注目映画紹介:「SAINT LAURENT/サンローラン」芸術家の生み出す刹那の美と永遠に続く苦悩描く

「SAINT LAURENT/サンローラン」のワンシーン (C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
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「SAINT LAURENT/サンローラン」のワンシーン (C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

 モードの帝王と呼ばれたデザイナー、イブ・サンローランの愛と欲望と苦悩の10年間を描いた「SAINT LAURENT/サンローラン」(ベルトラン・ボネロ監督)が、4日に公開される。仏セザール賞の10部門でノミネートされ、最優秀衣装デザイン賞に輝いた。自分という“怪物”を抱えるアーティストの光と影を映し出している。

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 1967年、デザイナーとして時代の寵児(ちょうじ)となったサンローラン(ギャスパー・ウリエルさん)は、著名人の衣装やコレクション準備などの過密スケジュールに追われていた。公私ともにパートナーのピエール・ベルジュ(ジェレミー・レニエさん)の目を逃れて、クラブで息抜きをし、インスピレーションを求めてモロッコへ行く。しかし72年には売り上げが減少。それでもベルジュはさらなる事業拡大に乗り出す。しかしサンローランは重圧からアイデアが浮かばなくなり、酒やドラッグに溺れ、恋人にのめり込んでいく……という展開。

 イブ・サンローラン財団の協力を得て製作され、伝記映画の色が濃かったジャリル・レスペール監督の「イヴ・サンローラン」(2014年)とはまた違った味わいだ。映像美や音楽にこだわって35ミリフィルムで撮られたこちらのサンローランは、演じるウリエルさんの魅力が存分に投影されたものになった。シャネルの男性用香水のイメージモデル歴もある美形俳優のウリエルさんは、繊細なアーティスト役にピッタリ。美を追求した果てに退廃に吸い寄せられていく姿を体当たりで演じている。

 最先端のファッションはいずれは去る運命にあるが、アイデアを生み出すことは、永遠に続く地獄のようだったのか……。そこは天才にしか分からない苦悩ではあるが、だからこそ、表舞台が華やかに見える。闇夜の街角の静かなシーンとサンローランの苦悩が対照的だ。世界中に店を出すきっかけとなった71年の春夏と、苦悩の後に生み出した76年の“バレエ・リュス”の二つのコレクションをきらびやかに再現し、その一方で、アトリエのお針子の手作業(本職が演じた!)をアップで切り取って、その刹那(せつな)の美を支える職人の姿も丁寧に描写している。サンローランのミューズ役を「007 スペクター」(4日公開)のボンドガールとなったレア・セドゥさん、晩年のサンローランを、ルキノ・ビスコンティ監督作の名優ヘルムート・バーガーさんが演じている。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで4日から公開。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。サンローランの製品、タオルなら持ってます(泣)。

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