1971年の北アイルランドの首都ベルファストを舞台に、一人の青年兵士が危険地帯から必死の脱出劇を繰り広げるサバイバルスリラー「ベルファスト71」(ヤン・ドマンジュ監督)が8月1日から公開される。手持ちカメラによる映像が、観客を現場にいるような感覚に陥らせるなど、これまで作られてきた北アイルランド問題にまつわる作品とは趣を異にした仕上がりとなっている。
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プロテスタント系住民とカトリック系住民の衝突によって治安が悪化するベルファストへの赴任を命じられた英国軍新兵のゲイリーは、着任早々、RUC(アルスター警察)を補佐し、敵対派の家を捜索する任務に駆り出される。ところが、RUCの横暴なやり方に怒った敵対派の住民たちが蜂起し、そのどさくさにまぎれ、敵対派の少年がライフルを奪って逃走する。少年を追ったゲイリーは、やがて自分が敵対派のテリトリーに入り込んでしまったことに気付く……という展開。
映画が始まってほどなくして、ゲイリーは追う立場から追われる立場になってしまう。入り組んだ路地を必死に逃げるゲイリーを、後ろからカメラが追いかける。それによって、心はすっかりゲイリーと同化。ゲイリーを演じるのは、アンジェリーナ・ジョリーさんが監督した「Unbroken」(2014年、日本未公開)で主役に抜てきされたジャック・オコンネルさんだ。その一方で、IRA(アイルランド共和軍)暫定派のメンバーの一人、ショーン(バリー・キーガンさん)の存在が印象深い。ゲイリーを捕まえようと躍起になる彼は、いうなれば“悪役”だ。しかし、自分の妹に向けるまなざしは優しく、彼の存在は、置かれた状況が人間性を変えてしまうこと、戦争や紛争がもたらす悲劇を生々しく浮かび上がらせる。
IRA以外にもRUCや英国軍、英国軍の工作員MRF(軍事偵察部隊)、さらにIRAも「正統派」と過激な「暫定派」に分かれるなど、当時の現地の様子を細かく描いているのも今作の特徴だ。その関係は複雑だが、物語の勢いを削ぐことはない。一級のサスペンス劇として見応えは十分だ。8月1日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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