏男Pの大ファンで、学生時代に見て、「これが本当のドキュメンタリーだ」と思っていて。今、自分で番組を制作しながらあのDNAを勝手に引き継いでいるつもりで。リアルなものってすごく面白いという面で、勝手に崇拝しているだけなんですけど(笑い)、影響を受けたという点はそこですね。
−−現在、放送されている番組では?
「がっちりマンデー!!」(TBS系)とか好きですね。ディレクターの方とか見てるとキャラの強い方もいて面白いなと。「東京カワイイ★TV」と同じぐらいの時期にスタートしたので気になって見ていて。テーマは経済なのですが、どこが面白いのかっていう独自の目線がある。
−−そもそもテレビは見る方ですか?
24時間ずーっと見ています。消し忘れて寝るくらい。テレビっ子だったので。
−−テレビ人として必要な資質とは?
うそをつく人だと困るんですけど、山っ気とかちゃめっ気とか強さとか(が欲しい)。優秀な子ってどこでも欲しがられると思うんですけど、それだけではないディレクターが来るといいなと思う。
−−最近のテレビ人はキャラが薄くなってる?
コンプライアンスが重要な時代になっていて、そういう意味では慎重になることは大事なんですが、一方でどこまで踏み込めるのかというのも必要だと思うので、その判断を何年かたってできる人。常に上司の判断を仰ぐことはできないので、自立できる強い人がいいなと思います。
−−若い人は優秀だけれども冒険する感じもあったほうがテレビ界としては面白い?
そうですね。あとテレビもこれから変わっていくので、これまで50~60代が決定の中心だったところも、今後ネットとの融合などで20代向けのコンテンツは、若い人たちが決定していかなければいけない時代が来るかもしれない。その中で、現場で判断できる人を育てないといけない。そういう意味でやや山っ気とか、ややちゃめっ気とかある人だといいかな。
−−これから海保さん自身がやりたいことは?
たくさんあるんです。一つはテレビとネットの融合をちょっと違う方向でやってみたい。テレビの中でネットの情報を出すことは本当の融合じゃないなと思っていて、もっとツッコミ、ツッコまれ、そこで化学反応が起きていく方向のことができないかなと思っています。(ニコニコ動画のような形?)近いです! コメントに対するツッコミなどをリアルタイムで出せるといいなと思いますね。全然まだ対応できてないので、そういうことができたらいいと思います。
<プロフィル>
かいほ・かおり NHK制作局生活・食料番組部所属。「あさイチ」のチーフプロデューサー。1994年にNHKに入局。「ETV特集」や「英語でしゃべらナイト」「ドキュメント72時間」などを担当。一方で、「東京カワイイ★ウォーズ」「NHKスペシャル『追跡!世界キティ旋風のナゾ』」「東京カワイイ★TV」など女性目線でテレビの新機軸を打ち出す。現在は「あさイチ」と特番「夜だけど…あさイチ」を担当。
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2024年12月24日 02:00時点
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