シンデレラ:ケネス・ブラナー監督に聞く「継母の心の内や王と王子の関係などキャラ造形に腐心」

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 1950年製作のディズニーの名作アニメーションを実写化した「シンデレラ」が25日から全国で公開された。メガホンをとったのは、「から騒ぎ」(1993年)や「ハムレット」(96年)といったシェークスピア作品を多く手掛け、また自らも俳優として活躍するケネス・ブラナーさんだ。誰もが知る「シンデレラストーリー」を、映画ではどのように進化させたのか。ブラナーさんに話を聞いた。

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 ◇「ビッグガール、ビッグボーイに見てほしい」

 「おとぎ話という世界観はそのままに、シンデレラのキャラクターをいかに新しく造型できるか、それを今回試みました」と話し始めたブラナー監督は、今回のヒロインを「知性もあり、聡明であって、ユーモアもある。行動力もある。そして、たとえ逆境と思われる状況であっても、自分自身の確たる生き方を持っている女性」と表現し、「21世紀のシンデレラ」と位置づける。そして「あるがままの自分を愛せるところが彼女の強さだ」と指摘する。

 とはいえ人間、「あるがままの自分」を愛することはなかなか難しい。ブラナー監督もそれは承知している。その上で「でも」と言葉をつなぎ、「この映画が言わんとしていることは、その強さがどこから生まれたものなのかということなのです」と強調する。ブラナー監督によると、エラ(シンデレラ)の家は「自然に囲まれ、周りには動物がいて、父親が仕事から帰って来たときには母親を抱きしめ、また、家の中には絶えず笑い声が響き、家族みんなが楽しい日々を送っている」、いわば「機能不全が多い家庭の中にあって、とてもうまくいっている家庭だ」と説明する。

 そういった世界で生まれ育った人というのは、「往々にして自分が誰であるかを知っているし、自分の世界の中での立ち位置も分かっている」。そのため、「もしかしたら、愛のある家庭環境や、それに近い環境によって、そうした強さは育まれるのかもしれない」との見方を示し、「シンデレラと同じ優しい心を持って人と接することを心掛ければ、その次の世代、またその子供たちも同じように、あるがままの自分を愛するようになるし、何が幸せかも見えてくるのではないか」と話す。だからこそ今回の「シンデレラ」は、「少女だけではなく、“ビッグガール”や“ビッグボーイ”にも見てほしいのです」と呼び掛ける。

 ◇キャラクターの“エモーショナルな歴史”を見せる

 リリー・ジェームズさん演じるヒロインが、従来のシンデレラ像と一線を画する一方で、今回は、これまでシンデレラをいじめるだけの“悪役”だった継母が、ケイト・ブランシェットさんが演じ、心の内を垣間見せることによって共感すら覚える継母に取って代わられている。また、デレク・ジャコビさん演じる王とリチャード・マッデンさん演じる王子との、父と息子の関係が描かれているなど、“脇役”が一味違うことも今作の特徴だ。そこにはブラナー監督の「おとぎ話の映画化だから短縮しなければいけない。しかし、普通の物語で描くのと同じ細やかさで、それぞれのキャラクター造形もしていく」という考え方がある。

 それについて、「国王を演じるデレク・ジャコビのシーンは4シーンぐらいしかない。でもその4シーンが、息子である王子が、“なぜそういう性格なのか”を理解するカギになるのです。継母も同様で、彼女の過去をほのめかすような描き方をした上で、聡明なケイトのような女優がそれを演じている。そうやって可能な限りディテールを見せる、いわば、(キャラクターがたどってきた)“エモーショナルな歴史”を見せることで、王と王子、継母が感じている痛み、そういったものに、我々の思いが至ることができるのです」と説明する。さらに、そういう描き方に「キャラクターを説明する」という意図はなく、「ただ観客の想像力を喚起させられるように描いているだけ」と補足する。

 ◇「素晴らしい演技の生まれ方にものすごく興味がある」

 そういう意識は、長くシェークスピア作品を手掛けてきたこととは無関係ではなさそうだ。「確かにそういう部分はあると思います」と監督は認めた上で、こう続ける。「役者にとっても、素材がより想像力を喚起させる内容であれば、演技もより向上するものです。特に、人間的なディテールに富んでいれば、演技もまた豊かなものになるのです」。そして、「これはもう、僕の趣味みたいなものなんですが」と笑いながら前置きし、「僕は、素晴らしい演技というのがどのように生まれるのかにすごく興味がある。それが、今回のような偉大な女優ケイト・ブランシェットであろうと、それほど経験のない俳優であろうと、等しく興味があるのです。どうしたら人間的に厚みのある演技が生まれるのか。そういう演技こそが、今回のような大作であったり、スペクタクルな要素が強い作品であったりを、より豊かに、見応えのあるものにしてくれるのです。そうでなければ薄っぺらなものになってしまうのです」とたたみかける。

 ちなみに、今回の作品にもシェークスピア作品につながるものは盛り込まれている。それは、継母の連れ子ドリゼラ(ソフィー・マクシェラさん)がピアノを弾きながら音痴な歌を披露する場面で、そのときの曲に「お気に召すまま」の「ラバー・アンド・ヒズ・ラス」を採用している。

 今後、シェークスピアの「冬物語」を舞台で上演する予定のほか、英国BBCテレビ「刑事バランダー」の第4シーズンが本国で今秋放映予定で、映画の次回作については「監督としても、役者としてもまだ決めていませんが、やるとしても割と小さな作品になるでしょう」と話したブラナー監督。最後に今作についてのメッセージを、「とにかく、120%楽しんでいただきたいですね。心で感じてほしいし楽しんでほしい。そして、観客のみなさんにとって、何かを考えるきっかけになればうれしいです」と笑顔で締めくくった。映画は25日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1960年生まれ、英国出身。王立演劇学校を首席で卒業し、ロイヤル・シェークスピア・カンパニーに入団。1987年、劇団ルネサンス・シアター・カンパニーを旗揚げし、数々のシェークスピア劇で名をはせる。また自身の監督作「ヘンリー五世」(89年)で映画界に進出。その後「から騒ぎ」(93年)、「ハムレット」(96年)、「恋の骨折り損」(99年)などシェークスピア作品を手掛ける。ほかに「マイティ・ソー」(2011年)や「エージェント:ライアン」(14年)などのハリウッド大作の監督を務め、出演作には「ワルキューレ」(08年)や「マリリン 7日間の恋」(11年)などがある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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