DVD化せず、劇場公開後の自主上映会を含めて40万人を動員したドキュメンタリー作「うまれる」(2010年)の豪田トモ監督と同作のスタッフが再集結して作った映画「うまれる ずっと、いっしょ。」が、22日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで順次公開されている。前作では、妊娠・出産のさまざまなケースを見つめながら、「人が誕生することの奇跡」を描いた。今作では、さらに家族を失うことにも目を向け、3組の家族の姿から生と死を見つめている。豪田監督と、公私ともにパートナーである牛山朋子プロデューサーに作品に込めた思いを聞いた。
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−−父子に血のつながりのない安田家、夫が妻をみとった今家、前作に引き続き出演している難病の我が子を育てる松本家。三つの家族によって、「命の連鎖」が感じられる作品となりました。前作を撮影した後、ご自身にお子さんが生まれたことで、まず「育てる」ということに目が向いたそうですね。
豪田監督:我が子が生まれたとき、父親としてどうしたらよいのか、僕自身疑問に思いました。安田さんが息子さんに血のつながりのないことを伝えるとき、「子どもと向き合って伝える」というとても大事なことを教わったと思いました。安田さん一家のパートでは、どうやって父親になっていくのか、どう子どもを導いていくのかということが出せました。子育てのヒントがいっぱい詰まった映画になったと思います。
−−今回は人生の終焉(しゅうえん)にも目を向けています。なぜでしょうか?
豪田監督:生きることは「生まれる」ことと「死ぬ」ことです。子育てが「子どもが生きる手助けをすること」だと思ったとき、親として「死生観」を持つことが大事なのではないかと思ったのです。子どもに「勉強しろ」と言ってもしないように、親が成長させようと思っても成長はしていかない。親自身も成長することが大事ですが、その一つに死生観を持つことがあると思いました。
−−撮影を通してご自身の「死生観」に変化はありましたか?
豪田監督:大きく変わったのは「遺される」ということについて考えることができた点です。みな「死」について考えたことがあるとは思いますが、遺される側についてはなかなか想像も及ばない。僕自身未知の領域でした。遺された家族がなんのサポートも受けられなく、健康を害したりする場合もあることを知り、いかに遺族を支えるのか、「グリーフ・プロセス」を知ることが大事だと思い、そこが描ければと思いました。
牛田さん:今賢蔵さんの奥様の順子さんが亡くなった1週間後、私も父を亡くしたんです。今さん一家には、家族で支え合うことのヒントをいただきましたね。私の両親も、ちょうど今さんご夫婦のようにとても仲が良かったんです。賢蔵さんに深い悲しみがやって来て、後悔の言葉が出て……というプロセスを撮影しながら、自分の母も全く同じだなと思い、母を支えることを教わった気がしました。同じ立場の者として、話を聞く側に立てたことはよかったと思いました。
−−カメラが一般の方々の日常にすんなりと入り込んでいて驚きますが、出演者にカメラを向けるときに気を付けていることとは?
豪田監督:信頼関係が大事ですね。前作は4組のご夫婦のうち、3組は過去に起きた出来事について語っていて、現在進行形なのは1組だけでした。でも今作ではすべて現在進行形で語るという構成になっているので、より日常に入り込んでいるように見えるかもしれません。相手の話をちゃんと聞く。焦らず時間をかける。決してジャッジやアドバイスはしない。相手を100%以上受け止める努力をすることで信頼につながっていると思っています。日々の生活の中で家族が完全に受け止め合うことはあまりないでしょう。カメラの前で苦しい胸の内を語ってくれる姿というのは、多くの人が相手に求めている本心なのかもしれません。
−−食事のシーンも印象に残ります。家族で食べるシーン、賢蔵さんが一人で食べているシーン、夫婦2人の若いころの8ミリフィルムなど、さまざまな食事シーンを使って大切な人を失った者の心情が見事に映し出されていました。
豪田監督:食事のシーンは一つの家族に一つは取り入れようと思っていました。食べることは生きる上でとても大切なことだからです。亡くなった順子さんが台所に立つ40年前の8ミリフィルムを賢蔵さんからお借りして、デジタル処理をして取り入れました。そのフィルムを最初に見たとき、僕は涙が出そうになりました。とても印象の強い映像なので、どこに挿入するか悩みながら使いました。
牛山さん:賢蔵さんは撮影したまま放置し、全く見ていなかったフィルムだったそうです。映像がよみがえって、とても喜んでいましたね。
−−映画の中で「いい親になりたい」という言葉が印象に残ります。「いい親」とはどんな親だと思いますか?
牛田さん:「いい親」の定義はなかなか難しくて、私たちが感じる「いい親」とは、何かが特別にできる子に育てることとか、いい学校に入れてあげることなのではなく、子どもときちんと向き合えるかどうか、ということだと思っています。忙しかったりすると、私もそうなのですが(笑い)、ついつい我が子の言っていることを上の空で聞いてしまいます。でも幼い我が子が言葉に表しきれない感情を一生懸命に伝えようとしている。その思いを受け止めることが大切だと思います。もちろん、子どもが何歳になっても、それは同じことです。
豪田監督:子育てに正解はないですよね。きちんと子どもと向き合ったからといって、幸せに立派に育つとも限らない。少し前までは、厳しく育てることが親の愛情だと思われていた時代もありました。何がいいのかは分からないけれども、思考停止に陥ってはいけないと思います。
−−ナレーションの樹木希林さんの声が温かくて、とても聴き心地がよかったです。起用理由を教えてください。
豪田監督:声には生き方が出るので、「家族観」「死生観」をしっかりお持ちの樹木さんにぜひお願いしたいと思っていたところ、公式ホームページでキャスト投票した結果、その1位も樹木さんだったんです。
牛山さん:樹木さんは「私は女優だから声で演じることができるけど、素の声でいくわ」とおっしゃってくれました。あの温かい声は、樹木さんのそのままの声なんですね。
−−お二人で映画を作っていく上で共通して大切にしていることは?
豪田監督:「伝える」のではなく、「伝わる映画」を作ることです。人々の関心が集まらなければ、テーマを伝えようとしても伝わりません。前作でも今作でもそうですが、8割方完成したとき、一般の観客の方々にテスト試写を行い、それから編集作業に入りました。伝わっていなかったと思った部分は思い切ってカットしました。僕は自分の親との関係に悩んだ経験から前作を作りました。前作を作ってみて、自分の親が、親なりに愛情を伝えていたのに僕には伝わらなかったのだと思いました。同じように、映画も伝える努力をしないと、人には伝わらないと思っています。
牛田さん:人ごとの映画はやめようと言っていて、見た人のポイントは違っていても、一歩前進できるようなものができればという思いで作っています。前作を見た方から「親とのわだかまりが解けた」という感想をいただいたとき、伝わっている実感があってとてもうれしかったです。
−−2014年までシリーズ化していきたいとおっしゃっていましたが、これからどんなテーマを撮っていきたいのでしょうか。
豪田監督 アイデアはテーブルにいっぱいあるのですが、それを料理できるかどうか……(笑い)。児童養護施設、愛着障害、里親、臓器移植……福祉、教育、医療の分野に興味があります。
牛山さん:豪田監督はもともと「家族=悪」と思っていた人なんです。そんな監督から命の根源を扱う映画を作りたいと言われたとき、衝撃的でした(笑い)。前作で出産の奇跡を見つめた監督自身、ここ4~5年で一番変わったのではと思います。作品を見た人それぞれの気持ちが楽になって、人生を一歩踏み出せるようなものを作っていきたいと思います。
豪田監督:たとえ、家族によって翼をもがれた経験があっても、新しい翼ははえてきます! 親とのわだかまりは改善できるんです。僕は子どもが生まれてからの新しい翼で、富士山くらいの高さまで飛べている気がします(笑い)。今では「家族最高! 父親最高!」と思っています!
<プロフィル>
豪田トモ監督 1973年生まれ。6年間の会社勤めの後、29歳でカナダ・バンクーバーに渡り4年間、映画製作の修業をする。初の短編映画が日本国内、バンクーバー、トロントなど数々の映画祭で入選し、 帰国後はフリーランスの映像クリエーターとして、テレビ向けドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。 2007年、「人と地球に優しい映像」をテーマとした映像プロダクション「インディゴ・フィルムズ」を設立し、代表取締役に就任。 初監督作のドキュメンタリー映画「うまれる」(2010年)が全国で劇場公開され、自主上映会も開催された。著書に「うまれる かけがえのない、あなたへ」(PHP研究所)、「えらんでうまれてきたよ」(二見書房)がある。
牛山朋子プロデューサー インターネットをテーマにしたコンサルティング会社を起業したのち、出版社でファッション誌の編集を担当する。2000年、インターネットショッピングモールを運営する「楽天」へ。おもに企画・マーケティングを中心とした部署を担当したあと、全国で60万部を発行する女性向けのフリーペーパーを創刊し、初代編集長に就任。07年夏、アソシエイトプロデューサーとして日米合作映画に携わったことがきっかけで映像の世界に飛び込む。10年の映画「うまれる」のプロデューサーを務めた。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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