世界各国でのインド映画の歴代興行成績を塗り替えたアクション映画「チェイス!」が5日に公開された。今作は、米シカゴを舞台に、父の復讐(ふくしゅう)を誓う腕利きの金庫破りが、彼を追う刑事たちとの知力と体力の限りを尽くした壮絶なチェースを繰り広げる。メガホンをとり脚本も手がけたビジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督に、アクションシーンへのこだわりや主演のインドのスター、アーミル・カーンさんの印象などを聞いた。
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今作は、バイクや水上ボートなどによるチェースや銃撃戦を盛り込み、これまでのインド映画のイメージを一新するようなアクション大作に仕上がっている。アーチャールヤ監督は「アクションにはスリルをみんな期待すると思うが、スリルを求める上で効果的なのはチェースのシーンだと思う」と切り出し、「主人公はサーカス団の天才トリックスターですが、主人公が乗る変形バイクもまたアクロバティックなサーカスのイメージで表現しました」と変形バイクのデザイン趣旨を説明。続けて「橋から川に落ちるシーンでは、バイクが水に入るとジェットスキーに変わり、その後、またバイクに変化する。ロアルド・ダールが作った物語にも似ていると思いますが、ファンタジックで見た目が壮大で楽しい世界を表現することができた」とこだわりを明かし、「アクションは本当に難しかったが、ハリウッドの有能なスタッフの協力を得て実現できた」と感謝する。
インド映画としては初めてシカゴでロケを行ったが、「映画の中で人々に目新しいものを届けたいという思いがあるので、そういう意味でもシカゴを選んだ」と選定理由を語り、「(インド映画では)初のシカゴロケということで私が初めて撮りましたが、インド人が映画の中でシカゴを見るのもこれが初めてだった」と満足げな表情を浮かべる。もともと今作を含む「Dhoom」シリーズには「異国情緒を感じさせるようなところ」があるといい、「ドラマチックで劇的な変化があるストーリーのような要素を、シカゴの街そのものが持っているように思った」と話す。さらに「(シカゴの街は)美しいだけでなく、どこか暗くてちょっと怖いイメージもあり、何かが起きそうなドラマチックな街の風景が映画にぴったりだった」と強調し、「(映画にも出てくる)川と橋がとても好き」とシカゴの持つ雰囲気がすっかり気に入った様子だった。
物語は先の展開が読めないほど二転三転していく。脚本について「脚本家としていえば、いつも何か新しい、今までやったことがないことをしたいという思いがある」と語り、「第一に考えるのは、自分の中の物語をどのように表現するか、人々にどのように楽しんでもらえるかということ」と力を込める。そして、「今作のシリーズは人気があるので、本当にたくさんの人々に届けることができるから、依頼がきた時には絶好の機会と考えて執筆した」と当時の気持ちを振り返る。
続けて、「映画を撮る時に何かちょっとびっくりさせたいというような思いがある」と切り出し、「書き手だからではなく、自分が観客だったらそのような映画を見たいといつも思っている」といい、「何も変化がない物語よりも、このような(変化のある)物語に自分が魅力を感じている。さらには人の尊厳とか、威厳とかを大切に描いている」と脚本作りのスタンスを明かした。
主演を務めるカーンさんは、「きっと、うまくいく」(09年)で日本でも知られるが、インドでは“3大カーン”と称されるほどの名優の一人。カーンさんの印象を「インドでは大スターといえると同時に、最も尊敬されている人物」と評すが、「ファンだからただ好きというのと、その人を尊敬するというのはまったく違うもので、みんな盲目的に大好きなわけではない」という。その理由を「彼は社会問題にも発言をしているが、そうやって背負っている社会的責任を理解してファンは見ている。そのような人はインド人でもまずいない」と称賛する。
役者としてのカーンさんについては、「とてもプロフェッショナルな人で、映画人としては彼のような人と仕事をしたいと思う」と絶賛し、「スターでありながらスター然とせず、それこそよい役者であり、よい人間であるしるしだと思う」と語る。さらに、「彼は演技をするだけでなく映画のために投資もし、とても興味を持って映画に関わっている」そうで、「脚本を渡した時に映画を全体的に眺めて理解する能力を持っていて、自分の役回りだけでなく、映画の全体像を俯瞰(ふかん)して見る力があるという数少ない人です」と役者に加えプロデュース能力にも優れている点に驚いたことを明かす。
ちなみに、カーンさんを起用した理由を聞くと、「真っ先にいえるのはカーンさんが役者として大好きだったからということ」と照れながら語り、「脚本を書いている時は誰かのことを考えたわけではないが、書き終わった時には(サーヒル役を演じるのに)カーンさん以外の役者でできそうな人が思い浮かばなかった」と断言。「役はとても難しいし、彼がこれまで演じたような役とはまったく違っていた」とカーンさんを気遣いつつ、「カーンさんが出てくれたお陰で、作品の信用度みたいなものが高まったと思っている。そういう意味で感謝しています」と語った。
迫力満点のアクションに加え、インド映画ならではの豪華絢爛(ごうかけんらん)なダンスシーンも見どころだ。「ダンスシーンにサーカスを融合させなければいけなかったのが最も大変だった」と振り返り、「準備をするのにも時間がかかるし、(ダンスも)他人がやっていたわけではなく役者にやらせたので、本当に時間のかかる作業だった」と打ち明ける。
今作はインドだけでなく世界各国でヒットを記録しているが、アーチャールヤ監督はヒットの要因を、「ものすごいアクションをやったというのはもちろんだが、一番にいえるのはストーリーがよかったのではと思う」と分析し、「主人公たちの素晴らしい関係性を描き切ったというところだと思う」と自信をのぞかせた。TOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1968年1月25日生まれ、インド出身。監督のほか脚本家や作詞家としても活動。助監督を経験後、2004年に「チェイス!」の1作目となる「Dhoom」で脚本家デビューを飾り、「Dhoom:2」でも脚本を担当し人気を集める。08年にはアクション映画「Tashan」でメガホンをとり、今作が監督2作目。脚本と劇中歌の作詞も担当した。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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