小幡文生さんの人気マンガが原作で、俳優の竜星涼さん主演で実写化した映画「シマウマ」（橋本一監督）が全国で公開中だ。美人局（つつもたせ）で金稼ぎをしていた青年が、ヤクザを引っ掛けたことから闇へと堕（お）ちていき、他者に受けた屈辱などをあらゆる方法で昇華させる「回収屋」として禁断の世界へ足を踏み入れていく姿を描く。主人公の倉神竜夫／ドラを演じた竜星さんと、回収屋の一員で奇抜なメークを施したアカ役を演じた須賀健太さんに聞いた。

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　◇超問題作に竜星・須賀ともに「すごい挑戦」

　今作は、現代社会の暗部を切り取り、身近に潜む闇をあぶり出すという強烈な原作の世界観を見事に表現している。脚本を読み、竜星さんは、「素直に面白いと思いましたが、これを映像化するの？と」と思い、「台本からすさまじいパワーというかエネルギーを感じましたが、過激さゆえに映像化を迷いそうなもの。これをやろうと思っている製作陣はすごく挑戦をしようとしていると思いましたし、その挑戦に自分も乗っかってみたいという気持ちがあった」と振り返る。

　一方、台本を読む前に原作に目を通していたという須賀さんは、「絵の破壊力がすごく強かったので、そこは映画としても出したいというのは僕自身も思っていた」と切り出し、「台本のト書きでは、1行で“割りばしがたくさん刺さっている”など、簡単というか普通に書けるけれど、（映像を）想像すると、どうするんだろう、これというシーンがたくさんあったので、そこに対するワクワクのような気持ちはあった」と語る。

　そして、「今の時代、これを進んで実写化するのは、映画界としてすごい挑戦だなと思いました」と須賀さんが言うと、「（映画界への）パンチング」と竜星さんも同意する。

　◇イメージを覆すような役を見てもらうのが「楽しくて仕方ない」

　特撮ドラマ「獣電戦隊キョウリュウジャー」などの竜星さんと子役時代から活躍を続ける須賀さんは、共に今作で爽やかなイメージを覆すような役に挑戦している。「そもそもアウトローのような作品が結構好きで、こういう役はやってみたいと思っていた」という竜星さんは、「実際やってみて、自分が好きな世界に飛び込むのは難しいとも思わされたけれど、やっぱり楽しいし好きだと実感する瞬間が多かった」と充実感を口にする。

　今作のような世界観が好きな理由を「竜夫（ドラ）も必死に生きているけど、ちょっとカッコつけている部分もある。それがやっぱり男としていいのかなと」と竜星さんは語るも、「それを実生活でしようというわけではない（笑い）」と慌てて自分で自分をフォロー。そして、「学生たちが不良にちょっと憧れるみたいな気持ちが、どこか残っている部分があると思う」と自己分析する。

　目の周りを真っ黒に塗った奇抜なメークをしたアカを演じた須賀さんは、「アカは特殊で狂気性が前面に出ていて、絵で見たときのすごさが強いマンガ的なキャラクター」と印象を語り、「（アカが）動く難しさをすごく感じて、安っぽく見えないようにというのに気を付けた」と説明する。さらに、「監督から振り切ってやってほしいということだったので、自分が思っていたより4、5倍レベルアップさせたハイテンションな感じで演じた」という。

　アカのような役を演じることについては、「お客さんが思っているように、僕の中にもこういう役のイメージがあまりなかった」と須賀さんは本音で語り、「ある程度の正解というか、役に対する自分の理想みたいなものを作るのも難しかった。どこに着地するのが正解なのか分からないままやっていたときもあったので、お客さんの反応を見るのが一番怖くもあり、楽しみでもあります」と感慨深げに話す。

　須賀さんの発言を聞いていた竜星さんも、「（今作の役を見てもらうのは）楽しみで仕方ない」とうなずき、「作品自体もそうですが、賛否両論あっても全然いいと思う。あの須賀健太が、あんなせりふ言わないよなとか思ってもらえたら（笑い）」というと、「理想としてはそれ（賛否両論）が一番です」と須賀さんも力強く応える。

　◇主演の竜星に対し「絶対的な信頼を持ってやっていた」

　互いに演じている姿を見て、「素直に楽しそうに生き生きと伸び伸びとやっているから、それが本当にいい」と竜星さんは切り出し、「（自分の演技も）相手によって変わってきますから、そういう面ではだいぶ助けられたし、リスペクトする部分もたくさんあった」と感謝する。そして、「僕は僕でドラをやっているけれど、アカみたいな役もすごく楽しそうだなと見ていて感じたし、そういうのもやってみたいと思った」と須賀さんをたたえる。

　一方、須賀さんは、「濃い登場人物が多い中、キャラクターとして一つの雰囲気みたいなものを持っていないといけないのがドラだと思う」と分析し、「その部分に関して、竜星くんに対しては絶対的な信頼を持ってやっていたので、僕はアドリブをたくさんやらせてもらえた。本当によかったというか、ちゃんと反応してくれたのでありがたかった」と敬意を表す。すると「そりゃ反応するし、反応しないとだめでしょう（笑い）」と竜星さんはすかさずツッコミを入れていた。

　ドラとアカの関係性は特殊だが、ドラがアカをどう思っているかはあまり描かれていない半面、アカのドラに対する憧れのような気持ちが見え隠れする。「映画ではドラとアカがラブストーリーではないけれど、結局切っても切り離せない仲という感じが出ればいいなと思っていた」と竜星さんが話すと、須賀さんは「アカのドラに対する思いは“愛憎”という言葉に尽きる」と表現し、「（アカとドラの）過去のある出来事や、“僕の知らない僕に気付かせてくれた”という趣旨のせりふもあり、ドラに対して何重にもいろんな思いを持っている」とアカの心情を分析する。

　続けて、「言葉では表せない思いがアカにはあるけれど、『ドラちゃんを殺すのは僕だ』というところに行き着くまでの心情みたいなものは、映画の中でしっかり描かれている」と説明し、「アカが思っていることは決してどれか一つ、何かの感情という単純なものではなく、混ざり合った結果みたいなもの」と自身が演じた役の複雑な内面を語る。

　愛憎という言葉から、理想の女性像を改めて聞くと、「笑顔が可愛い子」という須賀さんに対し、「分かる！　笑顔は大事！　笑顔は目元がクシャッとなる子が好き」と竜星さん。「確かにいいかも。一緒にいて楽しそうにしてくれる人がいい」と須賀さんが同意すると、「目元クシャッは、これから言っていこう（笑い）。“目元クシャッと女子”が好き」と竜星さんはちゃめっ気たっぷりに話す。それに対して、「そんなにはやらないと思う」と須賀さんは笑顔ながらも冷静に指摘した。

　◇「賛否両論ともに拡散してほしい」と竜星は自信

　今作で新境地を切り開いた竜星さんと須賀さんの2人は、竜星さんはパリコレ、須賀さんはバラエティー番組など新しいことに挑戦を続けている。「最近思うのは、挑戦をしていかないと自分が楽しくない。自分が面白いとかやりたいとか、いいなと思うことは、自分から発信や挑戦していかないと、結局つかめなかったりする」と持論を述べる竜星さん。「挑戦するということはすごくいいこと」という須賀さんも、「役者は、いろんなキャラクターになれたり、断片的だけれど実在するいろんな職業を体験できたりする。すごく刺激的だと思うけれど、説得力を出すのには日々どういうことをするかということだと思うので、いろんなことをやればやっただけ力になるのかなと思います」と力を込める。

　過激な描写も数多くある今作だが、「何も考えずに見ていただける映画」と須賀さんは紹介し、「日頃、生きていく中では感じてはいけないような気持ちを、見ている時間だけは感じていただいていいし、楽しんで見ている自分に気付く面白さみたいなのがすごくあると思う」と魅力を語り、「作品を見て自分がどう思うのか、みたいなところを楽しんでほしい。あとは最初の女装姿も見てほしい（笑い）」とアピールする。

　竜星さんは、「ポスターなどにも書かれている“絶対に読んではいけない”という言葉の意味を、映画を見て確認してもらうのが一番」と話し、「ただただ、この世界観を純粋に映画館という箱の中で、一つの“アトラクション”のように楽しんでもらうことが、映画を作った側の僕らからすれば“救い”になると思う」と持論を展開。そして、「賛否両論どちらも拡散してもらうのが面白いし、素晴らしい役者の方たちが、ほかの映画やドラマで見せない表情を見せていると思うので、そこは十分楽しんでもらえると思います」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。

　＜竜星涼さんのプロフィル＞

　1993年3月24日生まれ、東京都出身。2010年、ドラマ「素直になれなくて」（フジテレビ系）で俳優デビュー。その後、「ハンマーセッション」（TBS系）、「秘密」（テレビ朝日系）などに出演し、13年に特撮ドラマ「獣電戦隊キョウリュウジャー」でドラマ初主演。出演した主な映画は「ライアーゲーム－再生－」（12年）、「劇場版　獣電戦隊キョウリュウジャー ガブリンチョ・オブ・ミュージック」（13年）、「orange」（15年）など。16年には出演した映画「泣き虫ピエロの結婚式」「Bros．マックスマン」などの公開を控える。

　＜須賀健太さんのプロフィル＞

　1994年10月19日生まれ、東京都出身。99年に子役でデビューし、2002年に「SMAP」の香取慎吾さんの主演ドラマ「人にやさしく」（フジテレビ系）に出演し注目を集める。その後、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ3部作などのヒット作や話題作に出演。06年には「花田少年史　幽霊と秘密のトンネル」で映画初主演を果たし、第30回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。最近の主な出演映画は、「生贄のジレンマ」（13年）、「青鬼」（14年）、「スイートプールサイド」（14年）など。16年には出演した映画「ディアスポリス－DIRTY YELLOW BOYS－」「バースデーカード」などの公開を控える。

　（インタビュー・文・撮影：遠藤政樹）