女優の本田翼さんと俳優の東出昌大さんがダブル主演した映画「アオハライド」が13日に公開された。咲坂伊緒さんの同名の人気マンガが原作で、「僕等がいた」(2011年)や「ホットロード」(14年)などの作品で知られる三木孝浩監督がメガホンをとった。中学時代の初恋の相手と高校生になって再会した、本田さん演じるヒロイン吉岡双葉と、彼女の初恋の相手で東出さん演じる馬渕洸の、もどかしくも切ない恋が、仲間たちとの友情とともに描かれていく。恋愛映画が続く三木監督に、今作の演出で意識したことや主演の2人について聞いた。
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今作は三木監督にとって、原作ものの映画化としては4作目に当たる。これまでは「回想録になっていたり、自分の記憶や思い出と向き合ったり、ある種のノスタルジーを感じさせるものが多かった」のに対して、今回はタイトルに「ライド(ride)」とあるように、「今この瞬間をどう生きるべきかという“ライブ感”を意識した」と話す。既刊の原作コミック11巻からエピソードを抽出するに当たっては、そのライブ感を際立たせるよう脚本の吉田智子さんと話し合った。またビジュアルの面でも、とにかく「動く」ということを意識して、「10代でしか出せない躍動感」を表現することに腐心した。
その言葉通り、双葉はいつも走っている。それも一生懸命に。「通学のときとか、そこは走らなくていいだろうというところも走っていますからね」と笑う三木監督。その疾走感に「たとえ間違っても、走ったり動いたりすることで事態を打破していく双葉の姿に心地よさを感じてほしい」と思いを託した。
原作で琴線に触れたせりふを聞くと、「原作のせりふではありませんが」と断った上で、コミックスの帯にあった「青春は間違える」という言葉を挙げた。「それを見たとき、あ、そうか、みんな間違えるよなと、ハッとさせられたんです。双葉は、誰もが行っちゃいけないというところに突っ込んでいくけれど、結果、事態は進んでいる。だから感動する」と指摘する。そして、失敗を恐れることなく前に突き進む双葉に、「失敗から学ぶことは多い。やらないとゼロだけど、失敗して転んでも、前に進んでいればゼロじゃない」と共感を示す。
そんな双葉の姿は、「過去にとらわれていた洸の心が溶かされていった」ように、三木監督自身にも影響を与えた。これまでは原作ものを映画化する際、どの部分を選択するかで原作ファンの心境を考えて「めちゃくちゃ悩んだ」そうだが、今回は「間違えてもいいから自分がいいと思うものを選ぼうという思いに至りました」と打ち明ける。また、吉田さんが書いた台本での、双葉の「一度間違えたらおしまいなのかな」というせりふが胸に刺さったと話し、「すごく好きですね。何度も間違えているあなた(双葉)が言うから、すごく説得力がある」と笑顔を見せた。
キャスティングの際には、普段から「その俳優のパブリックイメージと逆の選択をする方」だという三木監督。その点、今回は主演の本田さん、東出さんの2人が、「それほど色がついていないフレッシュな俳優さんたち」だったため、むしろ2人には「自分とキャラクターの近い部分を広げてもらうよう」に話をしたという。特に「表情がコロコロ変わるところがキャラクターにすごく合っていた」という本田さんには「間違っても動く感じ」を意識してもらったそうだ。
一方、東出さんが演じる洸については「原作の方がもう少し立ち居振る舞いが女慣れしてるニュアンスがある」と話しながら、「それよりは武骨。カッコよくて、ちょっと冷たいけれど、不器用さがあって、でも芯はすごく愛情深いという映画なりの寄せ方」をし、東出さん本来の魅力を引き出すようにしたと語る。
その2人のシーンで三木監督が気に入っている場面として挙げたのは、図書室の窓越しに双葉が洸に、「何してんの」と口パクで話しかける場面と、洸が高畑充希さん演じる成海を警察署に迎えに行く場面。前者については「その手前のシーンで双葉は洸にこっぴどく振られているのに、1日寝て起きたらその悲しみを忘れたかのように彼と友達として接している。双葉のすごく前向きな性格と、洸もまた、双葉がそうやって自分のことを受け入れてくれたことで気持ちが楽になって、彼女にすーっと吸い寄せられていく、その感じが出ていた」と話す。後者については「正直過ぎて失敗するタイプの、でもそうせざるを得ない洸の感情が、(そこに居合わせた双葉を見た時の洸の)目をそらさない演技に出ていた」と理由を説明した。
今作には、洸のほかにも、吉沢亮さん演じる洸の親友の小湊や、千葉雄大さんが演じる洸の恋のライバルの菊池、さらに、小柳友さん演じる洸の兄、陽一という魅力的な男性が登場する。彼らの中で「お気に入り」をたずねると、返ってきたのは「小湊」という答えだった。彼のことは原作を読んだときから「すごく好きなキャラクター」で、「ちゃんと分かった上で道化役を演じている。そうした方がみんな楽しいでしょという、すごく達観した客観性を持ちつつ、今を楽しむために動いている」ところに好感が持てたという。ちなみに高校時代の三木監督を登場人物の中から選んでもらうと、「そんなに人気者になれなかったからなあ(笑い)。誰だろうなあ……」と考えたあとで、「いちばんシンクロするキャラクター」として挙げたのは、意外にも「成海」。「あまのじゃくな感じというか、自分の思いをうまく伝えられず、好きなのにその人を困らせてしまう。そういうところが嫌だなと思いつつ、その不器用さに興味を持つというか……。いってみれば“小湊になりたい成海”でした」と苦笑しながら語った。
原作を読み、「人は、経験を重ねれば重ねるほど失敗を恐れたり、自分を鎧(よろい)で固めてしまったりするところがありますが、失敗しても前に進むことで開けるものがある」ということを教えられたと話す三木監督。映画を見る人たちにも同様のことを感じてもらえたらと願っている。そして、青春映画は、とかく若者向けととらえられがちだが、年輩の人にも見てほしいと勧める。「そういえば自分も10代の頃はこうだったよなとか、失敗しても前に進むことを、自分の年齢でやってもいいんだとか、そういう考え方で今を過ごすことで、また毎日の生活が豊かになるのだと思います。それは、大人の人たちが原作を読んで得られることだと思うので、ぜひ年配の方も映画を見て、そういう部分を感じ取っていただけたら」とアピールした。映画は13日から全国で公開中。
<プロフィル>
1974年、徳島県出身。ORANGE RANGE、いきものがかりなど人気アーティストのミュージックビデオやCMを手がけ、2010年「ソラニン」で長編映画監督デビュー。その後、「僕等がいた(前篇・後篇)」(12年)、「陽だまりの彼女」(13年)、「ホットロード」(14年)を経て今作に至る。「くちびるに歌を」が15年2月に公開予定。初めてはまったポップカルチャーは、テレビゲームの「ドラゴンクエスト」。また、大林宣彦監督の「時をかける少女」(83年)を見て映画好きになったという。当時の感想を「テレビにはないファンタジーと強烈なビジュアルイメージにやられました」と振り返った。
(インタビュー・文・写真/りんたいこ)
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