名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
「ソードアート・オンライン」や「魔法科高校の劣等生」など、電撃文庫で6000万部のライトノベルを売ったカリスマ編集者の三木一馬さんが、新会社「ストレートエッジ」(東京都中野区)を設立し、作家のエージェント業に乗り出した。業界最大手のライトノベルレーベル編集長を辞めて、独立した理由について話を聞いた。
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電撃文庫では自由にやらせてもらい、辞める動機はなかったのです。ただ自分がやりたいことが山ほどあったのです。そもそも編集長という管理職は、自分に向いてないと感じていて、作品作りに時間をかけたいという気持ちが強かった。アラフォーでの決断ではありますが、後ろ盾がないところで自分の力が通用するか。人生は1回ですから、外に出て勝負がしたいことが大きいですね。有名作家が別のペンネームで出して、新規のタイトルが通用するかを試すことがあるのですが、その心境が分かるような気がします。
昨年12月に出した私のビジネス本(とある編集の仕事目録)がきっかけか?と言われるのですが、あの本は既に2015年のゴールデンウイークに書き上げたものなので、その時は独立を考えていませんでした。むしろその後の夏ですね。1日は24時間しかなく、仕事の効率化もつきつめると、一人の作家さんにかける時間を減らすしかなくなるわけです。ですが、仕事以外の話をして、そこから新しいネタが生まれることがよくありました。それなのに、要件が済めばすぐ電話をしても切るようになり、逆に私が担当していた作家さんも私に気を使うようになって、私の中で“罪”の意識が積み重なっていました。そんな中、講談社から独立して、作家のエージェントをしているコルクの佐渡島庸平さんと出会いました。編集者が作品に寄り添うビジネスの仕方に、将来の編集者が生き残っていく姿を感じ、その可能性に懸けたいと思ったのです。
このままだと、自分の頑張りとは別のところで“不戦敗”になると思ったのです。新しいことをしようとしたときに既存のスキーム(枠組み)に囲われていて、やれることに自由が少ないと感じたのが一つ。そして出版社の編集社員はすさまじく多忙なのに、インターネットの登場で、実質的に媒体が増えてしまい、クリエーティブな作業にかける時間が減っています。しかしネットには対応しないといけないわけです。私は未来の編集者像が、「媒体を編集する」ことだと思っています。
これまで編集者は、自社の媒体のみを編集していたのですが、これからは媒体の枠を取り払い、複数ある媒体から任意に選ぶ必要があると思います。編集者は決して作家と会社の“仲介業”ではありません。確かに編集者がいなくても自力で売れるスター作家はいますが、編集者がいなかったらブレークしなかった作家もいるわけです。そして現在気になっているのは、ネットを利用するのでなく、振り回されている編集者が多いと感じることでしょうか。編集者がネット小説のランキングを追うこと自体を否定しませんが、本来は編集者が作品を見いだし、それをどうやって売るか工夫を凝らすことが大事なはず。あくまで、ネットはツールの一つだと思うのです。そして新たなコンテンツを見つけ出し、コンテンツの規模を何倍にも増幅させるのが編集者の仕事と思います。
自分が編集をすれば、ランキング以上に売れるようにしたい……と思わないといけません。管理する立場なら、編集のノウハウがあって、ベルトコンベヤー式のほうが分かりやすくて良いのですが、現場はそうはいきませんし、そもそもランキングから作品を選ぶような仕事をして楽しいのかな?と疑問に思います。そもそも「コンテンツを作りたい」と思うのが編集者で、自らの編集のクリエーティブが削がれては不満に思うはずです。
発表後に知人から「ツイッターのトレンドに入っている。お前は芸能人か」という冷やかしのメールが来ました(笑い)。事前にお伝えできなかった人からは、驚きもされたのですが、同時に「応援しています」というメールもいただきました。あと公式ホームページに「私のイラストを見てください」「小説を見てほしい」という問い合わせも30通ほど届きました。本当にありがたいことだと思います。
資本金は全額自分で出しました。正直、他の方に「出資してください」と持ち込めば、していただけた自負はあります。ですがミスをして自分が責任を取るような形でないと、辞めて独立した意味がありません。
--社外取締役に、KADOKAWA在籍時に三木さんの上司だった鈴木一智・アスキー・メディアワークス事業局統括部長が入っています。
独立したとはいえ、引き続き電撃文庫もやっていくわけですし「事業報告をするから」と私からお願いしました。その方が関係者のみなさんに安心していただけるし、「ケンカ別れをした」と誤解されなくなりますからね。
私が会社を出ることが、作家さんにとっては“裏切り”にもなりかねないので、丁寧に事情を説明し、検討期間を付けて条件提示をしました。正直、契約作家ゼロも覚悟していたので、こんなにたくさん同意してくれるとは思っていませんでした。
最悪の事態を想定しない経営者は、会社をつぶしちゃいますよ(笑い)。
僕と理念が一緒でかつ「三木より面白い本が作れる」と言い切れる人は、ぜひ社員として来てほしいですが、そう断言できる人はエース級編集者のはずで、私と同じように独立を考えるでしょうから……(笑い)。
今は社員が私1人なので、手いっぱいですね。増やすにしても、著名な方や既に活躍されている方との契約は考えておらず、ゼロから発掘したいと思っています。理想は、最初は無料でネットに公開されて、電子書籍で扱うときに最低価格の99セントに設定して売り出してヒットした「火星の人」(映画「オデッセイ」の原作)です。そういう作品を見つけて、広げていくのが編集の仕事と思っています。ただ新会社では、電撃文庫時代とは違い、新人賞がないから、そこが課題ですね。まずは今の契約作家さんにしっかりと寄り添い、自分の基盤をしっかり作った上で考えたいと思っています。
--今後は?
ここ数カ月は出費だけの生活になりそうで、年収は4分の1になりました。まずは電撃文庫の編集者の仕事もがんばりつつ、新たなるチャレンジに動いています。現在はゲーム会社、ビデオメーカー、レコード会社と協力して、映像やゲーム、紙媒体などざまざまな新規のプロジェクトが現在8本動いています。今年中にはどうにか1本は形にしたいですね。
◇プロフィル
みき・かずま=徳島県出身。2000年に上智大理工学部を卒業後、旧メディアワークス(現KADOKAWA)に入社。01年に電撃文庫編集部に配属されると「灼眼のシャナ」や「とある魔術の禁書目録」などを担当して、次々とヒットさせた。14年から電撃文庫の編集長。16年3月にKADOKAWAを退職し、4月からストレートエッジを設立、社長に就任した。
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2024年12月22日 19:00時点
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