バラエティー番組で後輩芸人たちにいじられたり、年末特番「笑ってはいけない」ではプロレスラーの蝶野正洋さんに強烈なビンタを食らって顔をゆがませたりと、お茶の間の愛されキャラだった“山ちゃん”が、芸名を「山崎邦正」から高座名の「月亭方正」に改名して2年がたとうとしている。テレビ出演の一方、真摯(しんし)な姿勢で落語に取り組む方正さんに落語への思いを聞いた。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
“いじられキャラ”として人気だった方正さんだったが“不惑”の40歳を前にそれまでの人生を振り返ったという。「営業に行ってもやることがなかった。僕の前に出たブラックマヨネーズが盛り上げて、僕はテレビのトークでお茶を濁すんです。そしてその後のチュートリアルがまた笑わせる。僕には1人でできるものがなかったんです」と語る。「これ違うぞ……」とあせりがあせりを呼び、落ち込んだときに、先輩の東野幸治さんに薦められたのが落語だった。
それまで落語には全く興味がなかったという方正さんだったが、先輩に薦められたからという半ば義務感から桂枝雀の「高津の富」を聞いたところ、予想もしなかった面白さに“ハマった”。「それからは“枝雀漬け”ですわ。一日3、4席、DVDも全部買った」と振り返る。
吉本新喜劇にも出演していた方正さんは、新喜劇の座長を考えたこともあった。しかし、落語を何度も聞いて覚えたときに「これは一人でやる新喜劇だ」と感じたという。「その瞬間に『人生でやることが見つかった!』と思いましたね」と振り返る。
「覚えてくると人前でやりたくなってきた」という方正さんは、親交の深い月亭八光さんに相談したという。最初八光さんは「マジなんですか」と驚いたが、父で師匠の月亭八方さんの勉強会を紹介し、月亭一門入りした。
40歳での入門となった方正さんだったが、師匠の八方さんからは「教えることなんかない。20年修業を積んでるみたいなモンや」と温かい言葉をかけられたという。「『壁があったら、う回して行ったらええねん』と言ってくれる大きな方です。ほっとしますし、力みがなくなる。怒られたこともない」と語る。
立川志の輔さんにも稽古(けいこ)をつけてもらった方正さん。志の輔さんに「何で落語なの?」と聞かれた方正さんが、迷いながらも「2年半前に初めて落語を聞いたんですよ」と正直に答えたところ、志の輔さんは「そうなの。それで分かった」と口にした。「山崎邦正の“武器”の一つとして落語をしようとしていると思っていたんだけど違ったんだね。落語に“出合っちゃった”んだね。じゃあしょうがないね」と、方正さんの落語に懸ける真摯な思いをすぐにくみ取ってくれたという。「でもその言葉とも戦うことになりました。本当に僕は“出合った”のか、それとも無理やり“出合った”と思い込んでいるだけなのか……」
25年過ごした東京を離れ、拠点を大阪に移して3年がたった。26日には、前座もなくたった一人で3席を行う「ひとりきりの会」を「大丸心斎橋劇場」(大阪市中央区)で行う。「年に2回はいやなことをやろうと決めてるんです。東京だったら、周りにケツをたたかれたし、休ませてくれなかった。でも大阪は誰もたたいてくれないから、自分でたたかなあかんのです」と決意を語る。
「『蝶野さんのビンタって本当に痛いんですか』ってほんとによく聞かれるんですよ。そんなの痛いに決まってるじゃないですか」と笑う方正さん。その笑顔にはライフワークを見つけた心の余裕がうかがえた。
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